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おねショタ108式の104『おねえちゃんは……大好きだ』

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どこかにいるお姉さんと少年のはなし。

少年は姉が苦手だった。

スカートは膝丈で制服を着崩すことはなく、肩に掛からない程度の黒髪ストレート。フチあり眼鏡。そして、その奥の冷たい目。
いつの頃からはわからないが、姉にしゃべりかける度その瞳が射すくめるように彼を突き刺す。
学校では明るい方の少年も、家にいるときは憂鬱で、来年の進学を控えて与えられた自室にこもりがちになっていた。

ある日。この前まで姉と共同で使っていた部屋に置いたままだったマンガ本をふと読みたくなり、まだ帰って来てないであろう現・姉の部屋に向かう。
設置だけはしてある鍵は掛かっていなかった。少年は少しばかり罪悪感を感じながら何となくそっと開ける。
マンガ本を取るだけ……実際その通りだ……それだけだと言い聞かせながら。

部屋の隅にある本棚には前並べた通りマンガが有ったが、手前に何でもない私物が置いてあった。それを動かしたら悪いと思って慎重に本を取る。

「何してるのよ」

声が響いたのはそんな時だった。

後ろに居たのはいつも通り、頭の先からつま先まで乱れのない姉。
しまった。と少年は狼狽する。いや、理由はある。変な物は触っていないし、そもそも姉は物を散らしてなどいない。しかし、姉弟とはいえ他人の部屋に勝手に入るのは。
そうぐるぐると考え声を詰まらせる彼に、姉はカバンを取り落とし、後ろ手にドアを閉めてにじり寄る。

「ついにわたしに興味を持ってくれたのね」
「はい?」

夕方の光がカーテン越しに姉の顔を赤く照らす。
そこには、見たこともないほど歓喜に塗れた少女の貌が有った。

「あなたの事が好きで好きで好きでたまらなくて大好きで、それを押し込んでどうしたらいいか分からなくて冷たくしていたけど、あなたがわたしの部屋に忍び込むくらいやっぱり好きで大丈夫なのね?」
思考が飛躍した判じえない台詞が彼女の口からもれる。

「ああ、そうだ。探してるのはこれね」
そう言うと彼女は本棚の横の衣装箪笥から丸まった何かを取り出し、少年に渡す。
「それとも……脱ぎたてがいいかな?」

それは、パンツだった。

「いや、いやいやいやいや、違う。僕はマンガを取りに来ただ「おねえちゃんこと嫌い?」

眼鏡を外し、すこしだけ虚ろな瞳が少年を撫でる。

「傷つけてたのはわかってるの。でもわたしは、あなたと仲良くなりたい」

姉は、上着を脱ぎ始めていた。

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。