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パルプアドカレ2022

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パルプで赤い爺さんを撃ち抜け! 今年もやるぜパルプアドカレ。
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#パルプ

クリスマスの約束 #パルプアドベントカレンダー2022

 私は待っています。あの人を。行ってしまった、帰ってこないあの人を。  ええ、いい人だったとは言いません。頭は良くない、甲斐性もない、世渡りもうまくない。かといって優しい人でもありませんでした。  私がそんなあの人と一緒にいたのに理由なんてありません。ただ、なんとなく、一緒にいた。離れる理由がなかったから、それだけ。  強いて言えばその方が便利だったから。  この街では一人でいるよりも二人でいた方が、生き延びる可能性が高くなります。何かを手に入れるのも少しだけ簡単になります

劇場版 クアドラプルプレイ ドブキュア~聖夜に響け、魔法のメロディ~ #パルプアドベントカレンダー2022

 冬場のドブヶ丘では、屋外で夜を過ごすことは死を意味する。ドブ券は屋内で過ごすための命のチケットとなり、幸運な住人たちは安く過ごせる酒場に殺到する。  そのため今日も酒場「アンディフィート」は満席だった。 ◆◆◆ 「店長、3番さんにホットビールとポテトサラダベーコンマシマシ。16番さんに目玉ブドウ焼。87番さんに生命の水おかわりで」  顔色の悪い店員が両手いっぱいにグラスを抱えてカウンターにやってきた。よく観察する者がいれば、その右手が白く曖昧に蠢いているのがわかるだろう

ジェド・マロース 終末の郵便屋 #パルプアドベントカレンダー2022

 皆殺し戦争が終わり、永い冬の時代が始まった。英雄になどなれなかった一兵士の俺は、故郷にも帰らず、一人で当てもなく放浪の旅を続けていた。  飢えと凍えに怯え、相争い、緩やかに壊れていく終末の世界を。 ――――――――――  20XX年、ユーラシア大陸。かつてロシアと呼ばれた国のどこか。  道路から外れた山の中。痩せた針葉樹の木立を分け入り、スノーシューと両手の杖で雪を掻き分けひたすら歩く。新雪は柔らかく、木立のこちらから山の奥に向かって、人の物ではない先客の足跡が点々

往生!月面コンビニ事故物件 #パルプアドベントカレンダー2022

月に人間が住みだした経緯についてはWikipediaでも見てほしい。そこには住みだしたものの月の不便さにあっという間に過疎った経緯も書かれているはずだ。 デイリーヤマギシ モスクワの海店は今日も客がこない。その上、事故物件なので出る。 今だってヘルメットの残骸を頭に引っかけた黒焦げの人影が店の中をうろうろしている。 ほんの数年前、ここモスクワの海にポリミテ星人の船が軌道計算の誤りで墜落した。もちろん乗員は即死だ。墜落現場のクレーターを含む土地は安く買い上げられて日系人の居住