発狂頭巾二世 ep.32 レガシー・オブ・ザ・マッドネス
発光灯が青白く照らし出す書物棚の壁の向こうに、その男はいた。
「八」
貝之介は一歩踏み出して、男の名を呼んだ。
呼びかけに、八はゆっくりと振り返った。
「遅かったでやすね」
ぴちゃり、と八の自立繊維草履が水たまりを踏んだ。水たまりを構成する紫色が自立繊維の力場から逃れるように空白を作った。紫の液体は貸本屋、馬鈴の亡骸から流れ出た人工血液だった。胸につきたてられた非振動カタナの傷口から紫色の川はなおも流れ出ている。
馬鈴の半機械の巨体は八の背後で一つの書物棚を守るよう