見出し画像

人類を二足歩行に導いたのは「サバンナの湿原」

進化を考える時、重要なことは遺伝子変化が起こり、環境圧力がその変化を淘汰とうたする事、それが何万年、何十万年も継続することだ。突然変異と言うが、遺伝子にそれが起こっても、淘汰が目に見える形の種になるには、何万年、何十万年と継続する必要が有る。進化に飛躍は無い、小さな連続性と継続性が重要なのだ。

二足歩行への定説

前編 <<<<<<< 中編 >>>>>>>> 後編

サバンナ説では、大地が隆起して大地溝帯という山脈ができ、類人猿が棲んでいた密林域が、乾期と雨期を繰り返すサバンナ(草原)と、元のままの湿潤しつじゅんな密林域に分けられた。サバンナに追い出された類人猿は、サバンナの環境に適応するために二足歩行になった。これが定説になっている人類二足歩行への進化の道だ。

ここで疑問は、木々がなくなり平地のサバンナに、追い出されたからと言って四足を止めて何故二足で歩くかだ。二足歩行の基礎が木の上で出来たとする樹上説でも、現在のチンパンジーの観察では、地上では四足歩行である。オラウータンもすくっと立つが、歩く時は四足である。

チンパンジーが立ち上がる時は、草や低木、岩などの手前の障害物を見越す時、あるいは少し遠くの正体不明の物をいぶかしがる時だ。しかし、立ち上がっても歩く時は四足になる。また、手に何か持っている時も立ち上がる、その時はそのままトコトコと歩くが、食べるかして手ぶらになると四足になる。四足の猿が二足で歩くのは大変な事のようだ

雄は考え、雌はそれを期待する

この手に何か持っている時を、二足歩行の理由にした説がある。雄猿の雌猿への贈り物説だ。雄が雌の気を引くために贈り物(たぶん食べ物)をして、手にそれを持って二足歩行で歩き、より多くの贈り物を持ってきたものが、雌に気に入られて子孫を多く残すと言う説だ。やがてこの猿は二足歩行の類人猿なると言う訳だ。

確かに、有性生物の雄が持つ雌に対する執着は、食い気よりも強い時が有り、万難を排して涙ぐましい努力をする(聞くも涙、語るも涙)。しかし、それは交尾期の時だけだ。人類は交尾期を無くしたが、自然の中にいた四足歩行の類人猿は、現在の猿類と同様に交尾期が有ったはずだ。交尾期の時に贈り物を持って二足になり、それが終わると四足に戻ると考えるほうが、二足のままより合理的である。

この説のさらなる難点は、雌も二足歩行になる根拠が薄い。贈り物を貰って、それを手で持って立つだろうか。食い物ならその場で食べるだろう。手に持って歩いて、二足歩行になるとは考えにくい。そうすると雌は四足のままか、二足歩行が不得意な事になる。現在の人も猿類も雌雄で歩行に違いはない。贈り物説も樹上説と同様に、二足歩行の起源にはなり難い。

二足歩行は省エネ

サバンナ説には、二足歩行がエネルギー効率が良いからと言うのがある。事実、米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences、PNAS)に掲載された論文によると「人間が2足歩行時に必要とするエネルギーは、チンパンジーが4足歩行時に、必要とするエネルギーの4分の1に過ぎない」とある。確かに餌を捜し回って歩く時には、エネルギー消費の少ない方が有利である。

しかし、この効率は人の完全な二足歩行と、チンパンジーの四足歩行の比較である。四足歩行の類人猿が二足歩行になる過程は、いきなり直立して二足歩行した訳ではない。四足から中腰の常態の二足、または二足と四足を併用した時期が在ったはずである。この時、エネルギー効率がどれほど子孫繁栄、或いは生死の決め手になるだろうか。この時の環境圧力は単に餌捜しだけだったのか。疑問は残る。

ひた走る狩り(走っても省エネか?)

サバンナ説も、アクア説や樹上説同様に、何か決め手に欠く。色々考えている時、今まで歩くことばかり考えていたが、走る時はどうなんだろうと思った。やはり二足走行は四足走行より効率が良いのだろうか。チンパンジーは走る時は四足である。類人猿も四足走行かと思いを巡らしていた時、報道番組ドキュメンタリーで驚くべき記録映像を見た。それは、アフリカのとある村で行われていた、ひた走る狩りであった。

この村では狩りは既に、食料を得るための手段ではなかった。伝統を受け継ぎたいと言うことで、行っているらしかった。狩りには足自慢の若者が参加する。主役は、彼らの中でも一番の走者が務める。方法は実に単純だ。まず、獲物を選定する。年老いたものや病気、怪我けがで弱ってそうなやつを選ぶ。

この時は白い色をした、牛の仲間の大型動物が選ばれた。狩人かりゅうどやりを肩に立て掛ける様に斜めに持ち、水筒の入ったズタ袋も肩に掛け、のんびり草をんでいる獲物えものに向かって、まっしぐらに駆けだした。駆けると言ってもその姿は、電車の時間に遅れそうになった女性が、トコトコと小股で小走りする様な感じある。

獲物との距離は約200m、狩人がトコトコと小走りして、100mほどに近づくと、獲物は狩人に気づき走り去る。動物の方が全然速い。あっと言う間に、狩人は200mほど引き離されてしまい、獲物は立ち止まり、またのんびりと草を食べ始める。狩人は一向に気にすることもなく、獲物に向かってトコトコ走り続ける。

狩人が近づいては獲物が逃げる。獲物が立ち止まると狩人が近づく。この繰り返しが、延々と続く。獲物は狩人の視界の外まで、さっさと走り去れば良いのに何故か逃げない。途中で止まってしまう。サバンナではヌー、シマウマ、シカ類等の草食動物は、天敵が見えていても視界の外まで逃げない。

何故なら捕食者であるライオンやチータ等の猛獣は、遠くにいる獲物は襲わないからだ。猛獣は十分に距離が近くないと、獲物を仕留められない事を知っている。草食動物もこの事を知っているし、本能としてエネルギーの浪費は避けたいので、安全な距離と思えば見えていても止まるのだ。

さて狩りの続きだが、場所はサバンナの草原と言っても、結構起伏もあるし、背丈が人以上あるやぶも点々とある。獲物は時折そこに逃げ込むが、狩人は足跡や獲物が食べた葉や草に残る、噛み跡や唾液を目印に追って行く。この追っかけこが延々と続くと不思議な事が起こる。

それは、獲物が逃げ出す時の狩人との距離が、段々縮まっていくことだ。最初は100mくらい、次に50m、20m、10mくらいとなる。これは、慣れによって起こる。人はライオンなどの猛獣ではない。狩人が近づけば恐怖心で逃げるが、この恐怖は猛獣に襲われる恐怖とは異なる。猛獣と違う得体の知れないものが近づくので、取り敢えず逃げるのだ。槍で殺しに来ているとは理解できない。

従って、狩人が近づく、逃げる、また近づく、逃げるを繰り返していると、その事に慣れて恐怖心が段々薄らぐのだ。加えて、この狩りは、昼下がりの最も暑い時に行う。気温は40度にも迫る暑さだ。狩人との距離が近づくと獲物は休む暇がない。体毛が有り汗もかかないので、体温が上がり熱中症になる。この灼熱しゃくねつの炎天下の狩りは、もう一つ利点がある。それは、ライオン等の猛獣は、暑さを避け木陰で昼寝しているので、安全に狩りが出来る事だ。

一方、狩人は毛のない体に汗をかき、それを蒸発させて体温を下げる。水も時々飲むので、小走りの歩調は変わらない。距離が5m以下になる頃には、獲物はふらふらと朦朧もうろう常態で歩く事になる。この時を待っていた狩人は、槍を獲物の心臓部目掛けて投げる。獲物は崩れるように倒れ、足が少し動いて息絶える。ほぼ即死だろう。

狩人が獲物に腰掛けて一息いれていると、後に続いていた者達が到着する。彼らは休む間もなく狩人と共に、獲物の解体を始める。急がないと日は傾き涼しくなり、猛獣が狩りを始める時間になる。目のいいハゲワシや血の臭いに敏感なハイエナが、直にやって来るだろう。

仕留めた獲物の解体

獲物の肉の分厚い所を7〜80cm四方に切り取り、肩幅に合わせて両側に幅約3cm、長さ約30cmの切れ目を二箇所に入れる。そして皮の下にナイフをいれて皮を浮かす。これが登山バックの肩掛けの様になる。腕をそこに入れ、肩に回すとひょいと肉塊を担ぐ。旨い方法だ。肝臓や食べられるその他の部位を切り取って、編み籠に入れると彼らは足早あしばやにそこを立ち退く。こうして、ひた走る狩りは終わった。

人の毛は大切、特に女性は

ひた走る狩りでは、エネルギー消費の少ない二足走行は確かに有利だ。人は体には毛が無いのに、頭髪や眉毛、脇毛や陰毛がある。頭髪は日光を遮り頭を守る。眉毛は汗が目に入るのを防ぐ。毛の無い体に汗をかいて、体を効率よく冷やすことは、ひた走る狩りには必須の能力だ。脇毛や陰毛は体臭フェロモンで、異性を引きつけるためと、勝手に思っている。

汗が目に入るのを防ぐ眉毛の効果は大きい。眉毛を剃った人と剃ってない人で、テニスの試合をさせる実験映像を見たことがある。汗が出始めると、剃った人は球筋が見えずボロ負けした。狩りでも獲物から見を離せないので、眉毛の役割は重要だったはずだ。

チンパンジーは狩りをして肉食をする

さて四足歩行の類人猿もひた走る狩りをして、二足走行になったのだろうか。そもそも類人猿は狩りをしたのか。
樹木が減り、食料を求めてサバンナに追い出された類人猿が、獲物を追う狩りをしたのは確かだろう。何故なら、現在のチンパンジーも狩りをするからだ。チンパンジーは草食と思っている人も多いが、実は肉食もする。小型のシカ類や、なんと同族の猿も狩って食べる。その様子を記録した映像がある。

映像は森の中で数十頭のチンパンジーの群れが、樹上のアカゲザルの群れを追うところから始まる。アカゲザルは小型で体重が軽いので、枝から枝へと飛び移り木々を伝って逃げて行く。チンパンジーは体が大きく重いので、木の上では動きも鈍いし、枝にも乗れない。従って地上を走り回ってアカゲザルを追う。

アカゲザルも木の上でじっとしていれば良いのだが、チンパンジーは声を出し、木や地面を叩いたりして、威嚇しながら追う。アカゲザルは怯えて、たまらず木から木へと飛び移って行く。しかし、チンパンジーは闇雲やみくもに追い回している訳ではない。知能の高いこの猿達は、皆で連携してアカゲザルを取り囲むように、森のはしの方へと誘導しているのだ。

森の端、つまり樹木が無くなり草原に面する場所に、追い込んでいるのだ。端に来たアカゲザルは、飛び移る木が無くなり、右往左往する。やがて何匹かが地面に落ちる。そこを待ち構えていたチンパンジーが飛びかかって捕まえるのだ。その後は、かなり凄惨せいさんな場面となる。

チンパンジーはアカゲザルを捕まえると、いきなり噛み付くのだ。他のチンパンジーも寄ってたかって、アカゲザルの尻、腕、肩、至る所に噛み付く。まさにアカゲザルの生き喰いである。チンパンジーも大人は、プロレスラー並みの握力と鋭い牙を持っている。まさに猛獣である。しかし、ライオンの様にプロの殺し屋ではないので、獲物の仕留め方は乱雑である。

更に、チンパンジーは同胞を喰う、つまり共食いをすることもある。群れと群れが縄張り争いをする時や、大きい群れが小さい群れを潰そうとする時(ヤクザの抗争みたい)、混乱に子供が巻き込まれて、敵方のチンパンジーに捕まる事がある。その時、なんと捕まえた子供をアカゲザルと同様に喰ってしまうのだ。チンパンジーは芸をしたり、動物園で愛嬌のある振舞で、平和的温厚な動物と思う人も多いが、自然界では危険な猛獣なのだ。

直立二足歩行への道がどん詰まり

人とチンパンジーの共通の祖先でもある類人猿も、狩りをしたと思われる。樹木が無くなり果実や木の実が無くなれば、狩りをして肉食するしかない。しかし、それで人のように二足走行するとは思えない。何故ならチンパンジーは四足走行で、狩りをするからだ。直立二足歩行への道がどん詰まりだ。

更に、アフリカにはパタスモンキーと言う走りが巧みな猿がいる。この猿はリカオン(長距離の狩りが得意な犬の仲間)の様に、何十キロも走って移動する。勿論、四足走行である。類人猿もパタスモンキーの様に進化した方が、合理的では無いだろうか。しかし、現実には二足歩行の方に進化した。何かここに、そうさせる環境圧力があったと言う事だ。それは何か。

オランウータンの小川渡り

頭を捻っていた時、オランウータンについてのある報道映像を見た。この霊長類も知能が高い、また二本足で立つ事がある。道の真ん中で、すくっと立っている姿は、中に人が入っている縫包ぬいぐるみかと思うほど人っぽい。しかし、歩く時は四足である。

この中で、オランウータンが小川を渡る、驚くべき場面があった。この霊長類は水を嫌う。自ら水に入る事は無いが、移動中に小川などがあると水に入って渡る。この場面では、オランウータンは水に入る前に、長さが身長くらいある枯れ枝を取った。そしてまず、その枝を小川に入れて、深さを確認したのだ。二足で立って水に入ってからは、渡る先に枝を刺して深さを探りながら、また杖として体を支えながら、慎重に一歩一歩と進んだ。最後に、対岸によっこらしょっと上がる。なんと人っぽいのだろう。

この映像を見た時は、只々ただただオランウータンの賢さに感心するばかりだった。しばらくして、人のひた走る狩りと類人猿の二足歩行の繋がりを考えていた時、ふとこのオランウータンの事を思い出した。水に入れば、類人猿も立つしかないと思った。しかし、これではアクア説と同じになってしまう。

湿原で類人猿は立ったのか

また暫くすると、TV報道で田植え前の水田で、人々が泥んこ遊びをする様子が紹介されていた。大人も子供も足を泥に取られながら走り回っていた。こう言う場所、即ち湿地で水深が腰ぐらいの高さなら、四足でいた類人猿も二足で立つしかないと考えた。類人猿がいた時代に、この様な湿原は在ったろうか。

現在のアフリカには雨期になると、オカバンゴデルタ2.5万km2、イシマンガリソ3280 km2 、スッド約13万km2等の広大な湿地が出現する。類人猿が四足から二足に移る時期は、気候が大きく変わる時期なので、湿地が存在したと考えるのは妥当だろう。

類人猿の湿地境界域での狩りを想像する

チンパンジーが小動物を狩った様に、類人猿も狩りをしたはずだ。何故なら樹木が減り果実や木の実が減れば、小動物を狩って喰うしか選択肢はないからだ。にわか俄人類学者の狩りの想像は以下だ。

チンパンジーがアカゲザルを狩ったように、類人猿も見つけた獲物を追い立てる。但し、樹木は無いので地上を四足で走り回ることになる。この頃は類人猿と言っても見かけは、チンパンジーやゴリラと変わらない(と思う)。従って、他の地上の四足動物に比べて、類人猿の四足走りは遅く、獲物を捉えるのは困難である。

類人猿は単独だろうと複数だろうと、獲物を逃げることが出来ない場所、例えばどん詰りの穴とか、水辺に追い込む必要がある。しかし、穴では手が届かなければ、獲物はとれないし、都合よく穴に入るとは限らない。一方、水辺は岸が長く伸びているので、追い込み易いはずだ。

サバンナの湿原で類人猿は二足歩行になった

水辺で類人猿はひたすら獲物を追いかける。陸上の小型動物が湿原に追われれば、足が底に着く間は走るが、水が深くなれば泳ぐしかない。当然、泳ぐ速度は遅いので、足が地に着いている類人猿にとって、狩りやすい獲物となる。自然な成行きとして、水深が腰ぐらいになれば、立って走るしかない。

類人猿は小動物や魚を追うだろう。或いは群れで大型の動物を湿原に追ったかもしれない。湿原と言っても浅い所ばかりではない。深い沼の様な部分も在れば、小川が網の目のように入り組んだ所も在る。背の高い水草ややぶがあり、立ち上がらないと獲物が見えない場所もある。類人猿は襲うのに都合の良い場所まで、ひたすら獲物を追う事になる。陸地より湿原を歩き回る事の方が多いかもしれない。

湿原での狩りは、前述したアフリカでの「ひた走る狩り」に通じるものが有る。「ひた走る狩り」で人を有利にする特徴は、二足立ち、二足走行の省エネ、体の無毛による冷却効果、太陽の光を遮断する頭髪、汗が目に入るの防ぐ眉毛等である。これらは全て湿原での狩りにも当てはまる。陸を走るから湿原を走るには連続性が有る。しかも、アクア説の水棲類人猿の様な、水中に適応と言う飛躍はない。類人猿が二足歩行になる必然性があると思う。

以上が、「サバンナの湿原」が人類を二足歩行に導いた理由である。

また毛の話

類人猿の湿原での狩りを想像していて、ふと思った。人のすね毛は、この時に役に立つかも、である。脛毛の目的は、蚊の様な害虫や低木から脛を守るためだ、と言う説を聞いたことがある。湿原では色々な草や低木が、水面に飛び出している。脛毛が分厚ければ、脛が傷つくのを防ぐだろう。

腕の前腕ぜんわんにも毛が有る。分厚い毛は手で湿原の水底を探る時に、前腕が傷つくのを防ぐだろう。同様に、胸毛も腰を落として、何かを探す時、或いは移動する時は、有った方が良さそうだ。毛が有ると言うよりは、元々全身に有ったが、必要な部分は残った、と言うのが正しいだろう。背中に毛が無いのは、日光が当たる部分でもあるし、汗をかいて蒸発で冷やすには、無い方が効果的だからだ。

脇毛と陰毛は、体臭フェロモンで、異性を引きつけるためと思っている。くちひげあごひげほおひげは、生やしている外国人から聞いたのだが、女性が喜ぶとの事だった。どのように喜ぶかは想像に任せるが、ひょっとすると逆で、雄が毛づくろいされて喜ぶのかもしれない。乱暴な雄を雌が手懐てなずけるのに、撫で撫でして使うとか。気持ちよさげではある。

サバンナの湿原と類人猿二足歩行を関連付ける証拠は無い

残念ながら、類人猿が湿原で直立二足歩行に至った、骨や足跡の化石などの物的証拠は発見されていない。人と共通の祖先を持つ現在のチンパンジーやゴリラに、何か痕跡が無いかと考えていた時、ある行動実験を思いついた。しかし、ゴリラは大き過ぎるし、チンパンジーも成獣は危険だ。何よりも両種とも絶滅危惧種で、実験に参加してもらうのは難しいだろが、淡い期待を持って以下に示す。

チンパンジーは湿原で直立歩行するかも実験

参加者: チンパンジー(単体または複数)
実験道具: チンパンジーが好む餌、ロープと餌を乗せる獲物に見立てた船。船は、小型でチンパンジーに怪我をさせない安全なもの。餌は固定でき、船を揺すっても沈めても落ちないもの。また船は、チンパンジーが乗れば沈むが、降りれば浮力で浮き上がるもの。
実験場所: 横15m縦5m程の水溜り付き広場。水溜りは片側が浅く、反対側が深い構造を有する。縦方向の岸側から水深3〜4cmで始まり、端の最深部で50〜60cmとする。最深はチンパンジーが手を水底に着けると、顔が水に浸る深さを目安に調整する。詳細はタイトル画像参照。

実験方法
準備

  1. 陸地で、餌を載せた船を引っ張り、チンパンジーに走って船に追いつき、船上の餌を取ってもらう遊びをさせる。繰り返して、この遊びに熱中させる。

  2. 船を水溜りに引き入れ、チンパンジーに水の中でも船上の餌取りができるよう慣れさせる。室内でなければ、時期は夏が望ましいだろう。

実験

  1. チンパンジーに少しお腹をすかしてもらう。餌を乗せた船を水溜りの岸角に置き、対角線上の最深部に向けて引っ張る。同時に追っかけてもらう。

注目点: チンパンジーは陸地では、手も使い四足走行となる。水深が深くなり、手を水底に着けると顔が水に浸かる様になると、二足走行となるだろう。この時、顔が水に浸かる深さで初めて二足になるか。或いは、それ以前で二足になるか。それ以前の場合、どれくらいの深さで、二足走行を始めるかを観察する。

もし顔が浸かる前、膝ぐらいで先を見越して、立ち上がって二足走行になれば、湿地で獲物を追いかけるのは、二足走行に理が有ると言えないだろうか。類人猿も同じことをしたと言えなだろうか。

二足走行を助けるのは水か

子供の頃、プールや海でボール遊びをした、経験がある人は多いと思う。この時、腰ぐらいの深さのところでは、前に進むのに水の抵抗を非常に受けたはずだ。実験のチンパンジーも水溜りの中では、同じことになっていたはずだ。この抵抗が立って歩くのに役に立っていないかと考えた。

二足歩行と言うと前に進む事ばかり考えるが、直立を保ちつつも前に倒れない或いは止まる、と言う動作も重要になる。歩き始めた人の子供は、必ず手を前に突き出して、転倒時に体をかばうのに備える。因みに、後ろには歩けないので、後ろ向きに押されると、ぺたんと尻もちを着いて体を守る。

チンパンジーにとっても、前に倒れないようにするのは大変な作業だろう。ましてや走るとなると尚更だ。しかし、足の太ももぐらいまで水に浸かっていれば、二足走行時には安定する様に思う。もし地上で餌を空中に吊るして、二足で追っかける様子と、水中での様子を映像に撮って、生体工学的に比較すると、何か分るかも知れない。しかし残念ながら、希少動物のチンパンジーを使っての実験は、得る機会は多分無いだろう。

「人類の二足歩行への道」は、簡単な考察のつもりが、やたらと長くなってしまった。これで打ち止めとする。
長々のご精読、ありがとうございました。

前編 <<<<<<< 中編 >>>>>>>> 後編

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?