痩せ細った家

今は人は人を信じられなくなり、自分すらも借り物や他者のように感じられてしまうような情報の大波に飲まれ、海の藻屑になり或いは遭難し、どこにも帰り着けずに、時代に取り残され、今に硬直する。自分の死を確認する犬、デザートは君の潰瘍だよ、と嘯く木靴を履いた奴隷、キャンドルに照らされた部屋、感覚が麻痺して、制限ばかりの日曜日から引き離されてしまう子供達のニヒリズム、現金なんて今に失うばかりであるし、バカにしたって孤独な部屋の中では無敵なだけで、外に出れば蠅みたいな連中にたかられるだけだし、今に失うだけの若さなんてものを盾にして、愛がなんだ、と騙る奴らの憎しみのカスを集めて出来た成型肉、あらゆる偏執の陰で攪拌される行方を切り取りながら、長らくに攻め合う奴らの悲劇的な証拠を寄せ集め、新たな罪を次々と生み出していくような法や国家や、凡庸でブヨブヨな奴らの刺激的な別れ、君の余生を寄せ集め、あらゆる思いを超過した匂い、老人の目から溢れる日本酒、代理母たちがムカムカした胃の中から、仮説を紡ぎ、新説を唱える。狂騒で爛れた墓、毛虫たちが踊る深夜のバカンス、バビロンが謳う真理なんかに騙されないように、すべすべの感情や、情報を間引きして、辛辣な廃墟に住まう電気的な彼女、痛覚を失った烏賊や蛸や紀元前のウイルスや、カタストロフや悔悟の化石を拾い集める。詐欺ばかりの奴らに平伏すのが社会たるものなのか、と足りない頭が茹だるのだ、と過去が語りかけるアイロニーやら毛玉やらで、頭がいっぱいだから、もう話しかけないでくれないか。

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