縛られないために

声の輪郭が包み込む原始宇宙と神の住処、あらゆる荘厳な歌劇により縁取られた永遠という宿たる身体、乱立する数字や科学の終わりから、からみあう精神が産んだ最初の子供が始めた政治により、この宇宙とは整然としていたのに、その政治により混沌に至ったのだ、と語る川のヌシ、あいまいな正義でカタルシスに至るいつわりの青春が生み出す喜劇や悲劇の隙間風により凍りついた大地、磔にされた過去からここまでの距離を測るマチルダの悲しみを助けるために立ち上がる暗殺者、多種多様な性感帯を刺激するために産まれた君は星占いで嬉々としたり憂鬱になったりと、情緒不安定だけど、そのような様子こそ美しいものではある、と語る童話の中での私が公約なんてものは一切守らぬ政治家の喉仏を抜き取り、それを高く買い取ってくれる老夫婦のもとに走る。世界は一体化を追い求めるばかりだし、とめどない意識の濁流により安定しない空間や次元をとどめることばかりに日夜追われて、そのような恒久的な繰り返しから逃げ出したい一心で、森羅万象に歯向かい、はびこる悪意をちょうど納められるようなブランド物のバッグを持って、カラカラに乾いた街を悲劇のヒロインみたいな顔をして歩き彷徨い、みんなが信用している価値という幻想や、記号的な事実が敷衍して、厭世観に浸るよいな輩がやがてファシズムに至り、核の雨をふらせるころには、君のフラストレーションもフラスコに入れられ、溶解するまでじっくりコトコトと煮込まれるあいだに憎しみは消え去り、濾過されるんだよ、と幼い我が子がカタトニーをひけらかす合間に、この隘路を押し広げるような愛が咲き乱れる。共生を願うウイルスやホコリ、還元されるための優しさが謳う幸せ、どれも共通性すらないから、求められることに吐き気を催す私がひれ伏すものなんかひとつもなくて、生まれてこの方、何にもひれ伏したことのない私は、見上げることも、見下すこともないように、見たものを見たままに調理し、美味しくいただく。

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