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<イベントレポート>スタートアップ経営者が語る「ファイナンスと事業成長の思考」

こんにちは。マネーフォワードケッサイ広報担当の田淵です。

2024年4月17日、マネーフォワード本社オフィスにてマネーフォワードケッサイで初めてのスタートアップ向けイベントを開催しました!

テーマは「ファイナンスと事業成長の思考」。スタートアップ経営者として活躍する3名の豪華なゲストをお迎えし、パネルディスカッションを実施しました。

当日は約50名の方が参加してくださいました!

このnoteではイベントで実施したパネルディスカッションの内容の一部を公開します!

スタートアップを経営している方、もしくはスタートアップの経営に興味がある方はぜひご覧ください。

登壇者プロフィール

株式会社クラス 代表取締役社長/久保 裕丈
東京大学新領域創成科学研究科修士課程修了。2007年4月、米系のコンサルティング会社A.T. カーニー入社。2012年ミューズコー株式会社を設立し、年商20億円規模まで成長させ、2015年に売却。その後、個人で数十社の企業顧問を務める。 2018年、「“暮らす”を自由に、軽やかに」をビジョンに、個人向け「CLAS(クラス)」、法人向け「CLAS BUSINESS(クラスビジネス)」を展開する株式会社クラスを設立。

株式会社Hubble Co-Founder & CEO/早川 晋平
関西学院大学を卒業後、会計事務所で中小企業の会計・経営管理に従事。契約書にまつわるコミュニケーションや管理を円滑にしたいという思いで契約書管理クラウドのHubbleを開発。 世界最高峰のユーザー体験を提供するために、プロダクト開発に取り組んでいる。

マジリス株式会社 代表取締役CEO/中辻 仁
2006年にEYに参画し、会計監査、財務デューデリジェンスなどのM&A業務に従事。 その後、大阪ガス株式会社では、ガス・油田のM&Aや在外子会社の管理を担当。2016年より同社子会社のJacobi Carbons(イギリス)に出向し、決算、ファイナンス、M&A推進、事業管理などの業務に従事。帰国後は、スタートアップ2社(Baseconnect株式会社、株式会社レスタス)にジョインし、IPO業務、VCや銀行調達の業務、事業開発に従事。64億円の資金調達を達成(1社目:10億円、2社目:54億円)。 2023年7月にスタートアップと海外案件の支援を中心としたマジリス株式会社を設立し、代表取締役CEOに就任。

左から中辻様、早川様、当社メンバー中野、久保様

はじめに

本イベントでは、以下の3つの内容についてパネルディスカッションを行いました。

1)資金調達環境を左右する株式市場の動向
2)エクイティだけではない、多様な資金調達手段の活用
3)スタートアップの成長戦略の描き方

登壇いただいたのは、スタートアップ経営者として、まさに第一線で資金調達や戦略策定に取り組んでいるみなさま。現在の日本のスタートアップの資金調達事情の解説から始まり、登壇各社の資金調達方法、そして戦略の立て方を事例を交えてお話いただきました。

1)資金調達環境を左右する株式市場の動向

中辻氏(以下敬称略):スタートアップの資金調達はグロース市場の動きに影響を受けます。そこで、まずはここ数年の株式市場の状況から話していきましょう。

上のグラフを見て分かるように、マーケットクラッシュが、2021年の年末から発生しました。一つの要因は、コロナの影響で量的緩和が行われたことです。その結果、景気が悪化し、利下げ、そして米国バブルが発生しました。その後インフレが加速し、量的縮小で利上げという流れになった訳です。

この流れを受けて米国のバブルは2021年の10月ごろに崩れ始め、市場は大変な状況になりました。そして、その1〜2ヶ月後くらいに、日本市場にも影響が出始めたわけですが、お二人は、当時のこの状況をどう見ていましたか?

早川氏(以下敬称略):Hubbleは2022年3月にシリーズAの調達を完了したのですが、それが影響が出る直前だったという感覚です。実際はマーケットがクラッシュした後だったのですが、2021年12月から翌年2月ぐらいまではアーリーステージのスタートアップに対してそこまでの影響はありませんでした。

久保氏(以下敬称略):クラスでは2021年の8月あたりから、シリーズC的な動きをしていました。一昔前であれば、ある程度余裕を見ても半年位で調達できたところが、1年〜1年半かかるなど、マーケットがクラッシュした後は以前と比較して調達までの期間が長くなった印象がありますね。今は少しずつ調達期間が戻ってきているかもしれませんが、それでも資金調達にかかる期間はまだ長いなと感じています。

個人的には、できれば市場が悪くなる3ヶ月〜半年前ぐらいから見ておいて、ワーストケースに沿って資金調達のシナリオを作らなければいけないと常々思っています

中辻:市場の見方としては、株の投資がおすすめで、自分の場合は先行指標として米国株を見ています。米国株の雲行きが怪しいと、1ヶ月後には日本市場に影響が来て、その大体3ヶ月〜6ヶ月後には資金調達にも影響が来るようなパターンが一般的です。米国株を見ていたので、21年のマーケットクラッシュの際も何となく動きが分かり、早めに対応できました。ぜひ参考にしてみてください。

2)エクイティだけではない、多様な資金調達手段の活用

中辻:先ほどお話した通り、現在はスタートアップにとって資金調達が難しいという状況です。そのような中で取れる戦略としては、「より筋肉質な経営体制に移行する」、「一定のダイリューション(希薄化)を覚悟する」、「エクイティ以外の資金調達手法を検討する」という3つの方法があると思います。

久保さんは20億円の調達をされた際に、デットをうまく活用されたと思いますが、当時はどのような戦略を考えていましたか?

久保:大まかにお話すると、かかるお金の種類によって、当てはめるファイナンスの種類を変えています

クラスのサービスは少し特殊で、「家具家電の在庫の取得」を先に行い、それを貸し出すことで利益を回収するビジネスモデルです。エクイティファイナンスは資本コストが高いということもあり、エクイティによって得た資金を在庫投資に使ってしまうと、事業を回しきれないという懸念がありました。ですから、アセットファイナンスは比較的早めの段階からに活用しています。セール&リースバックで得た資金を在庫に充てた他、タームローンなども運転資本や赤字部分に充当していました。

中辻:専門用語が出てきたので一度解説をさせてください。先ほどおっしゃっていた、アセットファイナンスとは、資産を担保にして資金を調達する手法です。例えば、クラスさんやAmazonなどのプラットフォーム型のビジネスでは、担保になる部分を使ってアセットファイナンスをすることで、100億〜200億レベルの資金を調達できます。

多様な資金調達手段

久保:上の図で言うと、シンジケートローンなどは、通常上場してからでないと無理ですよね。中辻さんはよくやりましたよね。

中辻:ありがとうございます。会場の皆さん向けに説明すると、自分はBaseconnect時代にシンジケートローンといって、協調融資のような形のものを使いました。規模が大きくないとできない調達だったので、交渉が大変だった記憶がありますね。

久保:シンジケートローンを組む場合は、黒字が一定程度出ているか、またはその可能性が非常に高い場合でないと難しいと思うのですが、実際はどのように実施したのですか?

中辻:一つ言えるのは、戦略は綿密に立てていましたね。エクイティの調達がクロージングするまで3年位かけていたので、エクイティの調達の後にデットを始めるまで、入念に準備ができていたのが良かったのだと思っています。

久保:中辻さんが書かれたnoteの中で、融資のときの資料はエクイティの調達と別で作ったと書いてありましたが、投資を受ける場合と融資を受ける場合で、資料に載せる情報として明らかな違いは何ですか?

中辻:いくつかあるのですが、一つは黒字化の蓋然性です。今のマーケットでは黒字化についてVCから確認されることがよくあるのですが、当時はあまり言われていませんでした。ただ金融機関の興味ポイントではあったんです。なので、そういった金融機関が求める情報を把握して、資料に反映していました

3)スタートアップの成長戦略の描き方

中辻:次は資金調達をスタートした時に、どのような成長戦略を描くか聞いてみたいと思います。久保さんどうですか?

久保:そもそもシリーズA・B・Cなど、それ自体の区分けはあいまいな部分がありますが、投資家の目線で求められることにはある程度共通した指標があると思っています。

例えば、シリーズBの資金調達を成功させるためには、当然ながら一定程度事業がPMF(プロダクトマーケットフィット)していることが必要です。具体的には、何かの先行指標を増やしたときに必ず売り上げが上がっていくことや、得たお客様が一定の残存率で残ることが実現できていることが必要だったりします。

さらに、シリーズCになると、黒字化の蓋然性が一定程度見えていることが求められます。こうした投資家に見られている指標を満たせるような戦略を立てています

そして、事業の状態以外にも、経営者が気を配らなければいけないことがあります。それが、パーパスやMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)、人材マネジメントポリシーなどの会社の根幹を作っていくものです。

中辻:こういったものは、どの段階で作るのが一番良いのでしょうか。

久保:理想論で言うと、創業初日のDay1から作った方が良いと思います。必ずしも洗練されている必要はないのですが、ある程度はインストールされているべきです。

僕が1社目を起業した時は、シリーズBが終わった位のところで社内制度を全部作ったのですが、本当に地獄でした。MVVも無かったので社員のベクトルがそれぞれ違うという状態でしたし、明確な賃金制度や給与テーブルも無かったのでシリーズB時点で作り直す必要がありました。その反省から、僕は創業初日からあるべきだという持論に至っています。

早川:これこそ連続起業の経験があるから言えることですよね。

中辻:少し話は変わりますが、資金調達によって組織上の問題が出るケースはありますか? スタートアップ経営者から資金調達後、余裕が出てきてしまって活気がなくなった、焦りがなくなったといった悩みを聞くことがあります。

早川:大きな問題になったことはないですが、程よい緊張感があるからこそ組織に活気が出るというのは確かにありますね。人間は逆境に追い込まれたときにパワーが出るので、だからこそ資金調達によって「乾き」がなくなってしまうのは避けたいです。

僕はスタートアップはサバイバルゲームに似ていると思っていて、例えば、24ヶ月後にキャッシュフローをプラスにしないといけないとか、そういうところが面白い部分だと感じています。

久保:僕も全く同じことを感じています。ベンチャーが一番輝く瞬間は、何かに挑戦しながら、もがいている瞬間で、実はその時が事業の状態も組織の状態も良くなると思っています。なので正直、キャッシュが豊富にあるタイミングは、私自身も経営者として油断してしまうところがあって、だからこそ常に緊張感を持つように心がけています


あとがき

当日は資金調達や戦略の話以外に、ストックオプションやCFOの選び方など、会場から多くの質問があがり、質問を元に幅広くお話いただきました。参加者の方からは「実体験を元にしたリアル話を聞けて参考になった」という声を頂戴し、事後アンケートでは満足度100%をいただいています!

戦略の立て方一つをとっても三者三様でしたが、厳しい状況だとしても、むしろそれを楽しむという根底のマインドが共通しているように感じました。変化が多いスタートアップ業界だからこそ、変化自体を楽しむ気持ちが実は一番大切なのかもしれません。

マネーフォワードケッサイでは今後もスタートアップ向けのイベントを開催予定です。6月19日(水)には今回のイベントでも登壇いただいたマジリス中辻様をお迎えし、ストックオプションに関するオンラインにてセミナーを予定しています!

たくさんのご参加お待ちしています!