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「出産後、いったん仕事をやめようかな」ともし考えているのなら

M字カーブ改善!米国を追い抜いた女性の就業率

「女性の労働力率をグラフにすると“M字カーブ”になる」という話は、多くの人が聞いたことがあると思います。

これまでの日本では、結婚・出産を機に仕事を辞め、育児が一段落した40代以降に復職する女性が多かったことから、育児に専念する20代後半〜30代の労働力率が下がり、アルファベットのMのようなカーブを描いていました

平成時代の30年間は、この“M字の谷”をいかに浅くするか――つまり少子化が進んで労働力不足となることがあきらかな日本の産業社会で、女性にいかに仕事を辞めずにはたらき続けてもらうのか、また、そのような環境作りをするか――が大きな課題でした。
政府の「女性活躍推進」にかんする方針や、育児休暇、時短勤務といった企業の制度も、そのような時代背景から生まれてきたものです。

その甲斐あってか、平成元年に労働力率51.1.%だったM字の底は30年後には74.8%と23.7ポイントも上昇し、M字というよりは台形に近い形に変化。平成29年には、なんとアメリカを抜くまでになりました。

【女性の年齢階級別労働力率の推移】

M字カーブ

※総務省統計局「労働力調査(基本集計)」より

【Word】
労働力人口
満15歳以上の就業者と完全失業者を合計した人口のこと
(学生や専業主婦、高齢者、休職者も含まれています)
労働力率
満15歳以上人口に労働力人口が占める割合のこと

新たに登場した「L字カーブ問題」

ところが、M字カーブ問題はほぼ解消されたものの、近年、非正規雇用の割合が高いことが新たな問題となっています。
名付けて「L字カーブ問題」

【日本女性の就業率(M字)と正規雇用率(L字)】

M字グラフ

※内閣府「選択する未来2.0」
中間報告書より引用のうえ編集部で加工しました

上記のグラフでもわかるとおり、女性の正規雇用率は20代(つまり、学生生活を終えて新卒採用され、結婚・出産を迎える前のタイミング)でピークとなり、その後の出産期以降に直角を描いて急激に、しかも一貫して下がり続けます。
このカーブの形“L字”にたとえられ、令和2年7月に議決定された「骨太の方針」にも解消したい課題のひとつとして盛り込まれました。

非正規雇用者の割合は、日本ではたらく女性全体の56.0%と過半数超(男性は22.8%。令和2年版「男女共同参画白書」内閣府)。非正規雇用者全体の7割以上が女性というデータもあります。

女性の非正規率がこれほど高い理由には、(M字カーブは解消傾向にあるものの)出産を機に退職している女性が46.9%(第15回出生動向基本調査)もいるという現実があります。第一生命経済研究所の試算では、人数にして年間約20万人にものぼるそうです。

出産を機に半数近い女性が退職しているということは「出産→仕事を離れて育児に専念」という価値観がいまだに王道(?)であることを物語っているのかもしれません。

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未来視点で考える「出産退職をする」ということ

ただ、退職するということは、これまでなじんできた、あるいは慣れていた仕事内容や人間関係を手放すことです。
「育児が一段落したらまたはたらくことを考えればいいや」と今は思えても、いざ再就職となると、仕事と家事・育児の両立を、慣れない職場環境、なじみの薄い人間関係の中でスタートさせることになってしまいます。

その選択が、「いまの職場では子育てしながらはたらき続けるのが難しい」と判断したからとか(そのような職場はすぐにでも“働き方改革”が必要だと思いますが…その議論は別の回に譲ります)、「育児に専念したいから」と前向きに考えた結果あれば、もちろんそれは尊重されるべきですが、

たとえば

「辞めない方がいいのかなとは思うけれど、育休復帰後のイメージがわかないんです」
「育児と仕事と家事をいっぺんにやるなんて、ちょっとワタシ的にはムリかな…」
「うちの会社って基本、子ども産んだら辞めちゃう人が多いんですよ〜」
「なんか大変そうだし、彼が辞めてもいいよって言うから辞める方向で」

…といったふんわりとした感覚で出産退職をイメージしている方は、いま一度、よく考えてみることをおすすめします。

慣れない職場で育児との両立はとてもハード

子どもが幼稚園に入園、小学校に入学など「子育てが一段落したタイミング」は、人や家庭によると思いますが、まだ生活自立していない子どもを持つ女性の就職活動は、そうでない女性と比べるとかなり大変であることが予測されます。

もちろん、子どもがいることを理由に雇用されないのは言語道断ですが(女性に対してのみ子どもの有無を採用条件にすることは違法です)、実際に子育てをしながらはたらくことをイメージしたとき、仕事の内容、勤務時間、自宅からの距離など気になる条件が出てきてしまい、「ここ」と思える職場がなかなか見つからない可能性も少なくないと思います。

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おそらく最大のネックとなるのは保育園。待機児童問題が議論されて久しいですが、実際に“保活”をしてみると、自治体や子どもの年齢によっては200人待ち(!)ということもあり、「現代の保活はこれほど苛烈なのか」と驚くようなこともたくさんあります。
出産と同時に会社を辞めてしまうと、再び仕事を始めるときには就職活動に加えてこのハードな保活問題もプラスされるのです。

一方、妊娠前の職場で育児休暇を取り、出産後に職場復帰するケースを考えてみましょう。

育児と仕事の両立は、どのような環境であっても最初はきっと大変です。ですが、知っている職場環境、わかっている業務、なじみのある人間関係へ復職することの安心感やかかるパワーの少なさは、前者と圧倒的に異なることが想像できると思います。
基本的にはときどき職場とコミュニケーションをとり、パートナーと職場復帰後の家事育児の分担を話し合いながら、保活に全力投球することができる。この差はとても大きいと思います。

すべての人が主体的にキャリアを考える時代

このコロナ禍で、多くの人が「“先の見えない時代”とはこのことか!」と実感したと思います。
その不安定な時代はおそらくこれからも長く続き、たとえ大手企業勤務の正社員だとしてもパートナーの仕事がずっと安泰だとは言い切れなくなってきました。

昭和・平成時代のように「結婚・出産をしたら、家事や育児は女性の担当。すこし手があいたらパートやアルバイトで“補助的に”家計にも貢献できるといいよね」という価値観でライフプランを考えると、リスキーなことも多くなってくるでしょう。ダブルインカムで家計を安定させることは、結婚生活上の心配事をひとつ減らせるという点でも重要かもしれません。

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これからは、性別、年代、その他の条件にかかわらず、すべての人が自身のキャリアについて自立的に(自分ごととして)考える時代だと思います。

もちろん、ひとつの組織でずっとはたらき続けることだけが“キャリアを積み重ねる”ことではありません。出産・育児期に入ったのを機に、より両立しやすい職場に転職する、もともとやりたかったことや持っているスキルを活かして独立するなど、生き方はたらき方そのものをシフトチェンジする方法もあるでしょう。
ただ、結婚する・しない、子どもを産む・産まないにかかわらず、“はたらき続ける”という選択肢はぜひ残しておいてほしいのです。

令和2年7月に閣議決定された「骨太の方針2020」では、L字カーブの解消に向け、2025年までに女性の継続就業率70%という目標が設定されました。この目標を実現するために、はたらく女性の正規化を重点的に支援すること、就業調整(※)の解消や女性の子育て負担の軽減に取り組むことが掲げられました。

【Word】
就業調整


パートタイム等ではたらく主婦(夫)が、所得税の非課税限度額や配偶者の雇用保険・厚生年金の加入要件、配偶者手当の支給要件などを意識して、一定の年収額を超えないように、はたらく時間を調整すること。非正規雇用者全体の26%にあたる558万6000人が就業調整をおこなっているといわれています。(総務省「就業行動基本調査」平成29年)

いまだ女性に集中しがちな子育ての負担を軽くする取り組みや男性の育児休暇取得への強力な促進など、「女性が働きやすい環境作り」はこれまで以上に加速していくことでしょう。
社会の変化にアンテナを立てながら、ぜひみなさん、ご自身がどのような選択肢を選べばはたらき続けやすいのかを考えてみてください。

■ 文/西岡 笑子(にしおか・えみこ)
防衛医科大学校 医学教育部 看護学科母性看護学講座教授。順天堂大学医学部非常勤講師。順天堂大学医学部助教、神戸大学保健学研究科准教授を経て現職。母性看護学・助産学とウィメンズヘルスが専門分野。2児の母でもある。mezame女性研修の監修を行う。

(構成/阿部志穂)


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