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女性にこそアップデートしてほしい“ピル”の知識とイメージ

こんにちは。産業保健師の小林智美です。
みなさんは「ピル」と聞くとどのようなイメージを持ちますか?

婦人科で処方される「ピル」は、主に卵巣から分泌される卵胞ホルモン(エストロゲン)、黄体ホルモン(プロゲステロン)と同じ成分が含まれた飲み薬(今回の記事では、呼び方を“ピル”で統一します)。

月経困難症(月経痛)の軽減、過多月経の方の経血量減少、月経不順の改善、子宮内膜症の予防と改善、月経前症候群(PMS)の症状軽減、にきびの改善、卵巣がん予防、子宮体がん予防などに効果があるといわれています。

2008年に月経困難症などの治療薬として「低用量ピル」が保険適応となり、“治療薬”としてのポジションを確立しつつありますが、日本ではその前(1999年)に低用量ピルを“避妊薬”として承認した経緯があるため、「ピル=避妊薬」のイメージを持つ人が多いかもしれません。

ただ、国連の「避妊法2019(Contraceptive Use by Method 2019)」では、日本のピル内服率はわずか2.9%にすぎません。ノルウェー25.6%、英国26.1%、フランス33.1%、カナダ28.5%、米国13.7%といった、欧米のピル内服率に比べると、まだまだ低用量ピル後進国というのが現状です。

しかし、日本で強い「ピル=避妊薬」というイメージなかなか厄介で、“治療薬”としてのピルの普及を、ときに妨げる要因にもなっています。
今回は私がお受けするご相談の中でも多いケースをお伝えしながら、みなさんと一緒に「ピル」のとらえ方について考えていきたいと思います。

そもそも“婦人科”へのハードルが高い日本

初潮を迎えて間もない中学生でも、PMS(月経前症候群)でツラい症状を抱える人は一定数います。なかには心身の不調をきたし、登校できないほどの状態が続いている人も。
そうなると家族も心配するため、同性である母親に付き添われて婦人科を訪れる人もいるのですが、「これで毎月のツラい症状が軽くなるかもしれない」と藁にもすがる思いで来院する娘さんと、母親の意識の間には大きなズレがあることも少なくありません。

どういうことかというと、母親の頭の中には

「婦人科に行ったら、まだ子どもなのに内診されるのではないか?」
「娘が婦人科を受診したことが周囲に知られ、“妊娠している”とウワサされたらどうしよう…」
「あまり知識がない自分が『PMSかも?』などと医師に言ったら、怒られないか?」

…といった心配ごとが渦巻いているということです。

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子どもが心配でたまらないという親としての気持ちが感じられる一方で、母親自身も婦人科になじみがないために、先入観からさまざまな不安を感じていることがわかります。

念のためにお伝えすると、“婦人科受診=必ず内診”というわけではありません。もちろん検査等で必要なこともありますが、多くの婦人科では、内診するかしないかを事前に医師と相談することができます。
また、自分で病状を判断できないから受診するのであって、「PMSのような症状があるんです」と医師に申告したからといって怒られることはありません。安心して受診なさってくださいね。

間違ったイメージが再生産する“ピル”への誤解

さて、今回のテーマは「ピル」ですが、ひどいPMSなどがある場合、婦人科の医師はピルの内服を勧めるケースが少なくありません。

ところが、先ほどのような母親が娘に付き添っていると

「中学生にホルモン剤を処方するなんて!」
「ピルを服用すると妊娠しにくくなるのではないですか!?」
「子どもに避妊薬を勧めるなんて信じられない!」

…といった反応をして、処方を断るケースが往々にしてあるのです。

ピルの処方を受けなくても、漢方薬で代替するなどほかにも打てる手はあるのですが、こういった話を伺うとやはり残念な気持ちになってしまいます。
「子どもにとって最善と思われる治療を、曖昧な知識や先入観で親が拒んでしまうなんて」…と。

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このようなご相談をいただいた際、私は次のように伝えています(産業保健師として企業を訪問しているので、私がご相談を受けるのは母親の立場の女性になります)。

・ピルの内服を中止すれば排卵が再開するので、ピル内服によって妊娠しにくい体になることはないこと。
・初潮が来ていれば、ピルは誰でも使うことができること。
・ピルには避妊効果も確かにあるものの、現在は保険適応で月経困難症などの治療薬として使われていること。

もちろん、ピルの内服は100%安全なわけではなく、副作用もあります。
しかし、主治医はピル内服の適応で、治療効果が高いからお子さんへの内服を勧めたのだと思います(そのこともきちんと伝えます)。

「主治医にもう一度相談し、説明をきちんと聞いて納得してから、娘さんと一緒に治療方法を選択してはいかがですか?」とお話すると、母親である女性も納得してくださることが多いです。

ピルを服用することで、PMSなど月経に伴う症状はかなり改善されます。「学校に通うのも大変だった娘さんの症状が軽くなり、毎月休まず登校できるようになった」といった報告を受けると、私も本当にうれしくなります。

ピルを正しく知ることは人生も仕事も豊かにする

女性自身にピルについての先入観や知識不足がまだあること。ピルが治療薬として認可される前の世代の女性たちが母親となり、その子どもたちへ間違った知識を植え付けていること。ーーこうした理由が月経の辛さや煩わしさにのなかに女性を留めおき、健康でQOL(生活の質)の高い人生から遠ざけることが、一刻も早くなくなることを願っています。

正しい知識を持って「ピル」を服用することは、月経に伴う症状にかかわらず、女性がいきいきとはたらき続けることにもつながります。
1人でも多くの女性に「ピル」の正しい知識を持っていただき、健やかに過ごせるよう、女性の健康についてこれからも伝えていきたいと思います。

■ 文/小林智美(こばやし・ともみ)
産業保健師、メンタルケア心理士、アンガマネージメントコンサルタント叱り方トレーナー


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