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ドーナツ

電車が急停車した
アナウンス
当車両にて人身事故が発生しました
と言う

全員が一瞬息をのむ
驚きの表情

胸が痛い
喉がつっかえたように苦しい
泣き出しそうだった

いつだって私の横で誰かが死んでゆく
死を隠されるわれわれは
その事実を忘れてしまう
いまも、いまも、いまも、
誰かが死んでいるというのに

誰かが死んでも
いつも通り生きてゆく
何事もないかのように生きている

死人の真横に立って
ドーナツを食べる

そういう自分の卑しさを
忘れてはいけないのだと
小さい私は叫んでいる

お相手の確認
警察の現場検証
運転確認
運転再開

すでに1時間が経った
エアコンで身体は凍りそうだ
日は落ち始めた
踏切の音が鳴る、カーンカーン
これだったのか、とわかる
開かないドアの奥に大勢の人間、異様だ

運転手は代わったんだろうか
ケアをされているだろうか
すでに笑顔を見せる乗客に不信感を覚える
自分だってそうなのに

横に座る男のイヤホンから漏れ出る音楽、なんだったのか結局わからなかった

心にずっしり何かが置いてある
これも背負って生きてゆく

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