不毛会議 #1
不毛会議#1
「馬鹿にもおびただしい種類がある、利口でもその最良のものではない」 トーマス・マン(ドイツの小説家)
はじめに
「日常にこそ、特別なものが潜んでいる。」
「ツイていない」と感じる時ほど、とてつもないチャンスに接近しているのかもしれないし、「ツイている」と感じる時ほど、思いがけない不運に肉薄しているのかもしれない。
この当時、私は「ツイていない」と感じていた。
なぜならその時に働いていた会社のボスが毎日毎日、のべつまくなく理解できない発言を繰り返し精神的にも肉体的にも疲弊しきっていたからだ。
そんなことだから入ってくる人間も多いが、それに比例して出て行くスタッフも多かった。
ある日、ボスに嫌われていたある社員の送別会を行ったことがバレて怒りを買い、送別会の参加者のひとりが翌日退社となった。
その翌日も送別会を開きました。
そんな毎日を送っていたある日、くよくよとした後ろ向きの考え方を改めることにした。むしろ、その発言を楽しんでやろうと。
そう、暴言をTwiterでみんなでシェアすることにした。
「ある人の不幸は、他人の笑いの種」という格言に習った形だ。
案の定、配信を始めると徐々にファンが増えていった。
ファンをつくる自覚はなかったけど暫くしてからフォロワーさんから「実はファンです」「実は僕も」というような発言を確認して自覚することになる。
日常にこそ特別なものが潜んでいる。
日常にこそ格言があり
日常にこそ教訓があり
日常にこそ喜楽があり
日常にこそ悲哀があり
日常にこそ狂気があり
日常にこそ愛情がある。
とある会社の日常的に繰り広げられる悩ましくも、微笑ましい発言達。
「日常の中の非日常」に目を向けるきっかけをnoteにまとめておこうと思う。
「パンクが来るぞ!!」 (ある日の商品会議の冒頭、唐突に)
この会社の会議は唐突感が半端ではない。
データを持ち寄り、来期流行のトレンドを皆で予測しつつ新企画の服のデザインを決めるという大真面目な会議の最中でも躊躇も容赦も、そんなものはありゃしないのだ。
それは突然、しゃがれた大声でやってくる。
「パンクがさぁ、来るんだよ」発言主の社長(アズナブル※1)の眼は大魔神が怒った時のようでもあり、主人が散歩用のリードから手を離した瞬間の狂犬の眼(まなこ)の狂気と純真さを兼ね備えた危険な匂いしかしない真っ暗なビー玉のような瞳(「な?そうおもうだろ?」という面持ちで)を向けてくる。
『いい、目を合わしては絶対だめよ』
誰しもそんな注意をテレビやどこかで聞いたことはあるだろう。
ただし、そんな忠告に聞く耳を持つのは大声でわめき散らしている自由な方のいる駅前くらいのものだ。
いいか正気を保て、ここは会議室なのだ。
『ぜってーパンクなんてこねーよ』
あれ?人心読心術でも身についちゃった?と錯覚してしまうくらい、会議に参加しているスタッフの無表情な顔から読み取れる。
ひとりだけ「いいっすねパンクきますよね」という表情のパンク少年が一人いたが。なぜかそいつはアズナブルに無視されていた。
狂気の眼(まなこ)をこちらに向けながら、情感たっぷりに昔あったパンクブームの話を続けるアズナブル。
「そうですね」「なるほど」「そうきたか」「そうすると」「ってことは」
長話を聞きながら、どうとでもとれる相槌と接続詞をこれでもかというくらいフルに活用して応対。
それだけで会話を成り立たってしまう。それくらい一方的に話したいだけなんだろう。
万が一にでも、唐突に質問されたら「逆にどう思う?」と横の奴に聞けばいいのだ。油断をしていると死に目を見るからみんな必死だ。
これは、ある意味お家芸と言えるのではないだろうか。
こうして終わらない会議が創られていく。
つづく
※1 アズナブル 社長→シャー→シャーアズナブル→アズナブル と進化した社長を影で呼ぶ際の隠語、ちなみに奥さんをララァと呼ぶ。
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