不毛

不毛会議 #23

「中国生産がストップする!掛けてもいいぞ!!」

中国国内の生産工場の賃金上昇と共に工員が他の待遇の良い工場に引き抜かれ、安価で生産が出来なくなる状況が始まる話を聞いた直後に発言。

会議中は沢山の意見や情報が飛び交う。
「何が売れてるか」
「来季大手は何を仕掛けてくるか」
「どの会社が潰れそうか」
「誰々がクビになった理由」
などなど。
業界の噂は速い。
千駄ヶ谷(アパレルメーカーが多い町)のトイレで屁をしたら翌日には北海道から沖縄まで知れ渡る事になるだろう。
うんこを漏らしたら最後、その日の内に知れ渡る事になるだろう。

その位「情報」に敏感だ。

この「情報」に敏感なのには訳がある。
アパレル業界に正解がないからだ。

1980年から2000年入る前頃までは楽勝だった。
メーカーも少なく、一億総トレンド右ならえだったから何が売れるか予測は余程。
アホでない限り大きく外さなかった。
トップガンが公開されたら街は戦場かってくらい全員MA-1着てた。
勿論足元はレッドウィングのアイリッシュセッターだ。(効率よく儲けたのは恐らくホーキンスだ)。
ポパイとホットドッグとブーン見てりゃなんとかなる。
北方謙三の悩み相談のようにどんな悩みにでも「ソープ行け!」と答えてりゃ男子は全員納得していた時代。
ジーパン屋は定番のジーパンを納品すりゃ良かった時代だった。

しかし2000年以降は何が売れるの何か分かりやしない。
ひとりひとりの趣味嗜好が細分化されてしまった。ロックもミリタリーもアメカジもモードも常に好きな人たちが存在する多様な時代になったわけだ。
これは、日本が豊かになりきった結果でもあるだろう。

だけど、事前に大量に作らないと安くタイムリーに売れない。
だから在庫リスクが増大した。
しかも儲けやすい時代のおかげで、アパレルメーカーが竹林のように乱立した。
その為リスク増大と価格競争の激化。
零細企業は「情報」が無ければ生き残れない業界となっていた。

すると当然、会議中「情報」が行き交う訳だ。

そんな中のこの発言の特徴は。
たった今、スタッフが話したこと。(しかも会議参加者全員聞いている)
にも関わらず「俺の情報」として、次の瞬間にリリースされた事。

この驚くべき受け売り。
わんこ蕎麦の要領だ。
自分化するスピードは「ヘイ、Siri」の反応より圧倒的に速いのである。

アズナブル「これいくらだと思う?」
僕「すみません、これいくらですか?」
店の人「300円です」
アズナブル「これは300円はするぞ!掛けてもいいぞ!」
てな具合。

これを、まともに喰らうと耳の奥がキーンとして暫く何が起こったのかわからない状態になる。
「…え?」という具合だ。

そして、ここまで不毛会議を読んでアズナブルが少し理解出来てきた方々は気付き始めていると思うけど「掛けてもいい」は間違いなく嘘である。

つづく

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