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(からだ)と(わからなさ)を翻訳する|冊子制作

めとてラボ」は2022年4月より東京アートポイント計画のアートプロジェクトのひとつとしてスタートしました。
視覚言語(日本手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親を持つ聴者)が主体となり、一人ひとりの感覚や言語を起点とした創発の場(ホーム)をつくることを目指したラボラトリーです。
コンセプトは、「わたしを起点に、新たな関わりの回路と表現を生み出す」こと。素朴な疑問を持ち寄り、目と手で語らいながら、わたしの表現を探り、異なる身体感覚、思考を持つ人と人、人と表現が出会う機会やそうした場の在り方を模索しています。

https://metotelab.com/

はじめに

こんにちは。
今回はじめてnote執筆をします、めとてラボ・メンバーの保科隼希です。
めとてラボでは手話通訳コーディネーターをはじめとする様々な人・もの・ことをつなぐ役割の”つなぐラボ”プログラムを担っています。
個人としては手話通訳士の肩書きもあり、今回の「パフォーマンス×ラボ」において手話通訳としての視点から考え、議論し、そして冊子の作成に携わりました。

さて、2023年7月29日~9日までの6日間、東京都美術館で行われたクリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョー「だれもが文化でつながるサマーセッション2023」の企画のひとつとして、芸術作品を伝えるための情報保障について考える公開研究ラボ「パフォーマンス×ラボ」を実施しました。

この企画は、アーティストのジョイス・ラムによるレクチャーパフォーマンス作品《家族に関する考察のトリロジー》(2021-2022年)の「第一部:月編」に対して、どのように情報保障をつけることができるのかをアーティストと共にラボ(実験)するというもので、協働パートナーとしてめとてラボが一緒に取り組みました。


作品への理解を深めた
様々なテーマでの議論
(わからなさ)の共有


その取り組みのプロセスと気づきをあらためて振り返り、創意工夫していく過程でどのようなことが起こり、どんな思いがあるのかをまとめ、冊子を制作しました。
その旅路を、このnoteをきっかけに知っていただければ嬉しいです。

教科書や活動報告ではない

冊子の制作にあたり、起こった事実をただまとめるのではなく、
今後、様々なかたちで、いろいろな現場で使ってほしいという思いを込めました。
例えば、作品や何かしらの場面に情報保障をつける時の参考にしてもらったり、あるいは新たなコミュニケーションのきっかけになるのも良い。
とにかく多くの人の手に届いてほしいと願っています。

しかし、ここで間違えてほしくないのはこの冊子は情報保障をつける際の教科書ではないということです。そして単なる活動報告書でもありません。
ラボ(実験)として取り組み、その過程でどのようなことが起こり何を考えたのか、気づきを発見するようなようなひとつの例として手にとっていただけると嬉しいです。

複雑な旅を描く

冊子の中で最もインパクトのあるページは冒頭の「すごろく」で表現されている見開きページかと思います(p.4,5)。

目次のような役割を持たせつつも、打ち合わせの期間含め、「パフォーマンス×ラボ」が開催されたラボ期間に起こった出来事(レクチャーパフォーマンス作品に情報保障をつけるということ)の複雑性を表現したいという思いも込められています。
一見すると関係なさそうなことを経ながらも一本道ではない「すごろく」のように進んでいくことで、情報保障の中に含まれている様々な必要なプロセスを表現しました。

視覚的にみせる

冊子として伝えるには更なる内容の咀嚼と伝わりやすい工夫が必要であり、そこで欠かせないのが視覚表現であるイラストでした。
今回、写真も多く使用していますが、それだけでは取り組みの内容まで伝えきることは出来ません。
そこで当日の議論内容をグラフィックレコーディングとして残していたものをもとに、めとてラボの冊子等のイラストを手がけている宮川幸さんにイラストをお願いすることにしました。
繰り返しイメージを擦り合わせながら描いていただいたイラストは、誰が見ても分かりやすく、手話の特徴も活かしたものとなっています。
これらの文章とイラスト、写真などのバランスを取っていただいたのがデザイナーの芝野健太さんです。

最後のコラムでは実際に「パフォーマンス×ラボ」に取り組むにあたっての気持ちや、どのような変化があったのかなどレクチャーパフォーマンスを行ったジョイス・ラムさんと河合祐三子さんおふたりにお話を伺っています。

音声言語としても、視覚言語としても、日本語と広東語は英語より文化的な距離が近いと感じた。よって、わたしが日本語話者の観客に向かって広東語で話しかけるときにつくりたかった「わからなさ」の度合いは、手話でも同じ程度で表現できるのかと、ひとつの発見があった。

p.20 コラム:「翻訳」するための糸口 ジョイス・ラム

すべてに情報保障が必要という考え方ではなく、美術館のような場の雰囲気、作品の世界を壊さないということも大切なので、曖昧さやわからなさも含めて、どのように対等にコミュニケーションを取っていくかが重要なのではないでしょうか。一番大事なのは相手を知ることなんじゃないかと思います。そしてその背景を知ること。表面だけでなく、裏側、内側のことをもっと学び、考えて欲しいと思います。

p.23 コラム:パフォーマンス×ラボを振り返って 河合祐三子 

さいごに

本冊子を通して、非常に内容の濃い議論の内容を見ていただくことはもちろん、思考や準備、「パフォーマンス×ラボ」を行ったことによる気づきなどに触れていただければと思います。
わたしも冊子を制作したことで、ラボ期間とは異なる気づきと学びを得ることができました。そこには、感じたことを冊子にまとめ、伝えるというプロセスの中で生まれる更なる翻訳作業がありました。

みなさんも「情報保障とは何なのか?」「誰のためにあるのか?」また、「タイトルはなぜひらがなで括弧に入っているのか?」じっくり考えてみてください。

そして、作品への情報保障というこの創造的な取り組みを、ぜひに取り入れてください。
今後様々な形で、より多くの人や作品とともに、情報保障の果てなき難しさと面白さ、伝えようとすることの創造性と届く喜びを耕していけたらと思います。

ご紹介した”(からだ)と(わからなさ)を翻訳する ――だれもが文化でつながるサマーセッション2023「パフォーマンス×ラボ」の実験”の冊子は東京アートポイント計画が運営するアートプロジェクトの担い手のためのプラットフォームTokyo Art Research Lab(TARL)ウェブサイトにて、PDFデータを無料でダウンロードしご覧いただいただくことが出来ます。