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お前の肩に勝手に乗っけた私の願いを返せ

友達がエセスピのドロ沼に堕ちてた。

友達といっても、ここ数年のやり取りは無い。小中高と同級で、卒業旅行はその子含めた何人かで東京観光をした。

私はバカな上に薄情で、卒業旅行にまで行ったのにその子以外の友人の名前をもう忘れているし、近所ですれ違っても多分気付かない。

数年会ってない自分の父親と、スーパーですれ違っても分からず、しゃがんだ拍子に「あれ…?アレ父親じゃね?!」と膝から崩れ落ちた(元々しゃがんでたけど)ぐらいなので、薄っぺらさの程度はなんとなくその辺りで察してください。


ただ、その子の事は、私の憧れだった職業に就いた人だったのでずっと覚えていた。

(以下その子の事は『苑子』と呼びます)

メディア露出のある仕事で、苑子は専門学校在籍中に就職した。田舎なこともありまあまあのお祝い騒ぎだった。

宣伝力も仕事に関わるらしく、アドバイスを求められた。

「んー、こうしたら…?窓口は広い方がいいよ」とよく分からない事をそれなりに言った。けど、私もその職業に憧れていたので、多少、他の人よりはいい助言ができたと思う。

苑子はその助言を受け入れてくれた。

「アドバイスありがとう!お陰でいいの出来たよ!」と言われ「うへ、うへへ…あんなでいいなら全然…」とモジモジしたりもした。嬉しかった。


でも前述した通り私は薄情だし、私も(なりたかった職業とは違うが)仕事を地元で始めると、苑子とは自然と疎遠になった。


さて、私にはあまり良くない趣味がある。

自分よりあほそうなことをやってる人を遠巻きに見ること、である。


文字にすると、尚更嫌な趣味だな…ちょっと落ち込む。友人の名前をすぐ忘れるわ、父親を見ても分からないわ、嫌な奴である。でもそんな自分が好き。

もちろんこの趣味は自己紹介では絶対言わないし、どんなに仲良くなった人にも絶対悟らせないように気をつけている。

こういう良く無い趣味の開示は、自分と相手の顔が見えない、電子の海の中にそっと流すことにする。隠すのはストレスが溜まるので小出しに。匂わせと言うやつだ。セルフ1人匂わせ。国民的アイドルの妻と違い、嫌な思いをする被害者が少なくて良い。


私もスピリチュアルが好きだ。地元で評判の人に占ってもらったり、Twitterで当たりそうな自称霊能力者をフォローしている。スピ本も買う。

ある日買ったスピ本がどうも胡散臭く、名前を調べたら、その界隈では有名なニセモノのようだった。女は典型的な意地悪顔だったし、男の方は清潔さがなかった。

ちょうど『凪のお暇』という漫画の中で、外面だけは良いが確実にブラックな企業に就職しそうになっている気弱な女の人に向かって、

「やっぱりあの企業変です。あなただって薄々気付いてるんじゃないですか?見ないふりはやめましょう…だってあの社長、社長なのに 歯 が な い じゃないですか!」

と凪が(うろ覚えですが多分こんな台詞で)説得するシーンを見て、タイミングが良すぎて爆笑してしまった。

えせすぴ、という言葉もその時知った。

それからは暫くずっと、エセスピのことを調べて関連記事を読み漁った。


ネットの海は広大で、調べれば調べるだけ、私の悪癖は満たされた。

教祖も信者も程よく眼がイッており、不幸そうで、盲目で、醜かった。

なのに「私たちは正しいです、とってもhappyです、世界を視野に入れてます、私は美しい!!」と声高らかに宣言しているので、ウォッチしながら馬鹿にして1人嗤っていた。うーん、マンダム。やな奴のにこごり。


ある日、教祖のブログをぼんやり見ていた所、見たことのある顔があった。手が止まった。動画だったので、普段はしない再生ボタンを押した。声が入っていた。

背中がザワザワした。声も聞いたことがあった。

教祖は、その動画に写ってる人たちのSNSのアドレス全員分を載せてくれていた。丁寧な仕事してんじゃねぇ。


苑子だった。

昔、彼女が私のアドバイスを参考にして作ったホームページに飛んだから、間違いようがなかった。


仕事のことが書かれていた筈のホームページには、苑子が心酔する教祖のイラストが飾られていた。

苑子は私の憧れの仕事を放り出し、教祖やその周りの取り巻きにどっぷり浸かっていた。

なんなら自分のちょっと特殊な仕事を利用して、教祖に媚びへつらっていた。


苑子はいつのまにかシングルマザーになっていたし、いつのまにか霊能力を開花させていた。

いつのまにかあの仕事でなく、開花させた霊能力でお金を儲けようとしていた。

いつのまにか、説得してくれた友達を拒絶して攻撃して、1人になっていた。いつのまにか教祖の取り巻きで周りをガチガチに固めてた。いつのまにか、全然綺麗じゃなくなっていた。


私は、日本の占い師は、外国でいうカウンセラーと同じ位置付けだと思っている。占いはその日の運勢や人生を少しだけ彩るスパイスで、生きていくための栄養は自分でとらなければいけない。

自分以外の他人に、その他人がたとえ占い師だろうが霊能力者だろうが神を名乗ろうが、それで栄養を取ってはいけない。塩の役割を持たせては絶対にいけない。

苑子はそのスピリチュアリストにお塩どころかごはんとしての役割を持たせていた。そして自分も塩を作って売ろうとしていた。

人間は塩にならない。塩になるは神の言いつけを守らなかった者だけだ。なんかの神話で読んだ。神の言いつけを守らずに塩の塊になって死んだ話。


私は私に関係ない人を馬鹿にして嗤いたかった。

安全だから。

自分の意地悪さや性根の醜さと何とか折り合いをつけて、隠して、日常は人畜無害な顔をして平凡に安寧に何事もなく過ごしたかった。

私は、私に関係ない、私より愚かそうな人を嘲りたいのであって、友達を嗤うなんて、したくなかった。私は品性下劣で弱い人間だけど、それだけは絶対に。


私の憧れる職業に早々と、いとも簡単そうに就いた苑子に、嫉妬しなかったといえば嘘になる。けど、苑子の「これを一生の仕事にする」と決めて向かっていく熱意と頑張りは、私の「この仕事いいな〜なりた〜い」というクソ馬鹿みたいに浅い夢に引導を渡すには、充分かっこよかった。

憧れの仕事に就いた苑子に、私の夢もちょっと一緒に、どこでも良い、肩にでも乗せてもらって、良い景色を見て欲しかった。


それなのに何でお前教祖のライブで泣いてんだ。一体どこの景色見せてくれとんねん。こっちだ泣きたいのは。

仕事をしろ。スピの方じゃない方だぞ。霊視で三万も取ってんじゃねぇ。本来の仕事時給に換算してもキチった値段設定しおって。小中高と過ごして一編たりとて霊視のレの字も言わなかったのに、急に霊視しますとか言うな。どんな顔して霊視とか書いてんだ、ホームページのブログに。

最初、ビジネスで教祖におべんちゃら言ってるのかと思ったよ。その職業競争率高いけど食っていけるのほんと一握りだから。お金のために仕方なくかな?って。でも違うじゃん、苑子ガチじゃん。ちゃんとキマっちゃってんじゃん。

霊視して、悪いとこを遠隔でなおすって言い出してんじゃねぇ。なんでだよ。グルコサ三ンですら膝ピンポイントに効かないのに、何で遠方からの想いが効くんだよ。飲んでもねぇのに効くんじゃねぇ。『ありがとう』を100回言ってる暇あるなら、『プラセボ効果』を100回調べて来い。体の不調は然るべき医療機関を頼れ。そんなんだから倒れるんだよ。点滴を打て。血管に。点滴を。

シンマって金銭的にも大変なのに、教祖とよくわからない取り巻き同士でセッションやリーディングをすな。経済をせっまい狭っまい界隈で回すんじゃねぇ。回してもねぇ。吸われてんだよ教祖に。金回ってねぇよ。その金戻ってこねえよ。高額払うな。子供に使え。子供大事にしろ。お前を大事にしろ。教祖を1番大事にしてんじゃねぇ。


などと、数日悩んだのだが、もうなんだか泣きながら笑ってて、涙が止まった後もまだ笑っていたので、あの子には連絡しないまま、まだ憧れの仕事の残り香のある、しかし確実に良くないもので侵食されていくホームページ、一生覗いてやろうと思っている。













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