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シナリオ上達の早道:分析力と書く力を養う脚色をしてみよう

さて、みなさんお気に入りの短編小説はお手元にお持ちでしょうか?
短ければ短いほど良いです。

まずは脚色作業を始める前に、その本を最低3回は読んで下さい。
脚色をする本を読み込む作業は物語を理解する為にもとても大切な事です。

そして、読みながら映画分析でも説明した物語構造を何となく頭に入れて、その小説を当てはめながら読んでみましょう。小説は映画と違い8シークエンスの法則には当てはまらない可能性もあります。なので、大まかに流れの区切りとなる部分を見つける程度で良いです。

さて、読み込んだ小説の全体像が把握できてきたら、実際の脚色作業に移りましょう。

今回、芥川龍之介の『或阿呆の一生』から『母』を例に解説して行きたいと思います。
まずオリジナルはこちら。
(見やすいように旧仮名遣いは現代使いに直しております。)

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登場人物をつかむ

まず、ファーストステップは“登場人物を理解する“です。

①何人登場人物がいるのかを書き出す。

①主人公
②医者
③母親(主人公の頭、記憶にだけ)
④狂人1
⑤狂人2

と、上記の小説では計5人の登場人物がいます


②登場人物の名前、年齢、職業&主人公との続柄付きで書き出す。

小説から、登場人物の情報を取り出しましょう。小説だと案外、具体的な年齢が書いていなく『中年』や『白髪が交じりだした』などの表現が使われている事が多いと思います。そういう時は自分が物語から受けたその登場人物の印象や外見を参考に「おそらく50歳くらいだろう」などと、想定して書いてみましょう。

しかし、この小説には人物に対する、詳細な情報は一切ありません。そこで、自分で補足していきます。この補足作業こそ、腕の見せ所です。

さて、ではどのように推測、補足していけばよいのでしょうか?
まず始めに、主人公を考えて行きましょう。
主人公の年齢のヒントはこの部分。
『 彼の母親も十年前には少しも彼らと変わらなかった。 』
ここから分かる情報は、主人公が10年前に明確な記憶を持つ年齢であったということ。ここから、少なくても20代後半以降である事が推察されます。
また、周りとの関係性からも推測して行きましょう。医者が彼に話しかける言葉は明らかに目上の人に対してではありません。と、いうことは医者にとって目下であり、年下である事が分かります。医者は『血色の良い』と表現されています。そうすると、まだ若さの残る年齢でしょう。また、1人で客(とみられる)主人公を案内している点、過去の事例を話している事から、彼がすでに医者として独り立ちして幾年か 経っている年齢だと伺えます。そうすると30代後半以降だと思われます。医者は主人公に対して気軽な口調で話しかけていますから、おそらく見た目でも年齢差がはっきり分かる程度は2人の年齢が離れていると推測できます。そうすると、10年前の記憶の描写などと照らし合わせると、主人公は30歳程度、医者は42歳程度と私は推測します。

これはあくまで、私の分析による推測です。
原作物の映画化作品をファンが見てよく「なんか、原作とイメージと違った〜」などという感想がありますが、こういった補足部分に読者とのイメージの違いを生み出すのだと思います。ということで、あくまで原作に なるべく忠実に補足していく事が大事になります。(個人的には面白くなるなら何でもありだとは思っています。)

さて、登場人物2人の年齢が出てきました。ここから、母親の年齢を割り出します。一般的に考えて親子である主人公とは20歳以上歳が離れているのが自然です。もちろん、若いお母さんだったという設定を付け加えてもかまいません。その場合は16、7歳程度の差でしょうか?
今回は単純に主人公の年齢+20−10年前ということで40歳とします。
また、話の流れから母親はもう居ないと推測されます。

最後に2人の狂人についてです。
こここそ、正に腕に見せ所でしょう、『母親を思い出す』と言う記述から、2人を母親に近い年齢の40歳の女性にするのも良いし、むしろ今ここにいたらを想定して50歳としても善いでしょう。全く別の男の狂人としても善いでしょう。
この選択こそが『物語をどう見せて行くか』という作家としてのあなの本領を発揮する所です。曖昧な表現の部分は、そのまま如何に自分らしい表現を付け加えられるかという部分になるのです。ということで、私はこの2人、オルガンを弾いている方を40歳女、踊っている方を30代男とします。これは、そのまま主人公と過去の母親と同じ年齢の組み合わせにしました。

と、いうことで登場人物表はこうなります。

男(30)サラリーマン。
医者(42)男の母親の担当医。
母(50)主人公の母親。
女の狂人(40)病院の入院患者。
男の狂人(30)病院の入院患者。


③登場人物を掘り下げる。
まずは、この物語の状況を考えましょう。主人公はどうやら医者に案内をされているようである。要するにここは彼にとって初めて又は滅多にこない場所である可能性が高いとみられます。精神科と言う特別な場所で男が医者に案内されている状況を私なりに考えてみました。

1、主人公も医者であり、この病院に配属されて来た。その為、医者は主人公を案内している。

2、最終的に脳髄のつまった瓶が置いてある場所に案内される。この部分から推測して、医者が死んだばかりの母親の遺体をサンプルとして同じようにしたいと願い出ている。その際、身内である主人公に許可を貰おうと呼び出した。

物語をよりドラマチックにする為に私は2番を選ぶ事にしました。さて、この設定から主人公の内面も推測できます。

主人公は病気の母親を10年も訪れない。
→主人公は狂人になった母親を受け入れられないという葛藤があった。
→その反動の為、真っ当に生きる事が1番であると考えるようになり、まじめで人と違った事はしない性格に。
→この事から、一般のサラリーマンと職業づける。

などと、原作の内容と反れない様に、連想させて行きます。

医者についても考えて行きましょう。
「この脳髄を持った男は…」

と、過去自分の請け負っていた患者の話をひょうひょうとする事から、冷酷で自分の業績をひけらかす自慢げな人。

残りの母親と狂人たちにも、それぞれ設定などを考えて行きましょう。

例えば女の狂人なら『元ピアニスト』、男の狂人なら『常に自分は大きな熱いフライパンの上に居るという思いに駆られている』等。

このように、それぞれのキャラクターをしっかり固めた上で、本格の脚色作業に入りましょう。次は物語の起承転結について。

(*こちらは、あくまで解説用にわかりやすく、極端な脚色をしております。また、当然ですが基本的に著作権があるので、脚色は版権フリー、または権利のあるものはあくまで、自分の練習用と心がけましょう。)

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