松本俊彦『「助けて」が言えない---SOSを出さない人に支援者は何ができるか』

本記事は、コミュニティメンバーのTsuboさんの書評及びnote記事の内容を踏まえて書かれたものです。これら2つを事前にお読み頂き、本記事を読んで頂けると幸いです。
以下がTsuboさんの書評と記事になります。

自分自身だけで身の回りの生活を完結させる事は現代社会において大変困難である。一度外に出るとなれば、他者の世話になること間違いなしだ。通勤・通学の主力である電車、バスなどの公共交通機関は当然多くの人の働きで動いているもので、他者の懸命な働きの結果である。例え、家に籠っていたとしてもやはり他者の存在失くしては生きていけない。殆ど無意識の内に使っているであろう電気や水道も他者の仕事の結果であるし、元はと言えば、家そのものも大抵他者に作って貰ったものである。
ここまでで述べた事を要約すると「自分と他者が存在していて、互いに大小何かの干渉を及ぼしている」という事である。

本書『「助けて」が言えない-SOSを出さない人に支援者は何ができるか』では、様々な場面において「助けて」が言えないという現象をテーマ別に捉え、各分野で支援者として従事するプロフェッショナルが自らの知見や経験を元にして章ごとに異なるテーマを語るという形式で構成されている。章立ては大きく
「助けを求められない心理」、「子供ときわる現場から」、「医療の現場から」、「福祉・心理臨床の現場から」、「民間支援団体の現場から」に分けられており、目次を軽く読んだだけでも多くの分野で「助けて」を言えない人がいる事が分かるだろう。

以下では、個人的に興味を惹かれた部分・疑問を感じた部分について触れていこうと思う。

1つ目は、本書の内容に直接関わるものでは無いがタイトルに対する疑問と提案である。
本書のサブタイトルには"SOSを出さない人"というフレーズが使われているが、この表現は本当に妥当なものだろうか?「SOSを出さない」と「SOSを出せない」という2つの表現は非常によく似ているが、全く異なったニュアンスを持つ。出さないという方は、SOSを出すことは可能だが敢えてSOSを出していないと受け取れるのに対して、出せないという表現はそもそもSOSを出すこと自体ができないのだと読み取れる。さて、本書で取り扱われている人々の中には、性犯罪の被害に遭われた方や認知症の方、虐待貧困に喘ぐ子供たちについてのテーマなどが含まれている。このことを考慮すると、「SOSを出せない」という表現の方がより適切なのでは無いかと感じた訳である。

2つ目は、ホームレス支援に関わる章についての話である。ホームレスとして生活をしている人はさまざまな形で心身の健康を害すことが多いらしい。自分自身はホームレスを経験していない為、ホームレス生活に対しリアルな感触を持つことはできない。しかし、今日をどのように生き抜くか、明日は何をして生きて行くかということを毎日考える事が強いストレスになることは否めない。この章では、そのように家を持たない方々に対してハウジングファーストという概念を用いて支援をしている事が述べられている。ハウジングファーストとは「初めに安定した住まいを確保した上で、本人のニーズに応えながら支援を行う」という考えであり、安定した住まいの確保と支援を分離する事が肝要となる。ホームレスとなった人には一人一人に様々なバックグラウンドがあり、必ず正しい選択が存在するとは限らない。そんな中で、自分が安心できる場所としての家を確保することの重要性は測り知れないと感じる。
また、別の章でも述べられていたが他者を支援しようとする際に「支援者が病んでしまう」という現象が起こることがある。これは支援者も心身ともに疲弊しているが、自分と深い関係にあった支援者が心を病んでしまったと知ってしまったら被支援者にとっても非常にショックである。それを回避する為に、ある一種の完成されたシステムとしてホームレスの方を支援するという試みが必要なのだ。

個人的な持論として、我々の社会の福祉の最小単位は、個々人の心遣いであると考えている。本書を通じて、「助けて」を言わせるという安易な結論ではなく、如何に社会及び個人として貢献できるかを考えることができたので、一定の実りを感じた次第である。
身分を問わず、誰もが自分の身の回りの社会課題について考えるきっかけとして本書を読むことを薦める。

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