流れよ涙

 大雨をもたらした雲は去っていった。しかし、まだ風は明日まで強く吹き荒れるという。防波堤を打つ白波は砕けて水しぶきとなり宙を舞う。シェリーは降り注ぐ波しぶきが、いつまでも流れぬ涙の代わりとなる事を願ったが、それは金色の髪を薄っすらと濡らすだけに留まっている。
 気が付いた時にはすでに遅かった。確認が足らなかったのだ。年末年始の忙しさにかまけ確かめることを怠っていた。時は過ぎ、すべては手遅れとなっていた。あらゆる手を尽くしてみても無駄だった。
 謝罪の言葉より笑い飛ばして欲しかった。こちらに非があるのだから。

 シェリーの隣に立つ綾の元に近所に住む木下さんがやって来た。散歩の途中に二人の姿を見つけようだ。
「何かあったんですか?」
「マルニスーパーのポイントで貰えるお皿を貰い忘れていたんです。年末で終わりだったんですね」
「ネズミのお皿ですか。あれなら、うちは二枚貰いましたから一枚差し上げましょうか?」
「いえ、せっかくのお申し出ですが遠慮しておきます。お気遣いありがとうございます」

 あぁこの世に確実なものなど何もない。シェリーはそっと目を伏せた。


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