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秋の風に誘われて

 秋の風は不思議だ。

 時に、夏を思い出させるフワッと包み込むような風。
 時に、冬を感じさせるツンッと突き刺すような風。

 今は、後者の方が多くなってきた。

 

 そんな風に吹かれながら、僕たちは近所のイチョウ並木を散歩している。

 床には、紅色や山吹色、橙色、鮮やかに色付いたイチョウと紅葉の絨毯が敷いてある。

 僕たちは所謂、紅葉狩りをしながらゆっくりと歩く。

 紅葉の絨毯は歩くたびにカサカサと音を立て、秋を更に感じさせる。

 

「あっ、」

 君は何かを見つけ、駆け出した。

「これ、見て見て。」

 君は、ハートっぽいイチョウの葉を自慢げに見せびらかしてきた。

「かわいいね。帰ったらしおりにでもしようか。」

 僕がそう言うと、君は誇らしそうに満面の笑みで応えた。


 君はその後も、面白い葉を見つけては嬉しそうに持ってきて、その度に僕に見せてきた。

 僕は、もういいよと言っても君は見せてくる。

 そんな君を僕は愛していた。



 不意に、肌を刺すような冷たい風が2人に吹いた。

「っ、寒い…」

 君は、はーっと息を吐き、手を温めた。


「もう暗くなってきたし、そろそろ帰ろうか。」
 僕が言う。


「うん、そうだね…。」
 君は、少し、名残惜しそうに言った。



 街灯が点く。

 僕らは、冷たい手を繋ぎ、家へ向かった。

 君は、ハートのイチョウを反対側の手で大事そうに握っていた。

 


ーー帰り道では、どこからか、金木犀の香りがした。