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あなたのオムライス

遅いわね、まだ来ないのかしら。

もう待ってかれこれ30分待った気がする。女を待たせるって男としてどうなのかしら。

あっ、来た。

「ごめん。待たせちゃって。寝坊しちゃってさ」
「なにが寝坊しちゃっただよ。待たせるなんて最
 低。」

彼は私の恋人のココロ。付き合って2年になる。
今日は久しぶりのデートだ。3カ月ぶりぐらいだろうか。最近はお互い学校や仕事で忙しくてLINEでの会話がほとんどだ。なので、私はこの日がとても待ち遠しかった。

今日のデートプランはデパートで買い物をした後、夜は彼が料理を振る舞ってくれるようだ。

「今日はどんな料理を作ってくれるの?」
「ん?秘密だよ。今言ったら面白くないだろ?」
「えー。わかった。」

何を作ってくれるのだろうか。男でも簡単に作れるもの、何があるかな。カレー?パスタ?チャーハン?だめだ。見当がつかない。

そうこうしているうちに、デパートへ着いた。

まぁ、まずはお買い物を楽しもう。

           *

「いいもん買えてよかったね。」
「うん。この服元値12000円だよ。それが8000円
 だよ?ラッキーだったね。あなたは何を買ったん
 だっけ?」
「俺は、新しい東野圭吾の小説かな。」
「ふーん」
「興味ないだろw」
「あるよ!w」
「絶対ないねw」

なんて会話をしながら私たちは彼の家へ向かった。

「はい、着いたよ。」

彼にエスコートされながら部屋へ入った。
意外と部屋は片付けられており、なんか小洒落てる。私の家より整ってるかも。

「バッグは適当に置いて座ってて。」
「ありがとう。部屋物色してもいい?」
「え?うーん、いいけど…。何もないよ?」
「もしかしたら浮気してるかもじゃんw」
「おいおい。心外だなw」
「じゃあ、遠慮なく」
「早速俺は飯の支度するね?」

私はうんと言って部屋を見て回った。まぁ、回るほど広くないけど。

物色してみたが特段面白いものはなかった。彼を再度信用したような、人気がないのかなと不安になったような不思議な気持ち。

そんな気持ちになってる中、キッチンではトントン、となにかを刻んでる音と炊飯器からはアマリリスが流れている。キッチンに行こ。

「なに作ってるの?」
「見ればわかるだろ、玉ねぎとピーマンを切ってん
 だよ。」
「それはわかるよw 料理を知りたいの!」
「まぁ、見てろってw」

そう言って彼は玉ねぎを炒め始めた。なんとも手際がいい。練習してきたのだろうか。彼は彼女の私が言うのもなんだが努力家だ。そんなところに惚れたのだ。

玉ねぎが透き通ってきたら次はピーマンを入れた。そして鶏肉が入った。
あれ?これってもしかして…。

私の予想通り、次はケチャップを入れ、少々の醤油を垂らした。そして熱々のご飯を入れた。予想が確信に変わった。

「わかった!オムライスだ!」

私は思わず声を上げた。

「せいか〜い」

彼はご飯を炒めながらなんとも憎たらしい声で言った。

腹立つw

なんて思ってると、あっという間にケチャップライスができた。さらに彼は片手で卵を割り、溶き始めた。

「ここで隠し味。」

とか言いながら彼は溶き卵に牛乳を入れた。

隠し味?普通じゃね?

と思ったが口には出さなかった。
彼は終始笑顔で料理をしていた。彼もまた彼でこの日が待ち遠しかったのだろう。

熱されたフライパンに油をしき、溶き卵を入れ、オムの部分を作っている。彼は菜箸を巧みに使いドレスドオムライスを作った。最後にパセリを散らしたあのドヤ顔は忘れられないだろう。

「はい、お待ち。」

鮮やかな黄色に緑のアクセント、卵から少しはみ出てる赤が手作り感満載だ。はっきり言って美味しそう。

「いただきます。」

一口、口へ運ぶ。フワトロで美味しい。卵はもちろん、ケチャップライスも甘すぎず、程よく食感が残ったピーマンがいい。ご飯の少しが焦げている。フライパンの端っこに付いていたやつだろう。しかし、それを差し置いても美味しい。

私は目で美味しさをアピールした。彼は幸せそうに笑っている。それを見て私も笑った。

「ご馳走様。美味しすぎてビックリしたよ。あの不器
 用なココロがこんなのを作るなんてさ」
「それはよかった。お粗末様でした。不器用は余計だ
 よw」

この人と付き合えてよかった。この一皿のオムライスで言ってしまうのはどうかと思うが、この気持ちは本物だ。

ねー、ココロ。
これからもずっと作ってよね。
あなたのオムライス

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