[短編]若者のすべて part1
※1,これはフジファブリックさんの『若者のすべて』という曲を元にして書いた文章です。個人の見解が含まれます。ご了承下さい。
※2,この小説は2部に分かれております。今作品はpart1です。是非part2もお読みください。
『…真夏のピークは過ぎ、明日からは初秋らしい天気、気温になるでしょう。続いてはスポーツです…』
テレビをつけると可愛らしいお天気キャスターがそう言ってた。
テレビでは秋が近いと言っているが、今日は到底秋とは言えない蒸し暑い日になっている。
家の目の前の木ではセミが愛を求めて鳴いている。子孫を残そうとするが、相手が見つかってないらしい。
そのセミはまるで自分のようだった。
夏だというのに、ましては世間では夏が終わろうとしているのに恋という恋が出来ていない。
一度でいいから漫画のような恋をしてみたいものだ。と、嘆いていたそんな僕にある情報が入り込んできた。
なんと今日は花火大会があるらしい。
そういえばそんな時期だったな。どおりで街が騒がしい訳だ。まぁ、けど僕には縁もゆかりもない話だな。
とは思っていたが、僕も男だ。女子と一緒に花火を見たい。連絡してみようかな。
早速LINEを開く。数少ない女友達で唯一今でも話している莉瑚(密かに狙っている高校からの友達)にメッセージを送った。
(あのさー、今日花火大会があるんだけど一緒に見に行かない?)
すぐ既読がついた。ドキドキしながら返信を待った。
ポキポキ♪
返信が来たようだ。
(んー、会えたらいいよw)
意味がわからない。会えたらってどういう事だ。
(会えたらってどゆこと?)
(現地でばったり偶然会ったら一緒に見てあげるw)
(なんで!?待ち合わせしようよ)
(偶然の方が運命ぽくて良くね?)
なんてこった。とても面倒くさいことになってしまった。
しかし、会えばいいだけのこと。僕は途端に今日が楽しくなってきた。残っている課題を片付け始めた。
ふと気づくと、時刻は17時になって、午後5時を伝えるチャイムが鳴った。いつも聴いているのに今日は胸に響いた。そんな気がした。
空はまだ明るい。しかし7月に比べたら日は確実に傾いている。
僕は1回大きな伸びをして、体を鳴らした。
花火は7時から。僕は準備を始めた。
一応人には会うから一張羅を着て、髪を仕上げる。ネックレスなんかも付けてみる。
顔のニキビは……うん、大丈夫だ。
外を見ると青空に雲が少し。花火には影響がないと思われる天気だ。さぞ、気持ちがいいだろう。
僕はよしっと呟き、騒がしい夕方の外へ出かけた。
*
街は、親子やカップルで賑わっていた。街一番の大通りは封鎖され、屋台が連なっている。
チョコバナナに冷凍パイン、焼きそば、たこ焼き、綿飴…。
街の雰囲気は読んで字の如くお祭り騒ぎだ。行き交う人々の会話が街のBGMになっていた。
こんな日も悪くないだろう。
なら、手始めにビールと焼き鳥で前戯とするか。
僕は焼き鳥を買いに屋台を探していた。
すると、背後から
「おーい、直也ー。」
聴き慣れた声が久しぶりに聞こえた。
「ん?おー、久しぶりじゃん、慧。元気してた?」
こいつは慧。高校の課題研究が一緒で仲良くしていた。今でも当時の仲間たちとたまに飲む。そんな仲だ。
「まぁ、ぼちぼちだなw」
「ぼちぼち?女と一緒にいてよく言うよ。そちらは彼女?」
「うん、そう。まだ6ヶ月だけど順調だよ。」
「へー。いいご身分だなw。羨ましい限りだよ。」
「そういう直也はツレとかいないの?」
「いない訳じゃないけど…」
「けど、何?」
慧はニヤニヤしながら聞いてきた。
「いや、うーん。まぁ、あとで、そう!あとで会う約束しててさ。僕は先に飲もうかなって。」
「ふ〜ん、そうなんだ。じゃっ、お互い楽しもうね。」
「おう!また今度あいつら誘って飲もうな。じゃーね。」
「じゃーね。」
手を振って慧とは別れた。慧は、彼女と手を繋いで歩いて行った。楽しそうな、幸せそうな背中が遠くなっていく。その姿を見て、僕は嬉しい反面、少し嫉妬していた。
あんな感じで付き合えたらさぞ楽しいことだろうに。
「…ぉーぃ。ぉーい。おーい!兄ちゃん。」
「!!?はい!何ですか!?」
「何ですかはこっちのセリフ!焼き鳥、何にするの?」
そうだった。感傷に浸っている場合ではない。焼き鳥屋に並んでいたんだった。
「えーと、えーと。じゃあ、皮をタレで2本。あと、ネギマと砂肝を塩で2本づつお願いします。」
「あいよ!!」と威勢よく大将が吠えた。
僕はまた、後ろを向きあの2人の姿を探した。
理由は……自分にも分からない。
しかし、2人の姿はどこにもなく、ただ僕の影が長く伸びていた。