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[短編]若者のすべて part2

※1, これはフジファブリックさんの『若者のすべて』という曲を元にして書いた文章です。個人の見解が含まれます。ご了承下さい。
※2,この小説は2部に分かれております。今作品はpart2です。part1を読んでない方はそちらから読んで頂けると幸いです。



「すみません、黒ラベルと金麦下さい!」

「あいよ!合計で700円ね。」

正直、2本で700円は高いと思ったが、まぁ、祭りだしそれも一興だと思い、店を後にした。

焼き鳥とビールを持ち大通りをぶらぶらしているとちょうどいいベンチを見つけた。

ちょうどいい、あそこで一杯やってしまおう。


ベンチに腰掛けると、早速ビールを開けた。

プシュッ

あゝなんていい音だ。音だけで涼しくなる。
思わず笑みが溢れる。
そして、その黄金色の飲み物を一気に喉へ流し込む。

最高だ。染み渡る。ニヤニヤが止まらない。
その時の僕はかなり気持ちの悪い顔をしていただろう。

一旦落ち着きを取り戻し、焼き鳥を手に取った。
まずはねぎま。やはり、ネギがうまい。ネギだけでいいのではないか。そう思わせる一品。
次は…どれにしようかな。
んー、よし、皮にしよう。
もちろん皮も美味い。素朴で鮮やかではないが、タレと絡み合っていてこれまた最高。ビールが止まらない。

プシュッ!

あっという間に2缶目。
最後は砂肝。うんうん、相も変わらずコリコリとした食感が小気味良い。


僕は、ビールと焼き鳥を堪能しながらふと、過ぎゆく人々を見た。
人は皆、早足で目の前をかけてゆく。しかし、僕は違った。ゆっくりと1人の時間を過ごしている。
その瞬間、自分以外の人間は早送り再生されているのではないのかと、とても不思議な感覚に襲われた。

その感覚は僕には到底理解はできず、ただ、その光景を、呆然と見ることしか出来なかった。


ベンチの近くの街頭が光って、僕は我に返った。
その街頭は僕に向かって、帰った方がいいぞ、と言っているみたく煌々と光っていた。
僕は(やらなきゃいけないことがあるからごめんだね。)と呟き、席を立った。

空き缶を捨て、時計を見た。時刻は6時少し前。
花火は7時からだったかな?
まぁ、始まったら観に行こう。
そう思い、焼き鳥片手に僕はビールを買いに屋台通りを歩いた。

おっ?ここ、檸檬堂売ってるじゃん。

一つの屋台を見つけた。檸檬堂が売ってる。ビールじゃないけど、ここにしよう。

「おばちゃん!檸檬堂2つ頂戴。」

その時だった。

ヒュ〜〜〜…

パァン!!

花火が上がった。金色に輝く一輪の菊花火がそれまで暗かった空を照らした。

「あー、いいね〜。今年も綺麗だね〜。あっ、はい、これお酒。」

にっこり笑ったおばちゃんから酒を受け取り、花火が観える土手まで早足で駆けた。

土手に着くまでには、様々な花火が上がった。赤色に青色、緑に黄色。ハート型にニコちゃんマーク。閃光みたいなのもあったな。残念ながらナイアガラは観られなかったが、十分楽しんでいる自分がそこにはいた。

土手に着くと、思っていた通り沢山の人で溢れていた。どこも座れるような場所は無い。
僕は仕方なく木の柵におっかっかる形で花火を観た。

ヒュルルルルルル…

パンッ!バンッ!ドンッ!

やっぱり近くで見ると迫力ある。圧倒される。これぞ日本の夏と言ったところか。

そう思いながら、僕は残っている焼き鳥を平らげた。冷めても美味しかった。

『…次は今年、最後の花火です!』

…もう最後か。
この花火が終われば、夏は終わり。
街は静けさを取り戻し、平凡な日常になるだろう。
酒を飲みながら僕はなんとなく悲しい気持ちになった。

ヒューーーーー……


最後の花火に、なったな。
何年経っても忘れない良い日になった。
強いて言えば莉瑚に会えてない。それだけが悔いだ。
あーあ。会いたかったな。


パンッ!

今日1番の大きな花火が上がり、花が開いた時、あたりは昼間のように明るくなった。

「あっ!直也じゃん!」

その時だった。馴染みのある、高いとも低いとも言えない独特の声が聞こえた。
莉瑚だ。

「えっ…。」

僕は戸惑いと驚きと嬉しさが一緒くたになった感情に襲われた。

「会えたね。久しぶり。」

満面の笑みで莉瑚は言った。

「おっ、あっ、うん。久しぶり…。」

僕は話したいことが沢山あったがこの返事が精一杯だった。

「なにその返事。直也らしくないね。ほら!シャキッとしなさいよ!」

莉瑚は笑いながら僕の肩を叩いた。
僕はうん、と頷いた。

それから少し時間が空いた。
まいった。話すことに迷う。どうしよう。

「酒、余ってるけど飲む?」

僕は苦笑いしながら聞いた。

「え?いいの!?ありがとう。」

「うん。これ飲みながら一緒に最後の花火観よう?」

続け様に僕は言った。

「うん!もちろん。」

莉瑚は二つ返事で頷いた。


僕らは、同じ空を見上げている。