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本当に動きをシンクロすれば好かれるのか?

今日はElaine Hatfield、John T. Cacioppo、Richard L. Rapsonの『Emotional Contagion(1994年 ケンブリッジ大学出版』からお話しします。

恋愛のハウツー本やビジネス書で動きをシンクロさせたら好意を持たれるという話を読んだことありませんか?好きな人がコップを持ったら自分も真似をする。相手が髪に触れたら自分も触れる。取引先の課長が足を組んだら自分も足を組む。動きを同調させると無意識に好意を持たれるという話です。

シンクロ神話、本当でしょうか?答えはです。シンクロの研究があるのは本当です。でも、この種のネタは原因と結果を取り違えているのです。つまりお互いに好意を抱くから自然と動きが同調するわけで、動きをシンクロすれば相思相愛になるわけではありません。

みなさん、思うかもしれません?「本当?証拠は?」。証拠はあります。

シンクロというからには速さがポイントです。では、どれぐらいの速さでシンクロすればいいのでしょう?他の動作のシンクロの速度を見ましょう。

シンクロと言えば、ボクシングのカウンターパンチです。カウンターパンチとは、相手がパンチを出した時に、自分もシンクロしてパンチを当てるテクニックです。カウンターパンチは破壊力がハンパではありません。向こうが勢いつけてパンチを打ってきている時に、こっちのパンチがヒットします。相手の体重と勢い分が衝撃に加わるので、まともに決まるとダウンです。

カウンターパンチなんてのは超絶の反射神経がないとできません。そこで参考になるボクサーが「蝶のように舞い、蜂のように刺す」と謳われたモハメド・アリです。カシアス・クレイという名前でしたが、イスラム教徒に改宗してモハメド・アリに改名しました。

アリの反射神経は、もはや人間ではありません。YouTubeに試合の動画が上がっているので観ていただくとわかりますが、驚愕の速さです。ではアリはどれぐらい速かったのでしょう?なんとアリは190ミリ秒で相手の動きに反応し、40ミリ秒でパンチを放ちました。

ちなみにミリ秒とは1秒の1000分の1の速さです。0.001秒とも言います。190ミリ秒で相手に反応するということは、0.19秒で反応し(1秒の5分の1)、0.04秒(1秒の25分の1)でパンチを出すことになります。合計0.23秒です。これが人類史上最速のボクサーの1人のシンクロの速さです。

ではお互いに好意を抱くので動きが自然にシンクロする大学生の速さはどれぐらいか?21ミリ秒です。0.021秒です。つまり女性が何か動作をした後、男性は0.021秒後に同じ動きを完了しているわけです。

史上最高のボクサーであるモハメド・アリの反応速度より約11倍速い速度で、普通人がシンクロしているわけです。アリより11倍! ハッキリ言いましょう。意識的にシンクロするのは無理です、不可能です。

意識的にシンクロするとは、「あ、箸を握った」→「この女性に好かれたいから自分も箸を持とう」→手を箸に伸ばす→箸を握る。これを0.021秒? 無理無理。

では一般人がなぜ動きをシンクロできるのか?答えは意識的判断を司る前頭葉ではなくて、運動を司る大脳基底核を使ってシンクロしているからです。バッターボックスに立って、ボールが頭部をめがけて飛んできた時、とっさに身体をよけるのが大脳基底核です。ゴキブリが飛んできた時、反射的にしゃがむのは大脳基底核のおかげです。モハメド・アリが相手の動きを察知してカウンターパンチを放つのも大脳基底核のおかげです。

愛し合う男女の動きがシンクロする時、大脳基底核が作動しています。意識的動作ではないんです。だから意識的に相手の動作を真似ると、大きな時差が生じるので不自然感バレバレになってしまいます。もし相手も疑似心理学本を読んだことがあれば、「あ、シンクロして好意を引こうとしているな」と悟られるかもしれません。

というわけで、お互いに好意を抱くから動きがシンクロするわけで、意識的にシンクロしようとしても0.021秒の壁は超えられませんというお話しでした。

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