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アフロビーツ・プロデューサー列伝【LONDON】~Great Producers of Afrobeats #01~

アフリカ音楽キュレーターのアオキシゲユキです。

今日はまずNFLの話題から。
先日開催された第56回NFLスーパーボウルのハーフタイムショーの映像はもうご覧になられたでしょうか?初のヒップホップアクトということで大きな話題となった今回のショー、出演したのはSnoop Dogg、50 cent、Mary J. Blige、Kendrick Lamar、Eminem、そしてDr. Dreという超ビッグネーム達。

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「まだ観てないよ~」という方はぜひこちらの画像をクリック!!
(YoutubeのNFL公式チャンネルに飛びます)

ショーのオープニングから登場したのはDr.Dre。アメリカ西海岸の伝説的Hip Hopグループ「N.W.A」のメンバーとしてはもちろん、今回の出演者であるSnoopや50 cent、Kendrick Lamar、そしてEminemらをスターダムに押し上げた名プロデューサーとして、Hip hopに革命をもたらした重要人物の一人に数えられています。

「アーティストにとってプロデューサーの存在は必要不可欠」というのは既に皆さんもご承知のとおりかと思います。マイケル・ジャクソンにとってのクインシー・ジョーンズからperfumeにおける中田ヤスタカまで、枚挙には暇がありませんね。また最近だと米ビルボードチャートで「Songwriter」や「Producer」のチャートが存在しており、以前はどちらかというと裏方に回っていた彼らにもスポットライトが当たるようになってきています。

海外のプロデューサー達は90年代後半ぐらいから「プロデューサータグ」と呼ばれるサウンドロゴを自分が制作したトラックのイントロやアウトロに入れるようになりました。これはいわば「署名」のようなもので、自分の名前やレーベル名、またお決まりのフレーズなどの声ネタもあれば、特徴的な音をタグにしているプロデューサーもいます。
プロデューサータグについての詳しい説明は、私も出演させて頂いているJ-WAVEの音楽番組「SONAR MUSIC」の過去の放送、またはYuki Ishiiさんのnoteの記事でも詳しく取り上げられていますので是非参考にしてください。

というわけでここからが本題!Afrobeats界で今大注目のプロデューサー達をこれから数回に分けてご紹介していきたいと思います。
Afrobeatsも実は前述のとおり「アーティスト」と「プロデューサー」の関係性でほとんどの楽曲が制作されています。このシリーズを読むと「あ!このタグはあのプロデューサーだ!」というのがピンとくるので、きっとAfrobeatsが今までよりも数倍楽しめるようになると思いますよ。

プロデューサー名【LONDON】 

プロデューサータグ・・・「LONDON!(ロンドン!)」

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今回ご紹介するアフロビーツプロデューサー、その名はLONDON。ナイジェリアなのになぜロンドン?って思いますよね。その理由はのちほど。
私が彼の存在に気付いたのはTiwa Savageが2020年にリリースした「Koroba」と「Temptation」だったので、Afrobeats界でもまだ新進気鋭の若手プロデューサーです。

動画開始から25秒で「ロンドン!」のプロデューサータグが入ります。

そしてこちらはあのサム・スミスとのコラボ曲「Temptation」で、開始から16秒でタグにヒット。

楽曲を聴いていると突然耳に飛び込んでくる「ロンドン!」という妙に渋いおじさんの声。気にならないわけがないですね。以前の投稿でもこの「ロンドン!って一体なんやねん!」を探った謎解きエピソードがありました。

この時初めてプロデューサー名が「ロンドン」なんだと分かったわけです。
彼がこのサウンドタグを使い始めたのはRemaの「Bad Commando」(2019/10/04リリース)辺りからなんですが、この翌年にリリースされた同じくRemaの「Ginger Me」(2020/06/18リリース)ではなぜか「ロンドン!」というタグは入ってきません。

Remaの最近の楽曲では他にも「Soundgasm」を手掛けています。この「Soundgasm」、出だしの「ルールールー」はあまりに斬新でしたね。遂にアフロビーツにも由紀さおりが来たかと心が震えました。ナイジェリア版「夜明けのスキャット」かと。

ちなみにここで追加説明すると、Remaのサウンドタグは「Another Banger!」というフレーズで、これはRemaのほとんどの曲に入ってきます。「Banger」の意味を辞書で調べると「うるさい」とか「爆竹」「ソーセージ」(これはおそらく、ソーセージを焼いた時に熱で皮が割れるあのイメージだと思います)などが出てきて、それが転じて「騒がしい奴」「目立つ奴」あるいは「イケてる曲」のような使われ方になったのだと推測します。

さて、話をLONDONさんに戻しましょう。
彼の本名はMichael Ovie Hunter、父がイギリス人、母はナイジェリアのデルタ州の出身で、ロンドンで生まれナイジェリア北部のカドゥナという町で育ちました。教会で音楽に触れた彼はドラムやキーボードを経験し、2016年に高校を卒業後は大学に進むもわずか2年後の2018年に中退。当時グラフィックデザイナーとして仕事をしていたアニメーション会社で、映像に合わせる音楽制作用のソフト「FL Studio」を習うところから音楽制作にのめり込み、出来上がった曲をインスタ投稿するようになります。するとその楽曲のうちの一つがMavin RecordsでプロデューサーをしていたBabyFreshの目に留まり、次第に彼と直接メールで意見交換をしながら楽曲制作へと発展。そして更には当時Mavin Recordsに所属していたReekado Banksの手元にも音源が渡って彼も気に入り、そこになんとあのWizkidまでもが加わって、最終的にはDJ Tunezがトータルプロデュースを担当した「Turn Up」という曲としてリリースされます。

Soundcloudのページにあるクレジットをよく見ると、下のほうに

Prod by: Baby Fresh & Hunteronthebeat 

という表記があります。この「Hunteronthebeat」というのがLONDONになる前のLONDONさんですね。
ちなみに彼がLONDONを名乗るようになったのは、ロンドン生まれのブリティッシュナイジェリアンである彼が、当時のMavinのチーム内で「ロンドンボーイ」というニックネームで呼ばれていたことによるみたいです。

というわけでLONDONはBabyFreshという大先輩のおかげもあってMavin Recordsのインハウス・プロデューサーとして仕事をするようになります。
遡ってみると、FL Studioを使うようになってから1年経つか経たないかで楽曲リリース&Mavin入りという驚異的な才能と運の持ち主だとわかります。

さて、その後は先ほど挙げたとおりMavinを代表する売れっ子アーティストとなったRemaのヒットを支え、更には次の刺客となるAyra Starrブレイクのトリガーともなった「Bloody Samaritan」をプロデュース。この曲ではRemaが「Woman」で成功させた「Afrobeats×Amapiano」の合わせ技が取り入れられています。


同じくAyra Starrの楽曲では「Fashion Killer」もLONDONさんですね。この曲、どうやら元々はAyra用に書かれた曲ではなかったらしいです。


また、ほかのMavin所属アーティストではJohnny Drilleの「Mystery Girl


Remaの盟友ともいえるCrayonの「So Fine」や

同じくCrayonの「On Code


更には最近メキメキと存在感を出して来たMagixxの「Pati」があります。


そしてMavin以外のアーティストだとWizkidの名作アルバム「Made in Lagos」に収録された「Gyrate」がありますね。


最後にリアルLONDONさんを観ることができる動画もご紹介しましょう。
先ほどご紹介したAyra Starr「Bloody Samaritan」のトラックメイキングを本人が直々に解説しています。


LONDONさんの曲の印象ですが、例えばRemaとの「Ginger Me」では、その前にリリースされたEP「Rema Compilation」の収録曲「Corny」(プロデューサーはOzedikus)の世界観にも通じる空間の広がりと、Remaが紡ぐメロディを引き立てるように配置された音が絶妙。
またTiwa Savageとの「Koroba」、この曲はTiwa本人もお気に入りの1曲なんですが、Teknoの大ヒット曲「Skeletun」のテイストに似てますね。Teknoよりタイトで洗練された印象のダンスビートに仕上がっていると思います。
そしてAyra Starrとの「Bloody Samaritan」ですが、この曲のようにナイジェリアで制作される「Amapiano風Afrobeats」の多くが、本場南アフリカのAmapianoとは違い、日本で言えば「EDMっぽいJ-POP」のようにどうしてもフロア向きではなく歌謡曲感の強い仕上がりとなるパターンが多い中(例としてLojayの「Monalisa」やAdekunle GoldDavidoの「High」など)、ギリギリのところでうまくバランスを取った曲に仕上がってると思いました。「歌モノAmapiano」といえば思い浮かぶのがNiniolaなんですが、彼女の名曲「Addicted」をひとつの指標としてみていくと、「Bloody Samaritan」がこの延長線上に存在していることがより分かりやすくなるかなと思います。「サビがサビっぽくない」というのも一つポイントなのかも知れませんね。(あくまで個人的な感想です)


今回ご紹介したAfrobeatsプロデューサーのLONDONさん、皆さんは如何だったでしょうか?
多くのアフロビーツプロデューサーの中でも抜群のメロウさとポップセンス、そしてキャッチーかつ斬新なトラックメイキング。非常にバランス感覚に優れたプロデューサーだと思います。
キャリアとしてはまだ3年程にもかかわらず、重要案件を任されてもちゃんと結果が出せる有能なプロジェクトリーダーのLondonさん、今後の活躍が楽しみですね。
そして次回もLONDONさんと同じくナイジェリアの若手プロデューサーの注目株をご紹介する予定です。どうぞお楽しみに!

また今回ご紹介したプロデューサー「LONDON」が手がけた楽曲はSpotifyのプレイリストにもまとめてありますので、ぜひこちらもチェックしてみて下さい!!



というわけでここまでのお相手は、4月から東京外国語大学のオープンアカデミーで「ヨルバ語初級」のクラスを受講することにした、アフリカ音楽キュレーターのアオキシゲユキでした。最後までお読み頂きありがとうございました!

<今回の参照文献はこちら>


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