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岩谷さんの新刊について。

 私は20代の初めに岩谷宏と出会って、初期ロッキングオンが解体される80年初期までの10年間、岩谷宏と同じ時代を走った。

 70年の半ば、政府が国民総背番号制を言い出して、党派的な連中は、政府の国民管理だと騒いだが、そういう発想なら氏名や戸籍制度に反対しなければ嘘だろうと思った。

 当時の私は、自分とか個性というものを扱いかねて、名前なんかで呼ばれるより、番号で呼ばれた方がすっきりする、と言った。ロッキングオンに書いたかもしれない。

 そしたら岩谷宏は、私は、番号すら、要らない、と言った。驚いた。その視野のスケールの大きさに、負けたと思った。

 関係性の視座も、日本と言う方法論の可能性も、みんな岩谷さんから学んだ。

 80年になり、初期ロッキングオンは解体された。そこからは、岩谷宏から学んだことを、それぞれが、それぞれの人生で追求していくものだと思った。

 初期ロッキングオンが解体した日を私はよく覚えている。夜中に、岩谷宏は電話してきて、泣いていた。なんで泣いていたかと言うと、僕の言ってることを本当に理解してくれたのは3人しかいない、と泣いたのだ。孤独の魂の叫びと言うのは、こういうものなのか、と思った。

 あれから40年。その途中で、私は、ニッポン再鎖国論を復刊した。僕らに英語は分からない、というタイトルで。そのコンセプトは、混迷する日本社会に必要だと思ったからだ。

 そして、今回、岩谷宏の新刊を企画して、クラファンを開始した。かつての読者が、支援してくれて、嬉しい。しかし、70年代の岩谷宏のまま、時間が止まって、その後の40年間を何して生きてきたのだ、と思う人たちもいる。私は、岩谷宏の新しい本を、思い出のエゴイズムがまとわりついた本にしたくない。21世紀の無垢な心を持つ人に読んでもらいたいと思う。岩谷宏の理解者を、3人から、30人ぐらいにしたい。

 古い読者は、そのために協力して欲しい。

 みんなと同じように、私も、岩谷宏から別れて、さまざまな人に出会った。岩谷宏ほどのスケールと本質に迫っていた人は、一人しかいなかった。

 私は私、あなたはあなた。岩谷宏体験を内在化させて、自分自身の道を歩いていきたいものだ。


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