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書評●石塚 しのぶ (著)アメリカで「小さいのに偉大だ! 」といわれる企業の、シンプルで強い戦略 ISBN-13 : 978-4569830100

アメリカで「小さいのに偉大だ! 」といわれる企業の、シンプルで強い戦略 単行本(ソフトカバー) 2016/4/8

石塚 しのぶ (著) PHP研究所(発行)

 昨年末、尾原和啓くん(橘川の孫弟子w)の忘年会に呼ばれて紹介された石塚しのぶさんと、新年に目黒の喫茶店で情報交換。著作をいただいた。石塚さんは、1980年の初期からアメリカを拠点にアメリカの企業動向を調査し、日本の企業の向けにコンサルする仕事をしてきた。ザッポスという10年間で1000億円の売上を実現した靴のネット通販の企業をいち早く紹介した「ザッポスの奇跡--アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略」(廣済堂出版)を刊行している。

 本書は、アメリカ企業の最新の動向が描かれている。かといって、シンクタンク系の動向調査にありがちな、マクロ経済的な売上高の推移や市場分析などではない。石塚さんという個人の視点で、感動したり賛同したりして、成長する企業の本質を描いてみせる。それは、コンサルというよりジャーナリストの視点である。顧客第一主義を徹底的に追求したザッポスに感動した石塚さんは、1週間、従業員と同じように会社に滞在して、つぶさに現状を眺め続ける。そこで、マニュアルもなく、顧客と付き合うことが楽しくて仕方ないという従業員たちの笑顔を見るのである。それはネガティブな情報を探るために潜伏社員になるような発想とはまるで違う。人間と人間が作り出すシステムに愛情を込めて向かい合っている。

 石塚さんの話では、アメリカでは、小さくてもプライドがあり社会からも尊敬されている「スモール・ジャイアンツ」と呼ばれる企業の一群があり、それがアメリカ産業社会の新しい可能性なのだろう。徹底的な合理主義を進めたアメリカの資本主義が、次の世紀の「成熟した資本主義」を模索している姿を、石塚さんのリポートから感じとることが出来る。

 近代の末端にいる僕たちは、農業をベースにした封建社会的な共同体を壊し、血縁の関係を薄めてきた。都市という人工的な大地に生きるものにとって多くの場合「社内」というのが、実は、唯一無二のコミュニティである。だから、会社の中の人間関係や環境整備を、会社に参加する全員で醸し出していかなければならないのだろう。それは会社の外の顧客との関係性においても同じである。僕らは、前提としてのコミュニティには住んでいない。みんなで、新しく人間関係を生成していくことが、安定したコミュニティを産み出す道である。

 我が国の企業は、一度、決めた方法論をただひたすら走っていくだけだ。次の世代、次の世代と、同じ方法論をバトンリレーしていく。いつの間にか、スタート・ランナーの気持ちなど消滅してしまい、無機的なバトンだけが渡されていく。ベンチャー・ビジネスが出来ても、最初は、賑やかに好き勝手に議論しながらやっていくが、安定的に成長してくると、旧来の大企業のシステムを、そのまま真似しようとする。むしろ極端な形で管理しようとする。ベンチャーとは、生産する商品がベンチャーなのではなく、絶え間ない自己革新による組織の永久革命がベンチャーの本質だと思う。

 ザッポスは、Amazonに買収されたが、組織形態は変わることなく継続し、創業15年で売上は2500億円になったようだ。ザッポスのオペレーターが、顧客と友だちのような雰囲気で会話し、親身に相談にのる姿は感動的である。社員たちは、仕事に向かうのが楽しくて仕方がないようで、当然、こういう企業には、入社希望者が殺到する。

 企業と顧客、社員と経営者が、対立関係や疑心暗鬼の関係を解消するのは、まだまだ大変なことだと思う。それを解決するのは、ただ日々のコミュニケーションの執拗な繰り返ししかないと思う。経営陣が勝手に「社員の満足度向上政策」をやって社員に押し付けたり、社員がただ賃金や労働環境の向上を要求するだけでは、もう何も解決しないだろう。誰もが当事者となって、未来の企業を作り出していくしかない。

 アメリカはトランプの登場で、ますます国家が企業原理で動くようになるだろう。中国は、国営企業の国家である。それらは、あらかじめ方式やスタイルがあるわけではなく、現実の中で、新しいあるべき姿を模索しながら発展していく。世界史の大きな組織変革の時代において、我が国の組織の自己変革に対する停滞感は、目をおおいたくなる。

 石塚さんは、日本における「スモール・ジャイアンツ」の企業についても、取材調査を進めている。連携出来るところは連携して、未来を模索していきたい。

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