吉野家の元常務の伊東正明氏と東谷義和氏のガーシーchについて。


1.「豊かな社会」は終わった。

 世界大戦の恐怖の中、日本のネットでここ最近話題になったのは、吉野家の元常務の伊東正明氏のセミナーで、時代錯誤のオラオラ・マーケティングを披露したことと、捨て身の覚悟で暴露パファーマンスを続ける東谷義和氏のガーシーchだろう。

以下のような感想を書いた。

吉野家の元常務の方法論について。

吉野家の元常務の方法論について。(2)

ガーシーchのこと。「ワルの正義」

 両者に共通しているのは、表の情報と裏の情報が一体化してきた状況である。伊東氏の場合で考えると、本来、マーケッターやコンサルは、表に出るべき存在ではなく、企業の内部だけで力を発揮して、商品やサービスが主役になるべきものだろう。ヒット商品の楽屋裏を紹介しても、本人のコンサル歴の勲章にはなるだろうが、企業にはメリットはない。編集者とかマーケッターなどの「仕掛け人」がタレント化したのは、1970年代の後半からではないか。

「豊かな社会」を切望して戦後の廃墟からスタートした戦後の方法論は高度成長を生みだした。必要なものやサービスを生み出すマーケティグの力が、「豊かな社会」を実現したことによって意味が薄らいできた。必要なものを開発するのでではなく、必要と思わせるイメージを作り出すことが、マーケッターの役割となり、タレント的なマーケッターや仕掛け人が表に浮上してきた。感性マーケッターやトレンドウォッチャーが表に出て「必要」を語った。それは豊かな社会を実現してしまったために、消費者の内部に「必要」がなくなってしまい、イメージの「必要」を飾り付ける必要が生まれた。ブランドやライフスタイル提案などによって、「新しい幻想の必要性」をメディアの力によって拡散したのだ。

 商品やサービスの飽和状況の中で、なおかつ戦後初期と同じ成長拡大を目指す方法論に縛られている限り、マーケッターもタレント化して、話題作りをつなくてはならないのだろう。

「豊かな社会」以後の、企業活動のあり方をマーケッターは真剣に考えないと、日本は今後ますます世界の中での役割を見失う。中国や韓国などは、日本の高度成長そのものの方法論で突き進んでいるのだが、日本は、その方法論に完成させたと自覚して、次の方法論を模索すべきなのだと思う。永遠に成長する企業も国家もない。

2.情報化による変化

 1980年代は、「成長の時代」を終えて「成熟の時代」に向かうべきシーンだと思っていたが、成長の限界がバブルを生み、じっくり積み上げるモノづくり日本の企業文化を、不動産や株式の投機によって一攫千金を狙うギャンブル経済に翻弄され、企業も政府も、そのギャンブル依存症から抜けきれないように思う。

 そして1980年代は、情報化が本格化した季節でもある。日経新聞がオンライン化を進め、銀行のオンライン化が進み、電話交換機がデジタル交換機に変わっていった。

 昔、故・林雄二郎と話していて、彼は「最近の若手の学者たちが、自分の頭で考えないで、私が何か新しい説を考えて発表すると、その説はどこの論文にあるのですか、とか聞いてくる。バカモノメ、私は私の頭で考えたのだ」と言っていた。

 インターネットはもともと核戦争対策として、データを一箇所に集中するとリスクが大きいので分散型のネットワークを構築したところからはじまっている。軍事産業であるロッキードがオンラインデータベースのサービスをはじめ、大学の研究論文をオンライン化した。その中でチャットがはじまり、コミュニケーション・データベースがはじまった。

 そのことにより、各学問の最新テーマを若き学徒が見つけられるようになった。林さんの言によれば、「昔は、自分のテーマを見つけることが研究者の最初の試練で、さまざまな試行錯誤を重ねて、ようやく自分のテーマにたどりつく。テーマをみつけるために周辺の研究も専門家になるので、人間の幅が広い人が多かったが、今は、すぐに最先端のテーマにとりかかるから、底の浅い専門バカばかりになってる」と嘆いていた。

 しかし、情報化社会とは、個人が生涯かけても獲得出来ない情報量を瞬時に得られることでもある。その結果、私たちは、途方もない情報量の海の中で生きることになった。

3.言いたいことがある人間がシステムを使うべき

 東谷氏の場合はどうだろう。彼はギャンブル依存症で人生を台無しにして、死ぬ寸前まで追い詰められたところで、You Tubeに活路を見出し、死んだつもりで過去の深い付き合いのあった芸能界の暴露を開始した。いわばこれも「人生を賭けたギャンブル」とも思えなくはないがw、強烈な人間力と話術、なによりもメディアで知った薄っぺらい情報や読書量で知ったかぶりしているYouTuberとは違い、自分の生きた経験値で語るリアリティは、本物の情報の迫力を持つ。

 彼は、YouTuberと芸能界のタレントを比較して「オーラが違う」と言っていた。YouTuberは参加型メディアの仕組みの中で生まれたポシジョンだが、タレントは旧来の社会構造の中で選ばれただけあって商品性ははるかに大きいということだろう。

 私は、参加型メディアを一貫して追求してきた者であるが、現在のインターネットは、まだ本物の「参加型メディア」ではないと思っている。参加型メディアとは、本気で伝えたいものを持っている人間たちが集まって成立するメディアである。システムがあるから発言するというのは、システムがなければ何もしない人だろう。ブログというシステムがあるから文章を書いているのであって、システムがなかったら、どれだけの人が、自腹で表現活動をしたか疑問である。

 ただし、現状は、本当の参加型メディア、参加型社会の帳(入り口)だと思っている。とりあえず、システムに慣れた上で、東谷氏のような「本当に言いたいことがある人」が続々と登場してくることを想像している。

 You Tubeがあるから語りたいことを探すのではなく、語りたいことがある人間がYouTuberを使うべきである。

4.日本社会・組織の変容へ向けて

 東谷氏はおそらく一縷の光明のようにYou Tubeをはじめたのだろう。その結果、120万人のフォロアーを獲得し、その大半は、彼の支援者に近い存在だろう。最近では「旧態依然たる芸能界を変えたい」というように、自分のポジションと役割を自覚している。

 芸能界と裏世界と警察・税務署と政治とマスコミが裏側でつながっている世界は、日本独特の構造だと思う。この強固な村の構造が日本の芸能界を世界マーケットに飛躍出来ない理由だと思う。そして、この構造は、芸能界だけではなく、日本社会のあらゆる組織や業界と相似形なのだと思う。

 さて、コロナ状況もそろそろ終わる。その先の社会の方法論を模索し、大胆な行動を起こすタイミングなのかなと思う。

5.橘川もYouTuber開始(笑)

 吉野家の元常務とガーシーについての、考察(笑)は、You Tubeで解説しています。

橘川幸夫+淵上周平対話(4)「メタバースの日常とは」

橘川のYou Tubeは、いろいろ思惑あってはじめてます。
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橘川幸夫・深呼吸放送局


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