見出し画像

出版業界におけるシェア書店と中小出版社の可能性

(1)書店の崩壊の最大の影響は中小出版社。

 全国的に書店の減少については、ご承知と思う。撤退の理由は他の小売業と同じように、社会の流通構造の変化がある。大規模経営の大型店舗が全国展開したり、Amazonなどの電子コマースの普及である。Amazonなどオンラインショップは、書店だけでなく文房具屋も駆逐した。後継者の問題もあるだろう。老舗の書店でも、後継者にとっては、衰退する書店を引き受けるのは未来の展望が見えないだろう。繁華街の自社ビルを持っているなら、書店を廃業して賃貸マンションにしたり、コンビニに店舗貸しした方が確実な利益を計算出来るだろう。

 減少する地域の書店に対して経産省が支援の体制を作ったが、単なる補助金では衰退の流れをとめることは出来ないだろう。

 地域書店の衰退は、読者にとっての不便さもあるだろうが、もっと根本的な問題がそこにある。現在の大手取次2社を中心に展開されてきた書店による出版流通網が壊れたら、その流通に依存している版元(出版社)の危機である。体力のある大手出版社や、ベストセラー狙いの出版社は大量宣伝をして、Amazonに誘導すればよい。

 Amazonは買いたい本が分かっていて目的買いをするなら、便利で早い。ところが「何か面白い本はないかなあ」と本屋の棚をクルーズして本を買う、本当の意味での本好きの読者は、Amazonの膨大なデータベースで本と出会うことが出来ない。知名度の高い著者であれば、新刊を探すことは簡単だが、無名の新人や小出版社の本と出会う可能性はなくなる。

 出版業界は、他の産業と違って独自の生産構造になっている。自動車業界であれば、トヨタ、日産、ホンダ、スズキなどの8社程度のメーカーがあり自動車を限られたブランドの車種を何年もかけてモデルチェンジしていく。本で言えば改訂版である。

 それに対して、出版業界は、年間7万点もの新刊書籍が制作されている。毎日200点だ。これを制作してるのは、大手出版社だけではなく、中小の無数の出版社が発行している。この多様性が書籍の魅力であり、ベストセラーだけしか売ってない本屋に魅力はない。既存の出版流通が崩壊したら、その流通に頼っている多くの中小出版社が崩壊するのではないか。

 取次を通して出版を行っている出版社は3000社ぐらいだと聞いている。大手を除いて、多くの出版社の崩壊は私たちの多様性の文化を喪失することになる。

 既存の出版業界の衰退と変質は、1980年代ぐらいから始まったと思っているが、その時代に同時にはじまったオタク文化は、既存の出版業界を相手にしないで、独自の出版物とコミケという巨大な出版セールスイベントを成立させた。

 コロナ前の、2019年冬コミ(コミックマーケット96)の動員数は4日間で75万人に達した。1日目が19万人、2日目が18万人、3日目が19万人、4日目が19万人。昨年の冬コミは、1日目が14万人、2日目が13万人と、コロナから復活しつつある。出店ブースは、26000店。これは、コンテンツを作った出版社の数となる。

 コミケは、厳密なアマチュアリズムがあり、書店流通している本は出品できない。ISBNがついて定価がついている書籍は原則、販売出来ない。

(2)「ほんまる」の可能性について

 私はコミケで大量販売しているサークルがアニメイトなどの既存流通だけではなく、シェア書店の棚主になって、ファンを誘導すればよいと思う。

 今村翔吾さんの「ほんまる」は、出版業界全体を見据えた、すばらしいコンセプトと行動力だと関心した。私も募集当日に応募して「深呼吸書店」の棚主になった。

直木賞作家が語る書店業界の大問題【豊島晋作のテレ東経済ニュースアカデミー】(2024年5月22日)

 全体の方向性は同意出来るが、書店・出版社の関係で言えば、私は、より中小出版社にフォーカスした棚主勧誘をした方がよいと思う。そして、コミケなど非業界のコンテンツ・フォルダーたちも視野に入れるべきだ。

 大手出版社は、むしろ既存の取次に頼った棚作りを継続して、そこに、中小出版社やコミケや個人書店などの多様性を全面に出したシェア書店を併設すればよいのではないか。

(3)製販一体の時代へ

中小出版社への提案は「3000円書籍倶楽部」を書いているので、参考にしてください。

次世代出版ソリューション研究会

 いずれにしても、近代社会は分業化の社会だったが、情報化社会では統合化されたソリューションが大事になる。トヨタでもユニクロでもダイソーでも、製販一体化の事業モデルで成功している。出版業界も、本の編集と制作だけ担って、あとは取次にお任せではなく、自前の流通・販売を検討すべきだと思う。そのとっかかりが「シェア書店の棚主」なのだと思う。

 5月30日、私のシェア書店への希望を含めて、シェア書店関係者にも呼びかけてトークライブを実施します。関心のある方は、お気軽においでください。(シェア書店のオーナーは無料です。)





ここから先は

0字

橘川幸夫の深呼吸学部の定期購読者の皆様へ こちらの購読者は、いつでも『イコール』の活動に参加出来ます。 参加したい方は、以下、イコール編集部までご連絡ください。 イコール編集部 <info@equal-mag.jp>

橘川幸夫の深呼吸学部

¥1,000 / 月 初月無料

橘川幸夫の活動報告、思考報告などを行います。 ★since 2016/04 2024年度から、こちらが『イコール』拡大編集部になります。…

参加型メディア開発一筋の橘川幸夫と未来について語り合いましょう。

『イコール』大人倶楽部 『イコール』を使って、新しい社会の仕組みやビジネスモデルを考えたい人の集まりです。『イコール』の刊行をご支援して…

こちらは、橘川の過去のアーカイブをまとめていましたが2024年5月16日に変更して、これからの出版業界を考えるマガジンにします。よろしくお…

橘川幸夫の無料・毎日配信メルマガやってます。https://note.com/metakit/n/n2678a57161c4