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0.8秒と衝撃。「白雨」

0.8秒と衝撃。2023年新アルバム発表

AGETATIONspaceSYMPHONY

Kill Tokyo

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1.時代の親友

 0.8秒と衝撃。(ハチゲキ)の塔山忠臣とJMとは、「時代の親友」だと思っている。人は誰しもが、小さな人生を生きていて、その中では、小さな関係で友人がいたり恩師がいたり恋人がいたりする。でも人間は同時に、もっと大きな、無限に大きな時代を生きているのであり、そこでも、さまざまな人と関係を結ぶ。それは音楽を通してであったり、画面を通してであったり、ステージを通してであったりする。いわゆる「ファン」になる、という構造だ。ファンとは時代の中で、一方的な友人・恋人関係になるということだ。

 そうした時代の、生命の流れの中で奇跡的に現実で出会ってしまう人がいる。それが「時代の親友」である。時代の親友とは、多くは、日常的な関係は結べないが、「一緒にこの時代を生きている」という同伴者感覚は捨てられない。

 「時代の親友」はどうやって見つければよいのか。それは、無名のうちに出会うことである。有名になってから出会っても、相手はステージの上に登っているので、こちらは観客席からの一方的な片思いに終わることになる。「これから有名になるだけの才能のある人と無名のうちに友人関係になる」というのは、人生の最上の贅沢だと思う。

 私の場合は、岡崎京子がそうであり、AR三兄弟の長男と三男がそうである。他にも表には出ないが頑張っている「時代の親友」が何人かいる。

2.人生の岐路いろいろ

 AR三兄弟の川田十夢がハチゲキの新曲が出たことを教えてくれて、彼のラジオ番組で二人の声を久しぶりに聞いた。泣くね。

 ハチゲキは普通にやってれば、ソニーからデビューして、今頃はロッキング・オンのフェスでトリをつとめていてもおかしくないほどのビッグスターになる可能性があったのだ。それを契約寸前の恵比寿のLIQUIDROOMのライブで塔山がやらかして、貧乏生活に戻ってしまった。そのライブにも行ってるし、なんなら、まだ客が数人しかいなかった新宿ロフトの初ライブで、1人踊り狂っていた親父は私だ(笑)。

 塔山のそのドタバタぶりが好きだ。なにしろ、私も、かつて渋谷陽一に「おまえも、あんときもう少し我慢していたら、今頃、生活安泰だったのに」と言われた(笑)。もしかしたら、今頃、ロッキング・オンの副社長で、ハチゲキをプッシュしていたかも知れないな。しかし、人生は、いつも一本道だ。選ばなかった道は、自分の道ではない。

3.白い雨

 今回のアルバムは、まずは「Kill Tokyo」の「白雨」から聞いた。この曲だけアルバムからはずしてシングルにしたのは何か意味があると思ったからだ。

 純粋だった子どもが、大人になって、東京に来て、違和感だらけの世界を、違う違うと悶ながら叫んでいる。ずっと叫んでいる。叫ぶことでしか、本当の自分を守り切れないからだ。

懐かしい。ああ「白雨」は「黒猫のコーラ」だ。黒が漂白されて白になった。黒猫の時も、雨の日の公園で「いつか自由になる」と涙を流していたはずだ。

「黒猫のコーラ」は、大学の講義で毎年、学生たちに聴かせていた。要らないものを欲しがらされていないか、おまえ。と。

「時代の親友」は、このふてぶてしくも残酷な現代社会に捨てられた子猫たちである。与えられたものではなく「本当の自分」を探し続けている者である。塔山は、音楽の時代の文学者であり、川田はマルチメディア時代の文学者である。私もビジネスの時代の文学者だと思う。

 彼らとは一緒に何かをすることはないだろう。ただ「別個に進んで共に撃つ」という方法論の認識はしている。彼らが撃とうしてるものは、私も撃とうとしているものだからだ。

 そして、私は、相も変わらず、無名の「時代の親友」を求めて、死ぬまで活動を続けていく。

 ああ、そういえば、10年ぐらい前、私は何度も原因不明の気絶をして、お酒も飲めなくなり、駅の階段を登るだけで息苦しくなり、このまま死ぬんではないかと思っていた時期がある。その時、塔山に愚痴っぽいメールをしたら、彼から「死ぬんじゃない。死んだら、ぶっ殺すぞ」と激しい返事が来た。

しばらくはエンドレスで白雨を聴くだろうな。
私の葬式のメイン曲は、ハチゲキの「フォークゲリラ」に決めてある。

ハチゲキの青空に虹がかかった。(古いブログ)


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