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イコール「書評の書店」

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深呼吸書店は雑誌「イコール」の書評頁と連動しています。編集部に参加した人たちは自分で読んだ本の書評をアーカイブしてください。
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2023年12月の記事一覧

寺島実郎『ダビデの星をみつめてーー体験的ユダヤネットワーク論』978-4140819265

寺島実郎さんのネットワーク型世界観の三部作が完成した。2010年刊行の『大中華圏』、2017年刊行の『ユニオンジャックの矢』につづく、ユダヤを論じた『ダビデの星をみつめて』がそれである。大中華圏、大英連邦、ユダヤは、それぞれ、静的な地政学的見方ではなく、動的なネットワーク力によって繁栄しているという見方である。 まず寺島の方法論の中核である「ネットワーク型世界観」を語っている部分を中心に拾い出してみよう。「ユダヤ論」、「日本への提言」などは次回にとりあげる。次に三部作をまと

横松宗先生『大正から昭和へ  恐慌と戦争の中を生きて』 978-4309221663

私の恩師の一人である横松宗先生の『大正から昭和へ 恐慌と戦争の中を生きて』(河出書房新社)は、座右の書の一つだ。横松先生は中津出身で、広島高等師範をでて、八幡大学学長をつとめた中国研究者で、ながく故郷の中津で文化分野の指導者であった。 この本の中で、福沢諭吉についての記述がある。現在の私の心境と同じである。改めて、福沢諭吉の著作を読むことにしたい。 西川先生(広島高等師範学校教授)はまず、次々に私たちの名前と出身地を聞いた。「ぼく愛知県です」「それでは豊臣秀吉たな…」「ぼ

安川新一郎『ブレイン・ワークアウト』(KADOKAWA)

著者の安川新一郎さんは、1991年、一橋大卒。マッキンゼーで東京、シカゴ勤務。その後ソフトバンクで孫正義社の社長室長、執行役員。2016年に起業、というキャリアである。 この処女作で、諸学問を横断した自分なりの見取り図が完成した。そして個人としての知的生産のパフォーマンスをあげるブレインアスリートたらんとする宣言を行った。最新のデジタルテクノロジーを武器として実践知・身体知の獲得を一生かけて追求するというライフワークが決まったのである。 著者は自分だけの知の生態系の構築し

大泉洋子編著『下村誠アンソロジー 永遠の無垢』(虹色社)978-4909045614

下村誠(1954月12月12日ー2006年12月6日)は、『新譜ジャーナル』などで活躍した音楽ライターだ。そしてシンガーソングライター、プロデューサー、レーベルのオーナー、環境活動家とたさいな活動を繰り広げた人だ。 この本は54歳で亡くなった下村誠の仕事と人生を深掘りした書物である。2020年12月6日に思い立ち、取材と資料を渉猟した労作だ。こういう本が出ること自体、多くの人がいうように「幸せな男だなあ」という感じががする。 単なる追悼集のレベルをこえた作品になっている。

三好行雄編『漱石書簡集』(岩波文庫)978-4003190036

漱石は手紙魔であった。手紙を書くことも、もらうことも好きだった。岩波書店版『漱石全集』の第14巻、第15巻には2252通の漱石の手紙が収録されている。そのうちの158通を編んだ書物で、家族、友人、弟子、公的な手紙などが掲載されている。 漱石の時代は、様々の連絡は手紙で行われた。漱石の手紙には、心を許した人たちへの愛情のこもった配慮がうかがわれる。漱石の志、生きる心構えなどが率直に、自在に語られている。漱石の素顔、本音に接することができて非常に興味深い。『漱石全集』第14巻、

伊集院静『ノボさん 小説・正岡子規と夏目漱石』978-4062186681

伊集院静が正岡子規全集を2年簡にわたって読み込んで、それからおもむろに筆をとって小説に仕立てあげた作品である。この全集は素晴らしい出来だったそうで、子規の魅力が満載だと伊集院は別のところで語っていた。 わずか36年の短い生涯の中で、俳句と短歌の革新を成し遂げた偉人、ベースボールの導入者、そして人が自然に寄ってくる魅力を備えた人物、それが正岡子規だ。 その子規と同年生まれの日本小説の原型をつくった文豪・夏目漱石との肝胆相照らした友情の物語でもある。子規という人物の魅力が細かいエ

『イコール』創刊0号の支援者の皆様へ。リターンを追加します。

『イコール』創刊0号の支援者の皆様へ 12月20日に『イコール』創刊0号の版下データを無事、入稿しました。 当初、雑誌の定価が未定でしたので、クラファンの支援のリターンは雑誌1冊を送料、税込み含みで2000円を想定して設計しましたが、市販の定価は1200円(+税120円)となりました。 ということで、書店やAmazonで購入するより支援してくれた方の負担が大きいので、いろいろ考えたのですが、橘川は今回の『イコール』創刊の準備をしながら「21世紀雑誌の構造」をずっと追求して

9784065296714心が強運の持ち主。黒柳徹子『続窓ぎわのトットちゃん』

「黒柳徹子さんはこんなにも強運」というネットの記事を読んだ。 NHK がテレビジョンの放送を始める際に、若干名の専属の東京放送劇団の5期生を募集して、その募集に6000人が応募したのだけども。 黒柳さんが6000人の中の28人、更にふるいにかけられて17人に選ばれたのは、試験の結果が「悪かったから」なのだそうだ。 「これだけ演技について何も知らないと白紙みたいなものだから、 テレビジョンという全く新しい分野の仕事を、素直に 雑念なく吸収するかもしれない」(本書より)

坪内稔典「一億人のための辞世の句」(展望社)ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4885462924

新聞で募集した辞世の句から選んだ庶民の句が並んでいる。 芭蕉は「昨日の発句は今日の辞世、今日の発句は明日の辞世、わが生涯いひすてし句は一句として辞世ならざるはなし」と言った。 しかし、この本は「正月に家族の写真を撮るように、辞世の句を作ろう」「楽しい辞世の句」とういう意図がある企画なのが面白い。ユーモア満載の句も多い。以下、少しピックアップ。 生涯は落葉の如し地に返る 裏もあり面もありて七十年 生も死も只春風のたなごころ 微笑んですむこと多し若葉風 原爆忌忘れぬことに未来

池内記「亡き人ヘ のレクイエム」−−追悼文というペンによる肖像画。ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4622079750

「ペンによる肖像画」というPRに惹かれて購入。 新聞や雑誌から、死去を告げられ、書いた追悼文に加筆したもので、28人との交友を回顧し、人物の肖像に仕上げた本だ。 著者がみた、その人物の本質をきっちりととらえて書いた、と後書きで述べている。 木田元「「いやな男」のいやなところを指摘しながら、同時にその人物の大きさ、天才生をきちんと伝えるなど、なかなかできないことなのだ。他人の悪口を言うとき、おのずと語りテrの人となりとスケールが出てしまうのである」 森毅「森さんは死んだか

荒俣宏監修「知識人99人の死に方」--死生観、遺言。 978-4041690345

それぞれがどんな死に方をしたを追った書物で、興味深いエピソードが満載。 以下、死生観、遺言をピックアップしてみる。 永井荷風:余死する時葬式無用なり。、、墓石建立亦無用なり。新聞紙に死亡記事など出す事元より無用。 山本周五郎:人の価値は、かれが死んだ時これから何を為そうとしていたかによって決まるのだ。(ロングフェロー) 向田邦子:死んだ後も人に思い出してもらえるようなものを書こう。 市川房枝:私が死ねば必ず叙勲沙汰があるだろうが、絶対に受けないように。 梅原龍三郎

嵐山光三郎「追悼の達人」(新潮社)

明治・大正・昭和の作家49人(正岡子規から小林秀雄まで)を没年順に並べた「追悼」に関する労作である。1999年に出た本で、神保町でみつけた。 嵐山は5年間にわたって作家の追悼文ばかり読んできたと「あとがき」で述懐する。 こういうテーマの本は見たことがない。実に面白かった。 追悼にはナマの感情が出る。依頼されるのは突然であるから、準備も無く一気に書き上げるから、油断するのである。そして追悼は思い入れが入るし、後世に文献として残るとは思わないから、本心が出るのである。 弔辞の