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イコール「書評の書店」

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深呼吸書店は雑誌「イコール」の書評頁と連動しています。編集部に参加した人たちは自分で読んだ本の書評をアーカイブしてください。
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イコール「書評の書店」使い方ガイド

Noteに書評のマガジンを作りました。 書評を書いている、書きたい人は「書評の書店に登録希望」とイコール編集部 equal-info@demeken.netまで連絡ください。その際にあなたのNoteアカウントを教えてください。登録されると、確認のメールが届きますので、許諾をしてください。 なお、登録は、当面、深呼吸学部関係者に限定させていただきます。 書評の登録の進め方は以下です。 1.まず、自分のNoteアカウントが必要です。 2.自分のNote頁で書評を書いてください

「味なニッポン戦後史」著者・渋川祐子さんを囲んで。『イコール』著者のいる読書会(深呼吸学部)

「味なニッポン戦後史」著者・渋川祐子さんを囲んで。『イコール』著者のいる読書会(深呼吸学部)

メディアが何をしたか Part2橘川幸夫著

[メディアが何をしたか?Part2. ChatGPT以後の社会] 橘川幸夫 著 橘川幸夫発刊 直接販売商品 橘川さんの本には結論がない。 議論が展開し、さあこれからというところで、 別の話題に切り替わる。 Part1のメディアが何をしたか、も そういう本で、 2はさらにそこが加速している。 そして、現在まさに進行中の時代についての本であるがゆえに、もやっとした推測が書いてある。 例えば、 ・私は人間にはオリジナルな固有性があるという立場だが、 と断ってから、 ・同時にそ

減速する素晴らしい社会 Slowdown 書評

本書で最も刺激的だったのは >資本主義は遷移状態である。 と言う部分だった。 >資本主義が生き残るには需要拡大し続け絶えず変化する必要がある。 近年、考古学の発展によって、縄文期と言われる時代に、ハラッパーのような、格差のない平等な都市が長期間に渡って、多数存在したことが分かり始めた。 私たちの生きてきたこの時代、特に,1901年からの5世代の中でも、X世代と言われる1956年から1981年に生まれた世代が経験した時と変化の流れが、人類にとって、例外的だった。という

[ドゥルーズ入門] 檜垣立哉 著      ちくま新書 刊     

生の哲学を引き継ぎ、広く哲学のバロック性に棹差し、独自の生命システム論とでも言える思考を展開した、前期ドゥルーズ。ガタリとの思考の大展開以前、定型的な哲学の枠内で仕事をしていた時代の、入門書である。20世紀前半においてはハイデガーが、後半はドゥルーズが、哲学の世界では熱狂され、日本に置いて多大な影響を与えた。この本は、ドゥルーズの、「通俗化」の試み、なのだそうだ。おそらく通俗化とは、一般化というような意味合いなのだろう。ドゥルーズで読んだのは「アンチ・オイディプス」だけ。難解

平野啓一郎『マチネの終りに』ASIN ‏ : ‎ B07SPKVPGW

世界を舞台に、イラク戦争、3・11という現代史の中で、38歳の天才ギタリストと2歳年上の女性ジャーナリストの互いを思いばかるが故のすれ違いの数年間の恋愛を描ききった珠玉の小説である。最後は、再会する直前の場面であるが、それぞれが選択をせざるを得なかったもう一つの人生を踏まえたうえで、未来をどう生きていくのかを考えさせる場面で終わる傑作だ。

『ウェブ人間論』(梅田望夫・平野啓一郎) ASIN ‏ : ‎ B0099FKR6O

梅田望夫「ウェブ進化論」が面白かった。この本は話題となってウェブ2.0という言葉が飛び交う契機となった。その続編である「ウェブ人間論」という平野啓一郎と梅田の対談本を手にした。 対談という手法はそれぞれの特徴や主張を際立たせるため、双方が本音で対峙する必要に迫られる。このため主張や思想がくっきりと浮かび上がるという方法論である。 そういう意味で年齢が15歳下の作家・平野の切込みに対する梅田の丁寧な説明や反論によって、読者は新しい世界に対する理解がすすんでくる。 この対談を

平野啓一郎『本の読み方 スロー・リーディング』B07ZPQRDYF

この作家はスローライターでもある。一日4、5枚しか書けない。30分に一回は休憩をとり、3-5分休む。この繰り返し。小説の執筆はマラソンのように見えるが、短距離ダッシュの繰り返しだそうだ。 私にはむしろ、フーコーの「性の歴史1 知への意志」の読み方に共感した。 「補助線を引く」「視覚化する」「文章を書くときの参考にする」とあるが、私の図解文章法と同じ方向である。平野はそれを「傍線と印の読書」と呼んでいる。ただ、その先に図解という方法でさらに洗練している点が違う。大小、重なり、

平野啓一郎『私とは何か--個人から分人へ』(講談社現代新書) ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4062881722

この本の主張は、人間の単位を考え直すことだ。 個人という意味で使っているindividualは、これ以上分けられないという意味であるが、本当にそうか。そして本当の自分なるものがあるという考え方が間違いのもとではないか、というのがこの本の問題意識である。平野は、人間は分けることが可能な存在であり、人間は対人関係ごとに複数の顔を持っており、一人の人間は複数の分人のネットワークによって成り立っているという。そして個性とは、その複数の分人の構成比率によって決定されるというのだ。以下、

寺島実郎『ダビデの星をみつめてーー体験的ユダヤネットワーク論』978-4140819265

寺島実郎さんのネットワーク型世界観の三部作が完成した。2010年刊行の『大中華圏』、2017年刊行の『ユニオンジャックの矢』につづく、ユダヤを論じた『ダビデの星をみつめて』がそれである。大中華圏、大英連邦、ユダヤは、それぞれ、静的な地政学的見方ではなく、動的なネットワーク力によって繁栄しているという見方である。 まず寺島の方法論の中核である「ネットワーク型世界観」を語っている部分を中心に拾い出してみよう。「ユダヤ論」、「日本への提言」などは次回にとりあげる。次に三部作をまと

横松宗先生『大正から昭和へ  恐慌と戦争の中を生きて』 978-4309221663

私の恩師の一人である横松宗先生の『大正から昭和へ 恐慌と戦争の中を生きて』(河出書房新社)は、座右の書の一つだ。横松先生は中津出身で、広島高等師範をでて、八幡大学学長をつとめた中国研究者で、ながく故郷の中津で文化分野の指導者であった。 この本の中で、福沢諭吉についての記述がある。現在の私の心境と同じである。改めて、福沢諭吉の著作を読むことにしたい。 西川先生(広島高等師範学校教授)はまず、次々に私たちの名前と出身地を聞いた。「ぼく愛知県です」「それでは豊臣秀吉たな…」「ぼ

安川新一郎『ブレイン・ワークアウト』(KADOKAWA)

著者の安川新一郎さんは、1991年、一橋大卒。マッキンゼーで東京、シカゴ勤務。その後ソフトバンクで孫正義社の社長室長、執行役員。2016年に起業、というキャリアである。 この処女作で、諸学問を横断した自分なりの見取り図が完成した。そして個人としての知的生産のパフォーマンスをあげるブレインアスリートたらんとする宣言を行った。最新のデジタルテクノロジーを武器として実践知・身体知の獲得を一生かけて追求するというライフワークが決まったのである。 著者は自分だけの知の生態系の構築し

大泉洋子編著『下村誠アンソロジー 永遠の無垢』(虹色社)978-4909045614

下村誠(1954月12月12日ー2006年12月6日)は、『新譜ジャーナル』などで活躍した音楽ライターだ。そしてシンガーソングライター、プロデューサー、レーベルのオーナー、環境活動家とたさいな活動を繰り広げた人だ。 この本は54歳で亡くなった下村誠の仕事と人生を深掘りした書物である。2020年12月6日に思い立ち、取材と資料を渉猟した労作だ。こういう本が出ること自体、多くの人がいうように「幸せな男だなあ」という感じががする。 単なる追悼集のレベルをこえた作品になっている。

三好行雄編『漱石書簡集』(岩波文庫)978-4003190036

漱石は手紙魔であった。手紙を書くことも、もらうことも好きだった。岩波書店版『漱石全集』の第14巻、第15巻には2252通の漱石の手紙が収録されている。そのうちの158通を編んだ書物で、家族、友人、弟子、公的な手紙などが掲載されている。 漱石の時代は、様々の連絡は手紙で行われた。漱石の手紙には、心を許した人たちへの愛情のこもった配慮がうかがわれる。漱石の志、生きる心構えなどが率直に、自在に語られている。漱石の素顔、本音に接することができて非常に興味深い。『漱石全集』第14巻、