ぼくをうたないで
小さな国のおはなしです。
森のはずれに、ロコという少年がすんでいました。
ロコのとうさんは、狩り人。けものうちの名人です。
ある日、とうさんが大ケガをしました。足をすべらせて、ガケからおちたのです。ロコは、うごけなくなったとうさんのかわりに、てっぽうをかついで森にはいりました。
しんぱいするかあさんに、「ロコだって、ウサギぐらいならやれるさ」と、とうさんはわらぃました。
ロコは、ウサギどころか、とうさんでさえもってかえらないライオンやヒョウをしとめるつもりでした。
うんがわるくて、大ジカだ……と、ロコは、てっぽうをしっかりとにぎりしめました。
でも、どうしたことでしょう。一日中あるきまわっても、小さなウサギいっぴき ロコのまえにはあらわれません。つかれきったロコが、ふーっとためいきをついたとき、目の前のやぶが ガサガサとゆれました。
ロコは、てっぽうをかまえました。
そいつがあらわれたしゅんかん、
「なんだあー、バクかあー」
ロコは、がっかりしてつぶやきました。
犬よりも大きく、ぞうのようなはなをもったバクは、ゆめをたべるからでしょうか、あまり おいしい動物ではありません。でも、なにもないよりはましです。おもいなおしてロコが、てっぽうのひきがねに ゆびをかけたとき、バクの長いはなが、クイッともちあがりました。
「ぼくをうたないでおくれよ」
そらみみでしょうか。いえ、ロコのみみには たしかにきこえました。
「ぼくをたべても、おいしくないよ。それより もし、ぼくをうたなかったら、きみのゆめをたべてあげるよ」
「ゆめー? ゆめなんてたべてほしくないよ」
ロコは、おもわずこたえてしまいました。
「わるいゆめだよ。こわいゆめとか、かなしいゆめとか、……ほんとは、そんなものをたべても、おいしくないんだけどね。きみ、ずいぶん らくをするとおもうよ」
ひきがねをひこうとしていたロコのゆびが、とまりました。
ロコは、ゆうべ みたゆめをおもいだしていたのです。とうさんがあるけなくなるゆめでした。ゆめのなかで、ロコは、あるけなくなったとうさんをだいて、ワーワーないていました。
あんなゆめ、もうたくさんだ……。
ロコがおもったとき、バクのすがたは きえていました。
つぎの日から、とうさんの足は目にみえてよくなりはじめました。
ロコはもう、こわいゆめをみることはありませんでした。でも、それが あのときのバクのおかげかどうかは、ロコにもわかりませんでしたが……。
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