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永久少年と妖怪姫 姫の危機と天界の青神編

昔、ある集落があった。その集落は天界にいる神に仕える不思議な力を持っていた。その中にある家族がいた。名は蒼那(あおな)という。この家族は異世界の妖怪の里を見守る神の一人、青神に仕える家系であった。毎日毎日信仰を続け、ひたすら仕えるのみ。そんなある日、家族は青神から一人の赤子を授けられた。
「これは私の子、今から十五年間お前らが家族となって育ててくれ、十五年後、またやって来る。それまでは仕えることはしなくて良い。」
と言い残し、青神はこの場を去った。家族はとても喜んだ。なぜなら神から授けられた奇跡の子だから。それから家族はその子に天から授けられた子、天子(テンシ)と名付け、家族の元で育て、やがて十五年が経った。家族が天子を連れて妖怪の里に入った時、目の前の光景に絶句した。草木や土は荒れ果て、家はほとんどなく、とても桃源郷と呼ばれるような面影は無かったのだ。その時、空に一つの稲妻が走る。
「蒼那よ、私の子を育ててくれたようだな。」
青神が天から降りてきたのだ。
「さあ、それを私に渡せ。」
そう言いながら、青神は手から稲妻を出し、下の家を焼き払う。
「は、はい…」
母親は天子を渡そうとするが、
「ダメだ!渡してはいけない!」
父親が止めてしまった。
「…なんだと?」
それが青神の逆鱗に触れ、
「ならば、貴様らは用済みだ。とっととくたばるがよい!」
青神は蒼那を滅ぼしてしまった。残った天子に青神は、
「私はこの世界を手に入れる。それまで天界で待っておけ。しかし、もし五年経って私が戻らなければ、お前が強くなり、私の妖怪の里を支配する夢を叶えるのだ。」
と言い残して、去ろうとした。
「さようなら…青神様。」
天子は実の親に向けて言った。
「そして、お前がもし支配をする時、妖怪のために戦う心優しい人間は生かすんだぞ…」
「えっ…?」
青神は不思議な一言を残して旅立った

「…ふう…」
パタン
僕の名前はメル、来たるべき敵に備えて異国の地、クントセイに滞在してる不老不死の高校生。今はクントセイにある図書館で昔の資料を調べていた。
「どうだ?なんか分かったか?」
椅子を引いて僕の隣に座ったのはレン、人間界で殺し屋をやってる僕の親友だ。
「いや、全然…暗黒大樹が何か関係してないかって思ってそこら辺の資料を探したんだけど何も手がかりらしきものは無かったよ…」
「そうか…」
僕達は以前、ここクントセイにある樹海で行方不明事件を引き起こした暗黒大樹を退治した、しかしその暗黒大樹は伏兵にすぎず、誰かが復活するだろうと言って消えた。その誰かをやっつけるまで僕達はこの里の妖怪たちが心配なのでこうしてそれに対しての情報がないか探していたのだ。
「あれ?そういや三人はどうしたの?一緒にいたんじゃないの?」
「…調べ物だけじゃ頭痛くなるから外に出て気分転換してくるだってよ…」
「あはは…まあ、仕方ないんじゃない?」
今言った三人というのは妖怪のお姫様であるサラ、天邪鬼のテンキ、風を操る常世の神の子孫であるトヨ、みんな僕たちの友達である。
「この図書館には手がかり無いんじゃねえの?」
「うーん…でも一番資料が集まってるのはここだって聞いたしなぁ…」
「まあ、とりあえず俺らも外行こうぜ、ここにいても息が詰まるだけだ、それにあいつらがどこ行ったか探したいしな。」
「分かったよ…」
こうして僕らも図書館を後にした。

「探すって言っても、レン、三人がどこにいるのか知ってるの?」
「ああ、恐らく商店街の中にある雑貨屋だ。図書館を出る前に、可愛い小物が売ってあるからそこに行こうって話してたぜ。」
「そうなんだ、じゃあそこに行こうか。」
僕達は歩を進め、商店街の中に入った。しばらく歩いていると雑貨屋が見え、その店頭にサラ達三人がワイワイ騒ぎながら商品を見ていた。
「あ、いたいた、おーい!みんなー!」
「探してたぞ。」
「あら、二人も外に来たの?もうちょっと調べ物してるかと思ってたわ。」
「お前らが頭痛いから外行くって言ったんだろうが。」
「しょ、しょうがないじゃない!難しい文が詰まった本なんていっぱい読みたくないし…それにテンキとトヨが雑貨屋行きたいって言ったから渋々…」
「あたしも言ったけどサラも言ったじゃん!」
「うむ、サラが言ってたのは間違いないぞ。」
「それに図書館から出ていく時、楽しそうな顔して出ていっただろうが。」
「うぅ…」
あまりの言葉責めに耐えられず、サラは泣きそうな顔で僕の方を見た。これはさすがに助けてあげよう…
「まあまあ…たまには息抜きも必要だよ…それにレンもあそこにずっといるのは息が詰まるって言ってたでしょ?」
「ほら、メルもこう言ってるでしょ!」
「ったく…メルはサラを甘やかしすぎなんだよ…」
「まあ、いいじゃん…そ、それよりせっかく普段来ない雑貨屋に来たんだし色々見ていこうよ。」
「…はぁ、分かったよ…」
僕の提案にレンは渋々了承してくれ、テンキとトヨを連れて店の中に入っていった。
「メル…ありがとう…」
「いやいや、いいよ。それよりほら、店に入ろうよ?」
「うん…」
返事はしたもののサラは中々店に入らない。
「どうしたの?」
僕が聞いた途端、
「っ!?」
「これはお礼!」
突然、サラが顔を近づけてきて僕のほっぺたにキスしてきた。
「もう…こんな他の妖怪たちが見てるところでそんなことするのやめてよ…恥ずかしいって…」
「いいの!ほら、早く入りましょ!」
「はぁ…」
レンたちの後を追うと、店には可愛いぬいぐるみや女の子がつけるようなアクセサリー、さらには人間界にあるようなおもちゃまである。
「わあ、この青薔薇のヘアピン、とっても可愛いわ!」
「青薔薇だしピンク色の髪と対称的だからそっちの方がヘアピンが目立つしいいかもね。」
「ええ、これくださーい!」
サラは普段いるサラクの里にないものが沢山あるため、大はしゃぎ。
「レン!あたしもなんか欲しい!」
「主よ、妾も欲しいぞ…!」
それを見て、テンキとトヨもレンにねだる。
「分かったよ…何が欲しいんだ?」
その一言を皮切りに、
「これとこれとこれ!」
「それとあれと…ううむ、これも悩ましい…」
二人はあちこちから欲しいものを取ってきた。
「ちょっ!?おい!持ってきすぎだろ!一つにしろ!一つに!」
レンはものすごく焦っていたのでちょっと面白かった。そして二人が一つに絞って選んだのは
「じゃあ、あたし、これにする!」
「妾はこれじゃ。」
テンキは自分の姿に似た人形、トヨは和服に似合いそうな笛を持ってきた。
「ふーん、中々いいんじゃねえか?」
「じゃあレン、買ってきて!」
「うむ、頼む。」
「は…?お前らが買うんじゃねえのかよ…?」
レンは唖然とした顔で二人を見る。それに対し、僕は
「レン、さっき何が欲しいんだって聞いたでしょ…?そんなの俺が買ってあげるから選べって言ってるのと同じだよ…」
そう僕が説明すると、二人も頷いていた。すると、
「……やらかした。」
そう一言告げて会計の方へ持っていった。
その時、サラが入れ違いで戻ってきた。
「レン、すっごく肩落として歩いてたけど何かあったの?」
「いや、あれはレンの自業自得だから気にしないであげて…」
「あら、そう…」
しばらくして会計を済ませた不機嫌なレンが戻ってきた。
「…ほらよ。」
ぶっきらぼうに二人にプレゼントを渡した。
「やった!ありがとう!」
「うむ、感謝するぞ主よ!」
二人は笑顔で喜んでいる。するとレンが、
「…ったく、しゃーねえな…」
二人の言葉を聞いた瞬間、少し微笑んだ。それは人間界の暗殺者だということを感じさせないような微笑み。それを見て僕も思わずくすっと笑ってしまった。それに気づいたレンが
「…なんだよ。」
こっちを睨んで、また不機嫌になった。
「いや、なんでもないよ…」
「…後でなんで笑ったか聞かせろよ…」
僕とレンが静かな睨み合いをしていると、
「ねえねえ、メルとレンもせっかくだし何か買えばいいじゃないんかしら?」
「えっ?僕たちも…?」
「いや…俺らが買うようなものは置いてないだろ…」
「でも人間界にもあるようなものも置いてあるんじゃないの?」
「うーん…だけどなぁ…」
「もう、いいから早く!」
「お、おい…」
僕らはサラに押されつつ、再び店の奥へと入った。
「…何か買えって言われても…」
「…何もねえんだよな…」
「探してたら何か見つかるかもしれないじゃない。」
「無いんだったらあたしと同じ人形にすればいいじゃん!」
「それは絶対ねぇだろ…」
「うーん…どうしようかな…」
悩みながら店内を見て回っていた、その時、
「…これ、なんだろう?」
僕は目線の先にあるちっちゃい本を取った。
表紙が破れている酷くボロボロな本、それ故他の新しい商品と比べて目立っていた。中を開いて見てみても、うっすらと文字が見えるだけである。
「何て書いてあるんだろう…?えーと…神……蒼那………赤子……十五………天……ダメだ、これぐらいしか読めないや…」
「これってなんか昔の資料なんじゃねえの?」
「そうかもしれないね…よし、買って詳しく見てみよう。」
「え?買うものってそれなの?メル、他に買うものないの?」
「確かにこれだけ買うってのも変だね…うーん…サラ、何かいいのある?」
「えーっと…あ、これとかどう?」
そう言ってサラが見せてきたのは二匹の竜がいるキーホルダーだった。
「ほら、この竜たち、水色と赤色だしメルの刀の色にも合うんじゃない?」
「確かに似合いそう、じゃあこれにしようかな、サラ、選んでくれてありがとう。」
「ふふ、どういたしまして。」
「ねぇねぇ、レンはどうするの?あたしが選んだ方がいい?」
「…俺もやっぱり買わされるのかよ…あんまこういうの好きじゃねえんだけどな…おっ?」
その時レンが手に取ったのは百人一首の札。
「ふーん…懐かしいもん売ってんじゃねえか。」
「えっ?レン、こんな遊びしてたの?全然想像つかないんだけど…」
「馬鹿か、訓練の一環でやってただけだ。」
「…どういう訓練なのだ、それは…」
「札が四方八方から飛んでくるから詠まれた札だけを正確に切るっていうやつだ。」
「それを聞くと、レンってやっぱり暗殺者なんだって思っちゃうね…」
「まあ、普通に息抜きでする時もあったけどな、反射神経鍛えられるし。それで、俺が特に好きだったのは恋の歌だった。」
「あっ…刀の名前の戀歌ってそこから取ってるんだ?」
「まあ、そんなところだな。」
「よし、じゃあ会計しよう。」
「そうだな。」
そうして僕らが店の奥へ行くと
「…毎度あり…」
声がしわがれた綺麗な青い髪をもつ老人がいた。
「ありがとうございます。」
僕がそう言いながら、キーホルダーとボロボロの本を置くと、
「…お前さん、それを買いなさるのかね…」
老人が話しかけてきた。
「あ、はい…図書館にも置いてなかったので調べ物に役立つかなーと…」
と言うと、
「それはな…2冊に分かれておるんじゃ…もう片方は賢者様が買っていった…」
「そ、そうなんですか、後で訪ねてみようかな…」
何かわかるかもしれないし聞いてみよう、そう思った直後、
「娘が迷惑かけるだろう…できる限りの事はした…この世界はお前たちにかかって……ブツブツ…」
老人が独り言を言い始めた。
「あ、あの…」
話しかけても、老人は上の空。
「…おい、メル、もう行こうぜ、会計したしいいだろ。」
「う、うん…ありがとうございましたー…」
こうして僕らは逃げるように店の外に出た。
「おいメル、あの爺さんどう思う…?」
「え…?なんか少し変わったお爺さんだったけど他はあんまり…」
「…そうか、ならいい。」
そう言ってレンは百人一首の札を胸元にしまった。すると、
「ねえねえ、次はどこ行くのー?」
テンキが呑気なことを行ってきた。
「馬鹿か、調べ物の休憩に寄っただけだろ。図書館に戻るぞ。」
「えー!」
「そうだな、息抜きも出来たし戻るとしよう。」
とレンとトヨは言ったが、僕は
「ごめん、僕、賢者様のところに寄りたいんだ。」
と言った。
「ああ、そうか、この本の続きが見たいんだろ?ならそっち行くか。」
「ありがとう。」
こうして僕らは賢者様の所へ向かった。
「……」
サラに元気がないことも気づかずに…

「ごめんください。賢者様はいらっしゃいますか?」
小屋に到着し、ノックをするとドアが勝手に開いた。
「おお…待っておったぞ…」
僕らは中に入り、僕が本について聞こうと思ったら、
「あの…この本の事なんですけど…」
「…ちょっと待ちなされ!」
僕の言葉を制止し、サラの元へ駆け寄った。
「どうしたんじゃ、その顔色は!?」
「えっ、サ、サラ!?」
見ると、サラの顔は青を通り越して白くなっていた。
「う、うう…ゲホッ!」
サラが嗚咽しながら血を吐く。
「とにかく、ベッドに寝かせなされ!」
「は、はい!」
僕はレンと二人でサラを担ぎあげ、ベッドに運んだ。賢者様が魔法をかけ、サラが眠りについたところで僕は少し落ち着きを取り戻した。
「…一応はこれで大丈夫じゃろう。」
「はぁ…よ、よかったー…」
「いやテンキ、よくねえだろ、おい婆さん、サラはどうしていきなり体調が悪くなったんだよ?」
「体調が悪くなったどころじゃない…何者かがお嬢さんの魂を潰そうとしている…」
「な、なんだと!?」
「…その何者かって誰か検討はついてるんですか?」
「こんなことをするやつは神ぐらいしかおらぬ…おそらくこの本に名前が載ってる青神ではないかと思う…」
そう言って賢者様は僕が買った本の後半の方を渡してくれた。そこには青神がこの妖怪の里を征服のために焼け野原に変えたことが書かれていた。
「青神…こいつがサラを…!」
僕は怒りで頭が沸騰しそうだった。なぜ神の我欲のためにサラが犠牲にならないといけないのか。
「しかし、その本に書かれていることは何百年も前じゃ、おそらくそいつはもうおらんじゃろう。」
「じゃあ誰がやってるんですか!?」
僕は声を荒らげて聞き返した。
「おい、落ち着け、メル。今ここで怒鳴っても仕方ないだろ、せめて頭だけは冷静でいとけ。」
レンに言われ、ハッとなった僕は、
「ご、ごめん…」
自分の行いを反省した。
「おそらく、青神の意志を継いでいる者がおる…そやつを止めればこのお嬢さんも快復するじゃろう…」
「でも、どこにいるんだろう…」
「このお嬢さんの魂が眠っている場所に心当たりはないかえ…?」
そう言われて僕はそれがどこか分かった。
「…っ!あそこか!」
その瞬間、僕は小屋を飛び出した。
「お、おいメル!」
それを見て、レン達も慌てて僕の跡を追いかけてくる。
「頼むぞ…この世界の未来はお主らにかかっておる…」
それを賢者様は神妙な面持ちで見つめていた。

賢者様の小屋を飛び出した僕はクントセイの里の長、バーグさんの家にいるであろうサラクの里の長老の元へ向かった。
「おい、メル!どこ行くんだ!」
「メルー!待てー!」
「メル殿!少しでもいいから説明してくれ!」
「そんな説明してる暇無い!」
レン達は戸惑いながらも僕を追いかける。そして、僕はバーグさんの屋敷にたどり着くなり、廊下を全速力で駆け抜けた。
「長老!サラクへのゲートを開けてください!」
扉を荒々しく開けた途端、中にいた長老がこちらに歩いてきた。
「おお…!待っておったぞ!早く、あの変な連中を何とかしてくれ!」
「おい爺さん、変な連中ってなんだ?」
長老にレンが聞き返すと、
「突如、里の中に現れてサラクへのゲートを封じてしまったんですよ…」
バーグさんが説明してくれた。
「長老、早く開けてください!じゃないと、サラが…!」
「分かった!早く行くぞ!」
「皆さん、お気をつけて!」
僕らはバーグさんの屋敷を出て、サラクへのゲートに向かった。

「こっちじゃ!」
僕らは長老に連れられてゲートへと向かった。そしてゲート前の広場に入った時、不意に異様な気配を感じた。
「っ!飛べぇぇ!」
「はぁぁ!」
レンの叫びが木霊すると同時に僕は長老を抱えて横に飛び、レンはトヨとテンキを掴んでバックステップした。すると次の瞬間、
ドゴォォォォン!
なんと地面が盛り上がり、針山のような形になった、と思ったらすぐ元に戻る。
「なんだこれ…?」
突然なんだ?と驚いていると、
「ほう、仕留めたと思ったのだがな。なかなか生きの良い小バエ達だ…」
ゲートの方から声がした。そこには、全身を青青色の鎧で纏い、双剣を持った騎士が立っていたのだ。
「この場所に何用だ?現在、我らはこのゲートを封鎖しているのだ。」
「聞かなくても僕らを殺そうとした時点で分かってるだろう?そこのゲートを通してもらう。」
その時、
(……おい)
騎士に届かない声でレンが僕を呼んだ。僕も同じくらいの声量で返す。
(なに?)
(お前がどこに行くのかは知らねえけど、あのゲートを是が非でも通りたいんだろ?)
(うん。)
(なら俺とトヨでこいつを殺る。お前とテンキはあっちに行け!)
(分かった!ありがとう!)
「そちらから向かってこないのか…?ならば、私から行こう…!」
その瞬間、騎士が見せたのは爆発したかのような踏み込み。しかし、そのスピードに、
ガキィィィン!
「メル!行けぇ!」
「はぁぁぁ!」
僕とレンは対応していた。僕は長老とテンキを連れ、騎士の左横をすり抜けた。
「逃しはせんぞ!」
騎士はレンと鍔迫り合いをしながら、なんとノールックで僕たちの地面を次々と隆起させていく。
「ふっ!はっ!」
「突っ込めー!」
僕とテンキはそれを躱しながらゲートへ全力疾走する。
「長老!ゲートを開けてください!」
「う、うむ…!」
長老が詠唱を唱えた後、ゲートが重い音を立ててゆっくりと開く。
「レン…!こっちは頼んだよ!」
「メル、お前こそ、サラのこと頼んだぞ…!ここはトヨと二人で抑える!」
一言ずつ言葉を交わしたあと、僕達はゲートに入ろうとする。その直後、
「はぁぁぁぁ!」
騎士が叫んだ後、なんと上から大量の岩石が降ってきた!
「「わぁぁぁぁぁ!」」
慌てて、僕とテンキはそれを避け、吸い込まれるようにゲートに入っていった。「…ふん、仕留め損ねたか…まあ、よい…あの先で青神様が直々に葬ってくださるだろう…」
騎士はメル達がゲートに入ったあと、呟いた。
それを見て、
「おいおい、お前の相手は俺だ!よそ見してんじゃねえ!」
俺は一気に加速し、スタートを切った。捉えた、と思ったのだが、
「ふん!甘い!」
剣で弾かれ、またも鍔迫り合いになった。しかし、
「だったらこれは躱せんのかよ!」
俺は鍔迫り合いのポイントをずらし、騎士に剣を振り下ろさせる。
「ぬうっ!?」
剣を振り下ろした状態の騎士は一瞬だが、反応が遅れる。
「はぁぁぁっ!」
その瞬間、俺はがら空きの腹に蹴りを入れる。
「ぐぉぉぉ!」
俺の蹴りを受けた奴は吹っ飛び壁にぶつかった。だがしかし、
「ちっ…脇腹を蹴られたか…」
俺の脇腹に靴底の跡がついていた。騎士は蹴られる前に俺の脇腹を蹴り、威力を半減させたのだ。
「力を殺して尚、あの威力…素晴らしい…だが、二度目はないぞ!」
そう言って、奴は二本の剣で先程よりも鋭い打ち込みを見せる。だがな…
「踏み込みも狙いも浅ぇんだよ!」
「ぐうっ!?」
俺はそれを全て弾き返し、
「ここだっ!」
鋭い突きを心臓目掛けて放つ。
「かぁっ!」
その突きを奴は皮一枚で躱す、しかし、
「風よ!切り裂け!」
トヨの放った風の魔法が奴に刺さる。
「ぐぅぅぅぅ!」
奴は咄嗟に腕でガードをするも、小手に風の切り傷がつき、壁際に押し戻されていく。
「小癪な…!」
そう言って奴は片手を前に突き出す。その動作を見て、俺は叫ぶ。
「トヨ!飛べ!」
その言葉にトヨは反応する。
「風よ!妾を押し上げろ!」
詠唱が終わるとトヨの足元に小さい風の渦ができ、
「はあっ!」
トヨは上に飛んだ。その直後、
ドォォォン!
トヨの真下の地面がいきなり音を立てて隆起した!
「…詠唱を声にも出していないのに完璧に躱しただと?」
「お前の詠唱はする直前に手を前に出す、さらにその直後地面がお前の足元からほんの少しトヨへ直線上に盛り上がった。だから、簡単に分かったよ。」
俺はそう説明して、
「そろそろ終わりにすっか、もうお前の動きは大体分かったよ…」
剣を構えた。しかし、
「…ふふふ、この程度が私の力だと思っているのか…?私はあの青神様の臣下だぞ?」
なんと奴は笑った。
「仕方ない…青神様の力を借り、本気で相手するとしよう!」
そう言って奴は、
「青神様よ!私に大地の力を分け与えてくださいませ!」
空に向かって詠唱を唱えた瞬間、
ビシャァァン!
「ぐおおお!」
なんと奴の体に真上から雷が落ちてきた!
「何が起こったのじゃ!?」
「何が起こったかは知らねえが…状況が悪くなったことだけは分かる…」
俺はそう言って剣を構え直し、煙を上げている奴を見た。
「ふふふ…ふはははははは!見よ!この完璧な肉体を!」
「ちっ…嘘だろ…」
その姿はもはや超人と言わざるを得ない姿だった。全身の筋肉が盛り上がり、体が青く染まっている。
「さあ、第二回戦だ…始めようではないか…」
「お前、やっぱバケモンなんだな…でもやることは一緒だ、どっからでも…うっ!?」
そう俺が啖呵を切ろうとした瞬間、やつが俺の目の前の視界から姿を消した。
「くそっ!あいつ、どこへ…」
「主、横だ!」
トヨの声を聞き、咄嗟に右を向き、腕を交差するが、
「残念、逆だ…」
「なっ…」
ドゴォォォン!
「ぐぁぁぁぁ!」
左の脇腹にトラックがぶつかる様な物凄い衝撃が来た!
「がはっ!ぐえっ!」
俺は転がりながら軽く五メートルは吹き飛ばされた。
「ぐっ…クソが…」
俺はフラフラと立ち上がったが、その目の前に
「先程までの威勢はどうした…?」
既に奴は迫っていた。
「おらぁぁぁぁ!」
ガキィィィィン!
俺は気合いで剣を打ち込むが、
「今のお前の力は無に等しいぞ…」
ザシュッ!
「ぐぅぅぅぅ!」
奴の怪力によって剣をずらされ、そのまま振り下ろされてしまった。俺は袈裟斬りで捉えられる。だがしかし、
「ほう…筋肉で刃を受け止めたか…面白い…」
「そうでもしねえと…ぐふっ…隙が…生まれねえだろ…!」
俺はその言葉と同時にやつの胸に突きを繰り出す!ところが、
「そんなものでは私は貫けんな…」
俺の剣先は一ミリも奴の胸に食い込むことは無かった。
「ちっ…やっぱそうか…」
しかしこの展開を予想していた俺は早々に回避行動をとり、トヨの側へ戻った。
「主!その傷、大丈夫なのか!?」
「これくらい…どうって事ない…ぐふっ!」
そう強がったものの、体へのダメージは嘘をつかない。
(これは…まずいかもな…)
俺がどうしようと思考を巡らせていると、
「何を突っ立っているんだ…?」
「なっ!やべぇ!」
横から神速の蹴りが飛んできた!
俺は咄嗟にトヨを抱えて前方にジャンプする。
「おいおい…もうちょい手加減してくれてもいいんじゃねえか…?」
「青神様の力を貴様らは侮っていただけだ。私には青神様の命を直々に受け、ここのゲートの警備を任された。私がお前たちを殺すのも全て青神様の野望のため、今ここで手加減をしたら私が忠誠を誓う青神様を裏切ることになる、そんなことは断じて許せん!」
「青神様、青神様ってうるせえんだよ!その野望が俺達の友達を殺そうとしてるんだよ!俺らもな!信念があって戦ってんだ!お前に、負ける訳にはいかねえんだよ!」
俺は気合いを入れるため奴の戯言に言い返し、スタートを切った。
「ふん…ならば力の差を思い知るがいい!」
奴も一気に加速し、向かってきた。
(俺の方が若干速い!貰った!)
心の中で俺は確信した。が、しかし、
「元よりお前と打ち合うつもりは無い…」
「なあっ!?」
なんと奴はドンピシャのタイミングで俺の攻撃を躱し、そのままトヨの方に向かっていった。
「くそっ!」
俺も慌てて後を追うが、剣は滑り込ませたとしても力で弾かれるだろう。ならば、トヨを生かす方法は、
「これしかねぇぇぇ!」
俺は叫びながら、咄嗟のところで間に滑り込み、トヨにぎゅっと抱きつき、
「散れぇぇ!」
「ぐぁぁぁぁぁ!」
背中でその刃をまともに受けた。
「主ぃぃぃ!」
その一撃を受けた俺は地面に崩れ落ち、仰向けになった。
「がはっ…これは…流石に…ダメかもしれねえな…」
血を吐きながら、視界と意識が薄れていく。
「主!主!頼む、死なないでくれ!」
トヨが泣きながら俺にしがみつく。
「死なないでくれ…って…言われ…てもな…どうにも…ぐふっ!ならねえよな…」
どんどんと意識が闇に引き込まれていく。その中で俺はあるものを見た。
(トヨが買った笛…光ってる…死ぬならいっそ…笛の音色を聞きたかった…)
俺はその思いを伝えようとして、
「ト…ヨ…ふ…えを…吹い…て…く…」
そう言った瞬間、俺の意識は無くなった。

一方その頃、ゲートに吸い込まれた二人は…

「ぎゃぁ!」
ゲートを出た瞬間、あたしは尻餅をついた。そして、
「はっ!」
その横でメルが綺麗に着地した。
「お尻痛いー…なんでメルは綺麗に着地出来んのさ…」
「テンキが鈍臭いだけだよ…それより、急ぐよ!」
メルの声で私も慌てて気を取り直し、後を追いかけた。しばらく走っていると、
「なんだお前たちは!外は今出歩いてはいけないと命令しているはずだぞ!」
さっきの騎士の一回り小さいヤツがこちらに歩いてきた。
「テンキ…ここは僕に任せて…」
そう言ったメルが静かにそいつに近づく。
「なんだ貴様、俺に楯突くのか?」
と騎士が言った次の瞬間、
「…うるさい、消えろ。」
あたしでさえ、背中が凍りつくような声がメルから聞こえた。
(ひ、ひい…怖い…メルってこんな怖くなれるんだ…)
もちろん騎士はビビりまくって、
「ぎ、ぎゃぁぁぁぁ!」
全速力で逃げていった。
「メル、そんな声出せるんだね…びっくりした。」
「まあね…さあ、先を急ごう。」
「うん!」
あたしはメルの後を追う。そしてふと思ったことをメルに聞いた。
「誰もいないねー。」
「さっきのやつが外を出歩いてはいけないと命令している、って言ってたじゃん。僕の考えだとおそらく、里のみんなは家の中にこもってれば安全なはず…」
そう言ってあたし達が曲がり角を曲がった瞬間、
「あ、こいつらだ!さっき俺をビビらせたのは!」
「なんだと?」
さっき逃げてったビビり騎士が何十人と仲間を連れて大通りの道を塞いでいた。
「…面倒くさいな…」
「道塞ぐなー!」
あたし達がそう言うと、
「なんだぁ?こんな奴らに怖気付いてビビりながら帰ってきたのか?」
「お前、弱すぎるだろ!ギャハハハハ!」
さっきのやつが仲間に馬鹿にされていた。
「なあ、お前さん達は何しに来たんだ?返答次第では許してやるよ!」
別のやつがそういった直後、メルはさっきと同じトーンで
「この先に用があるんだよ…とっとと道を開けろ…」
殺気を込めて言い放った。しかし、
「おいおい…そんなものにビビるわけねぇだろう!ギャハハハハ!」
ビビったのはさっきのやつだけで他はケロッとしていた。明らかにあたし達を舐めてる態度、あたしは頭の中で何かがキレた。スタスタと笑ってる騎士に歩み寄り、
「おお?なんだ、お嬢ちゃん、俺とやろうって…」
「ていや!」
ズゴォォン!
股間に蹴りを思いっきり入れてやった。
「ぐぎょぉぉぉ!?」
痛みにもがいた騎士はその場に倒れた。
それにより、向こうへの道が少し開いた。
「くそ!このチビが!」
近くにいた騎士がつかみかかってくるが、
「はっ!」
あたしはそれをダガーナイフでいなし、
「メル!先に行って!ここはあたしが押さえるから!」
メルに向かって叫ぶ。
「…テンキ、信じるよ!」
メルはあたしの決意を汲み取ってくれた。あたしに背を向け、騎士達の間をすり抜ける。
「あのガキを追えー!」
「追わせないぞー!」
メルの行った方向を守るようにあたしは立つ。
「絶対にここは通させない!」
あたしは叫ぶ。メルがきっとサラの命を守ってくれると信じて。
「うるせえ!このクソチビが!こっちは何十人といるんだぞ!数の暴力でねじ伏せてやる!お前ら、行くぞぉぉぉぉ!」
「「「「「ウォォォォォ!」」」」」
そう叫んであたしに騎士達が斬りかかってくる。
「はあ!」
あたしは次々と騎士の間をすり抜け、的確にダガーナイフで切り裂いていく。
「ぐお!?腕が!」
「腱が切れた!くそがぁぁ!」
「おい、お前ら!そんなチビ一匹に何てこずってんだ!」
「あたしがそう簡単にやられるかー!」
そうは言ったものの、相手は何十人といる。一人一人相手していては負けるのは分かってる。しかも、
「はっ!」
「このぉ!行かせねえぞ!」
「わわっ!」
数で進路を塞がれた時は、Uターンをせざるを得ない。それが一瞬の隙となってしまう。
「貰った!」
「わぁぁ!」
その隙を見て振り下ろされた剣があたしの脇腹を少しエグる。
「ぐっ!」
脇腹をエグられながらも何とか体勢を整えながら、
「あっち行けー!」
腹に蹴りをぶち込んで、
「ぶほぉぉぉぉ!?」
騎士の集団の方にぶっ飛ばした。でもこれだけの戦いをしていると、
「はあ…はあ…」
あたしの体力が尽きてきた。そうすると自然に動きも鈍くなり…
「ガキがぁ!」
「ぎゃあ!?」
ついに腹に打撃を打ち込まれ、思わず動きが止まってしまった。そのままあたしは捕まってしまう。
「うぐ…」
「手こずらせやがって!」
「なあ、こいつどうする?」
「捕らえて青神様に献上しよう。」
「放せー!」
「うるせえぞ!クソガキ!」
(メルが信じてくれたのに…私はこのまま死んじゃうの…?そんなの、嫌だ…絶対に、嫌だ!)
そう思った瞬間、
「えっ?なにこれ…?」
突然あたしのポケットが強い光を放った。
「何だ!この光は!?」
「ぐお!目が眩む!」
その光に驚いた騎士達はあたしを押さえる力を緩めた。その隙に、ポケットから光ってる物を取り出した。
「これ…あたしがレンに買ってもらった人形?」
それはさっき、雑貨屋さんで買った自分とそっくりな人形だった。
「なんでこれ、光ってるの…?」
そう口に出した瞬間、
「え!?」
なんとその人形がより一層強い光を放ち、ふわふわと宙に浮いた。そして、
「やあ!」
その光の中から人がでてきた!しかも、
「…あたし?」
「お待たせ!あたし!」
それはもう一人の自分だった。あまりにも現実離れしていて、理解が出来なかった。
「お前ら、あたしから離れろー!」
「「「うぎゃぁ!」」」
もう一人のあたしが、あたしの周りにいる騎士達を蹴散らしてくれた。
「なんで…あたしが…?」
「説明は後!それよりこいつら倒してメルのところに行くんでしょ!あたしが二人いればこんなのちょちょいのちょいなんだから!」
手を差し伸べられてあたしはその手を取る。ぐいっと引っ張られて立ち上がった。
「なんだコイツら!」
「一人増えたところでどうにもならねえだろ!囲んじまえ!」
それを見た騎士達は慌ててあたし達を取り囲む。
「絶対やっつけるよ!」
「う、うん!」
そう言って、あたしはナイフを構え直す。
「「うおりゃぁぁぁ!」」
そこからは怒涛の反撃だった。極端に視野が広くなった気がして、不意をついて襲ってくる騎士も、
「おりゃ!」
「ぎゃぁぁ!?」
もう一人のあたしがやっつけてくれる。そうしてあたし達は二人で何十人もの騎士を全部やっつけた。
「はあ…はあ…やったね!」
「あ、ありがとう…!」
「お礼なんていいからさ、二人で早くメルの元に行こう!」
「うん!メル、待ってて!」
そうしてあたし達はメルの後を追いかけた。

「テンキ…大丈夫かな…やっぱり戻った方が…いや、せっかくテンキが押さえるって言ってくれたんだ、僕はそれに応えなきゃ!」
騎士達の間から抜け出した僕は目的地へ向かっていた。テンキが心配だが、ここまで来たのだ。テンキを信じて先に進もう。
「里の一番端…よりによってゲートからすごく離れてる…」
そうこうしてるうちに、目的地へ着いた。
僕が向かっていたのはサラとの一番の思い出の場所、サラと初めて出会った場所。
「…なんで…こんな姿になってるんだ!」
サラの魂が眠っていると言っていた桜の大樹だった。しかし、桜の面影はなく、前に見た暗黒大樹のようなものになっていた。
「誰が…こんなことをやった!近くにいるだろ!出てこい!」
僕はここに着いた瞬間、おぞましい気配を感じた。おそらく大樹をこんなことにしてしまった犯人がここにいるのだろう。すると、
「ここまで来るなんてやるじゃない。」
大樹の根元の方から声がした。僕はその方向に恐ろしい程の殺気を向ける。
「…サラの大樹をこんなにめちゃくちゃにしたのはてめぇか?」
「わお…そんな怒らないでー。」
その姿は、サラやテンキやトヨと同じくらいの女の子だった。
「答えろ…これをやったのはお前か…?」
「ストップストップ!今から説明するじゃん!」
そう言われて僕は改めてその女の子の容姿を見た。白い服にさらさらと綺麗な青い髪、そして頭には黒い帽子をかぶっている。
「私は天子(テンシ)だよー、みんなからは青神様って呼ばれてるかな?」
「じゃあ、これをやったのはてめぇじゃねえか…今すぐやめろ。」
俺は青神様の名を聞いた途端、二つの刀を抜き放った。
「ちょっとちょっと!どうしてそんなに怒ってんのさ!?」
「その大樹の下には親友の魂が眠ってんだよ…それをお前はその手で穢している…だからそれを今すぐやめろ…」
「あらぁ…そういう事ね…でも残念、私にも考えがあるんだ、考えっていうか、野望か。」
「…この妖怪の里を支配することか?」
「なんで分かったの!?」
「てめぇの前の青神がこの里を焼き払ったことが本に書かれてたんだよ。ならお前がその野望を継いだんだろうと僕は考えた。」
「わお、大当たりー。そうだよ、あたしの父さんはこの里の世界を支配しようとしたんだー、でも父さんは戻ってこなかった…だから私が父さんの願いを叶えるの!」
そう言った途端、天子は僕に突っ込んでくる!
「おらー!この私の鞭さばき、耐えれるものなら耐えてみなよ!」
「望むところだボケ!やってやらぁ!」
俺は水竜刀と炎月刀を構え直した。
「先制攻撃ー!」
天子は鞭を真っ直ぐ俺に飛ばす。そのスピードは早すぎてもはや残像が見えるほど、だが、今の俺は極限状態にある。
「見える…こんなもん弾き飛ばす。」
俺はそれを水竜刀でいなし、
「その喉、掻き切ってやるよ…」
最短でその首を刎ねようとする。
「わお!あぶなーい!」
しかし、超反応で皮一枚躱され、
「一旦壁作りまーす!」
「!!」
それと同時に地面が一気に突き出してきた!俺は咄嗟に地面を大きく蹴り、バックステップした。
「よく避けたねー。すごいじゃん。」
「あんなもん出しといてよく言うな…次は確実に殺る…」
「それにしてもよくここまで来たね、こことクントセイを繋ぐゲートを私の忠臣、青嵐(セイラン)に守らせてたのに。」
「俺の相棒が戦ってくれてるんだよ…そいつのためにもお前の野望を叶える訳にはいかねえんだよ!」
(レンとトヨなら…絶対あいつをやっつけてくれてるはず…!みんながここまでたどり着かせてくれたんだ…絶対に、サラを助ける…!)
俺は心の中でそうつぶやき、天子に向けて再びスタートを切った。

「主!主!目を覚ましてくれ!」
妾は主に何度も呼びかける。けれど、、返事が帰ってくることは、ない。あたしは主の体に耳を近づけた。
(まだ、脈はある…死んではいないのか!)
死んでいないことは分かった、しかし、妾にはどうすることも出来ない…
「ふふふ…!ふはははは…!」
その時、騎士が笑った。
「やはり青神様の力は素晴らしい…!人間一人をこうも簡単に破壊できるとは!」
「…お前は、なぜ妾たちと敵対するのだ?」
妾は奴に問いを投げかける。
「ほう?そやつを殺されても尚、私に鋭い殺気をぶつけるか…面白い…いいだろう、教えてやる。」
奴はそう言うと、声高らかに叫んだ。
「全ては青神様の妖怪の里を支配する夢のために過ぎぬ!この夢を叶えるならば、この青嵐、命を捨ててでも叶えるのだ!」
「神が妖怪を支配…?そんなこと、あってなるものか…!」
「妖怪たちも私たち神を崇めている!ならば、神が妖怪を支配するのは当然だろう!」
「そんなこと…!」
「これ以上、私と戦うと言うのならば、そいつと一緒に勇敢な死をくれてやろう…そうなりたくなければ、私の下につき、青神様の夢を叶えようではないか!」
「……」
(どうする…今ここで妾が動いても死ぬだけだ…何か策は…)
私は目線を周りに動かした。すると、
(…?笛が光っておる…)
先程の店で買った笛が光を放っていた。
『ふ…えを…吹い…て…く…』
その時、主が意識を失う前に言った言葉を思い出した。
(この笛に…賭けるしか…ない!)
妾は決心し、青嵐と名乗った騎士に言い放つ。
「…分かった。それで妾の命が助かるのならば、そなたの下につこう…」
「ははははは!そうか!寝返ったか!そやつは可哀想だな!死んででも守ったやつに裏切られるとは!」
主に向けて耐えがたい罵詈雑言が降る。
(耐えろ…!耐えるのだ…!今、こやつに掴みかかっても死ぬ…)
「…命が助かるのならば、何でもする…しかし、その前に主を弔っても良いだろうか…?」
妾は青嵐に向けて提案をする。
「ふむ、まあいいだろう…そいつに裏切りの音色を奏でるがいい…」
妾は小さく頷いて着物から笛を取り出す。
(笛よ…主を助けてくれ…!主の傷を癒せ…!)
妾は息を吐き、そして笛を咥える。
ーー♬♬〜〜〜    ♪♪〜ー〜〜
それは言葉で表すのが難しいほどの美しい音色だった。心が澄んでいくような、主への悲哀を感じさせないような美しい音。その音に上空にいた蝶が降りてきて主の周りをヒラヒラ飛んでいる。
(こやつら…どうしたんじゃ?)
そう思いながら、笛を吹き続けていると、
ピカァァァン!
「ぐお!?何だこの光は!」
突然、蝶が光り、青嵐の目を眩ませる。その強烈な光とともに、
「…………う……あ……」
なんと、主の意識が戻ったのだ!
「主!」
「蘇っただと!?そいつはまずい!」
それを見た青嵐はこっちに向けてスタートを切る。主はまだ状況を把握出来ていないだろう、ならば妾が防ぐしかない!
「風よ!奴を吹き飛ばせ!」
「甘い!そんなものが私に効くかぁ!」
私は力を込めて最大級の風刃を放つが、
ガキン!
「ぐっ!」
強化された奴には効かず、そのまま突っ込んでくる。
「今度はお前ら一緒に冥土に送る!」
奴の凶刃が振り下ろされる!…しかし、
「ありがとな、トヨ、お前の笛のおかげだ。綺麗な音色だったぜ。」
妾は死ぬことは無かった。なぜなら、
「てめえ…一旦離れろ。」
ドゴォォン!
「ぐほぁ!?」
主が発勁で奴をはじき飛ばしてくれたから。
飛ばされた奴は軽く十メートルは吹っ飛んだ。
「ふぅ…仕切り直しだな。」
「主!体は大丈夫なのか!?」
「大丈夫に決まってんだろ、お前の笛の音色で元気百倍だよ。」
主がそういうように、さっきまであった傷などはどこにも見られない。
「ふ…ふふふ…何度仕切り直そうが同じことだ…勝機は私にある…」
吹き飛ばされた奴は笑いながらこちらに近づいてくる。
「お前、しぶといなぁ…そういう男は嫌われるんだぞ?」
「ほざけ!首を刎ねてくれるわ!」
奴は再びこちらに向かってくる。
「しゃーねぇ…これは使いたくなかったんだが、命優先だ…」
すると、主は刀の命(ミコト)を鞘に収め、懐から何かを取り出した。
「さっきのトヨの笛で分かった。こいつもおそらくなんかやってくれるだろ。」
取り出したのはあの店で買った百人一首の札。
「俺の予想が正しければ、この札がきっと、こいつに変化をもたらしてくれるはずだ。」
指差したのはもう片方の刀、戀歌。
「所詮、バトルってのはギャンブルだ、勝ち負けがあるからな。この札が光の道を指し示すか、はたまた地獄の道を指し示すか。俺はそれに命を賭ける!」
そういうと、主は札を投げ上げる。次の瞬間、
ピカァァァン!
札は強烈な光を放つ。それと同時に、
「お?戀歌も光ってる…」
主の刀も共鳴するかのように光を放ち始めた。そして、
「札が刀に吸い込まれやがった…」
落ちてきた札は戀歌の刃に溶け込み、消えた。
「なんだ…頭に歌が流れ込んでくる…」
主がそう呟いた次の瞬間、
「私を忘れるとはいい度胸だ!このまま首を刎ねられて死ねぇ!」
青嵐が目の前に一瞬で現れる!
「しまっ…!」
注意を怠り、動けなかった。しかしそれと同時に、
「忍ぶれど
            色に出でにけり
                                 わが恋は
             物や思ふと
                              人の問ふまで」
主が言葉を紡ぐ。
ガキン!
「なっ!?私の剛力をいとも容易く…!」
「知ってるか?忍ぶれど、って我慢するとか、堪えるって意味なんだよ。剛力が来てもその力に耐えて弾き返せばいいんだよ!」
「ぐふっ!?」
火花を散らし、主の刀が奴の剣を弾き返す!
「そんな…!なんなんだ!その言葉は!?なんなんだその力は!」
「昔の人が恋の気持ちを言葉にしたんだよ、粋なことするよな。」
「余裕そうな顔を…!青神様、私に更なる力を…!」
「へー…なら、俺もその力比べに乗ってやる。全力でかかってこいよ…」
主がそう言った瞬間、
「うおおおおおおおあああああああああ!」
青嵐の体が青黒く光を放ち始める。
「これで私は最強だ…!貴様ごとき、ひねり潰してくれる…!」
「おうおう、言ってくれるじゃねえか、だがな…」
主は妾をちらりと見た。
「え…?」
「守るべき大切な人がいるなら俺は負ける気はしねえよ。」
ドクンッ
突然、妾の心臓の鼓動が早くなった。
「…そういうことは後で言ってくれぬか…」
「ははっ、悪ぃ悪ぃ。さて…殺るか殺られるかの最後の賭けだ。」
そういうと、主は戀歌を鞘に収め、抜刀の構えを取った。
「ガァァァァァァァァ!」
その瞬間、青嵐が雄叫びを上げて突っ込んでくる!
それと同時に主が言葉を紡ぐ。
「ちはやぶる
               神代も聞かず
                                竜田川
            からくれなゐに
                                 水くくるとは」
瞬間、主の刀が唐紅色に染まり、神速で抜き放たれる。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
ザシュッッ
肉が切れた音がする。二人は静止したまま動かない。先に崩れたのは、
「なぜ…この…私が…負け…る…」
青嵐だった。
「主が…勝った…のか?」
あまりにも一瞬の出来事で妾は目が追いつかなかった。
「なんで負けたかって?お前の修行が足りないんじゃねえの?」
何事もなかったように平然と返す主。
「…なぜだ。」
「あ?」
「なぜ…峰打ちなのだ…」
そう青嵐が呟いた時、妾ははっと気がついた。
主は確実に横一文字に切り裂いたはず、しかし、青嵐は生きている。
「主…なぜ、殺さないのだ…?そいつは、妾たちの命を奪おうと…」
「分かってねえなぁ、お前。」
ペチッ
「う…おでこが痛い…」
「こいつは主君の命に忠実に従っただけ、しかも里の民の命は取ってない、これで殺す理由、あるか?」
「…だがしかし、生かしておけばまたいつか…」
「そん時は何度でも止めればいいさ。」
そう言って主は青嵐に近づく。
「私をどうする気だ…」
「傷を癒す薬師に診てもらう。」
「…殺さないのか?」
「なんでそんな話になるんだよ…お前は青神の命令に従ってここを通さないように守っていたんだろ?そもそも青神の目的は妖怪の世界を支配することなはずだ、なら妖怪を殺しても何も思わないはず、けどお前にやられている妖怪は一人もいなかった。お前ら、本当にこんなことしてぇのか?」
「……」
「まあ、あいつが青神を無力化してくれるだろうし、詳しい話は後でしてもらうさ、とりあえず、行くぞ。」
そう言って主は青嵐に腕を回させ、歩き出した。
「あ、主、妾も手伝うぞ。」
「サンキュ。」
主はああ言ったが、メル殿は大丈夫だろうか…

「おらおらおらぁ!」
「私の鞭攻撃を刀で捌くの!?やるねー!」
天子の怒涛の鞭が降り注ぐが、俺は全てをいなしていた。
「なら、突き刺さって欲しいなぁ!」
「そんなもん当たるか、ボケ!」
突然地面が突き出してくるが、バックステップで避ける。
(ちっ…こっちの攻撃が一切通らねえ…どうしたらいい…)
避けながら突き出した地面を躱し、一瞬視界が切れた後、天子の元に向かおうとしたその時、
「なっ!?」
「バァ!懐、いただきー!」
一瞬、視界が切れただけでワープしたかのように俺の傍に飛び込んできた!と思ったら、
「ばいばーい!」
「何がしたいんだ、お前…?」
天子は何も攻撃せず、バックステップで離れた、と思った次の瞬間、
「お前、なにをーー」
「よっ!と!」
フワリ
「は…?」
突然俺の体が宙を舞った。ふと足を見ると、
「くそ!そういう事か!」
天子の鞭が絡まっていた。天子は先程、懐に飛び込んだ時に一瞬で足に鞭を結んでいたのだ。
「落ちろー!」
「やべえ!?」
天子が絡まった鞭をほどき、俺は完全に宙に投げ出された!落下する体を空中で整え、
「おらぁぁぁぁぁ!」
ガキンッ!
二本の刀を思いっきり地面に突き立てる。
「ぐぅぅぅぅ!」
両手が衝撃で痺れる。そこに、
「これ、避けれるー?」
閃光のような鞭が襲いかかる。俺は刀を持った手を離し、限界まで体を捻るが、
「ぐふっ!」
脇腹が掠ってしまった。
「あらー、直撃とまではいかなかったかー。」
「随分余裕ぶっこいてくれるな…」
俺は刀を取り、構える。しかし、先程の腕の痺れはまだ残ったままだ。上手く刀を持つことが出来ない。
(刀は捨てるか…?しかし、それ以外で攻撃が通るかどうか…)
そう考えていると、
「ねえ、いい加減諦めてくれない?私も疲れちゃったしさー。」
天子がいきなり手を横に振りながら、こんなことを言い出した。
「てめぇを殺すまでは諦めねえよ…だから、てめぇもさっさと死んでくれ…」
俺は懐に入って打突で攻めようとした。が、次の瞬間、
「!!?」
ゾクッ!
俺の背中に突然、悪寒が走った。
(なんだ…!?何かやべえ!)
俺は咄嗟に横っ飛びで避けようとするが、気づくのが、遅すぎた。
「シャァァァァァ!」
「がぁぁぁぁ!?」
俺の後ろに突然、大蛇が現れ、俺の足を咬んだのだ!
「な、なんで蛇が後ろに…?クソ!離れろ!」
刀で無理やり払い除け、大蛇をよく見ると、尻尾がやけに細かった。
「なるほどな…この鞭は大蛇に姿を変えられるってことか…」
「大正解!でも、よく反応したね。心臓を蛇ちゃんに食べてもらおうと思ったのに。」
大蛇を撫でながら、天子は言う。
「勘だよ。大蛇とは思わなかったけどな。」
「すごいね、人間の勘って、まあでもここからは蛇ちゃんと戦ってもらおうかな。」
「はっ!そんな蛇なんて一撃で…」
俺は蛇に向けてスタートを切ろうとした瞬間、
「ぐあ!?な、なん…だ…」
視界が歪み、体が重くなる。体の内側から大きな吐き気が込み上げてくる。
「オェェェェェ!」
「あはっ!効いてきた効いてきた!」
「てめぇ…なに…を…ごはっ!」
「さっき蛇ちゃんに咬まれたでしょ?蛇は毒持ってるの知ってるよね?その毒があなたの体内を巡ってるの。多分数十分で死んじゃうよー。ちなみに、あの木にも同じ毒を入れたから、あなたが死んだらあの木も魂も死んじゃうね!あはは!」
「く…そが…から…だ…が…」
「うんうん、動かないでしょ?さあ蛇ちゃん、可哀想だから一思いにやっちゃえー!」
「ぐぁぁぁぁぁ!?」
大蛇が俺の体をギリギリと絞めあげる。あまりにもキツく、骨が折れそうなほどだ。
「あたしの野望を邪魔するやつはこうなるんだよー!」
「ぐ……が……」
(サラ…守ってやれなくて…ごめん…レン…後のこと、頼んだよ…)
痺れ、締めあげられた体を必死に動かそうとする。しかし、全く動く気配がない。諦めかけたその時、手に何かが当たった。
(な…なんだ…これ?)
次の瞬間、
ピカァァァァン!
俺のポケットが強烈な光を放つ。
「な、なにこれ!?」
その光を浴び、大蛇の拘束が緩む。
「うおおおお!」
毒が回った体を必死に動かし、光っているものをポケットから取り出す。取り出したものは、
「サラが…選んでくれた…キーホルダー…」
雑貨店で買った二匹の竜のキーホルダーだった。その直後、
(「ほら、この竜たち、水色と赤色だしメルの刀の色にも合うんじゃない?」
「確かに似合いそう、じゃあこれにしようかな、サラ、選んでくれてありがとう。」
「ふふ、どういたしまして。」)
店での情景を思い出す。
(「レン…!こっちは頼んだよ!」
「メル、お前こそ、サラのこと頼んだぞ…!ここはトヨと二人で抑える!」)
ゲートに入る前のレンとの会話を思い出す。
(「メル!先に行って!ここはあたしが押さえるから!」
「…テンキ、信じるよ!」)
大勢の手下の足止めをたった一人で引き受けてくれたテンキとの会話を思い出す。
(こんな毒がなんだ…!みんなが俺を信じてくれたんだ…!なら、命を懸けてそれに応えるしかねぇ…!)
俺は諦めかけた心を捨て、必死に耐える。
すると、キーホルダーの光がスっと消えた。
「えー?おもちゃだったの?なーんだ、大したことないじゃん。」
「お前こそ…気づかないなんて…大したことないな…」
「え?何言ってるの?この状況でそのおもちゃが何とかしてくれるとか思ってる?ないない!あはは!蛇ちゃん!潰しちゃって!」
グシャッ!
肉が潰れる音が響く。
「あはは!いい子いい子…え?」
もっともそれは、
「シャァァァァ!」
大蛇の肉が喰いちぎられた音だったが。
大蛇が俺の体を離し、天子の元へ帰る。
「え…うそ…なんで?」
「こいつら、腹が減ってたみたいだ。だから、その蛇、喰わせてやってくれよ。」
俺は天子たちと距離をとる。それと同時に、
「主、後ろに下がっていてくだされ。」
「我ら水竜と炎竜がこやつらの相手をしますぞ。」
上空から水色と緋色の竜が現れた。
「まさか…そのキーホルダーから出てきたっていうの!?そんな…」
「さあ、第二ラウンドだ。こっからが本番だな。」
「っ…、で、でも!君はあと数十分で毒が回って死んじゃうんだよ?お陀仏なの!」
「もう俺の体には毒なんて残ってねえよ。」
「え…?う、嘘ばっか言わないでよ…」
「嘘じゃねえよ。」
「我、水竜の力により、主の体内を浄化させて頂きました。」
「ありがとう、おかげで体が軽いよ。」
「っ…!この、人間の分際で…!」
天子が怒り任せに突っ込んでくる。蛇から鞭に戻り、そのまま鞭を放ってくる。
ガキンッ!
「そんなに人間が嫌いなのかよ、なんでだ?」
俺は刀で弾きながら、問いを投げる。
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!」
天子は何かを怒りで消し去るように怒声を放つ。しかし、感情が乱れれば、
「捉えたぁぁぁぁ!」
「きゃぁぁぁぁ!?」
鞭の動きも乱れる。俺は一瞬の隙に懐に入り、腹に蹴りを放った。
「ぐぅぅ…」
「なぁ、なんでそんなに人間を嫌ってるんだ?そもそも、お前らからしたら人間が何かすら分からないんじゃねえのか?」
「父さんは…私を残してこの世界を支配しようとして…そのまま帰って来なかった…父さんが消える前、最後に言った…妖怪のために戦う優しい人間は生かせ…って…」
「それでなんで人間が嫌いになるんだよ?」
「父さんは…その人間に殺されたのよ…!妖怪なんかのために…!命をかける人間に…!」
「…殺されたっていう証拠はあんのかよ?」
「そんなの見てないから分かんないわよ!でも帰ってこなかったってことは…その人間と戦って殺されたに決まってるわ…!妖怪なんて…私たちの下にいる存在なの…!私たちに支配されて当然なのよ…!」
その直後、
ビュンッ!
「!?」
天子の顔の横を木の棒が通り過ぎる。
「…てめぇ…」
俺は一呼吸置いて、
「ふざけたこと言ってんじゃねえぞ!何が「妖怪なんか」だ!てめえらが上とかねえんだよ!みんな平等だ!住む世界が違うだけなんだよ!それに人間はそんなことをするもんじゃねえ!そんな勝手な決め付けで、俺の大切な人を殺そうとするんじゃねえええええ!」
言いたいことを全部ぶちまけ、力任せに突っ込む!
「もうどうなっても知らないわ…私はここで…負ける訳にはいかないの…!」
天子はその場に止まったまま動かない。俺はそれに違和感を覚えながら、
「おらぁぁぁぁ!」
お構い無しに突っ込もうとする。しかし、
「あ…やっべ!?」
俺は足元を見てその足を止めざるを得なかった。次の瞬間、
「あああああああああああ!」
天子が叫ぶと同時に、地面に大量の亀裂が走り、
ドォォォン!
「落ち…わああああ!?」
俺の体が地中に吸い込まれていく!何の反応もできなかった俺はそのまま落ちていく…しかし、
「主!」
炎竜が咄嗟に俺の体を自分の体に乗せ、
「はああっ!」
そのまま急上昇した、と同時に先程までの穴が
ドガン!
一気に閉じられた。
「助かった…」
俺は炎竜から降り、地面に着地。
「ああああああああ!」
天子はなおも叫び続けている。
「主、あやつは力が暴走していると思われます。」
「このままではあやつの体も壊れます、耐えてそれを待った方がよろしいかと…」
「いや、それはダメだ。そんなの…許すわけがねえ…俺がこの手で…!」
そう言った瞬間、
「ゲボッ!」
俺の口から赤黒い液体が出てきた。
「クソが…さっき締めあげられたせいで内蔵が…」
「主の体も限界になってきております…ここは下がっていてください…我らがあやつを仕留めます。」
「いや…ダメだ…ダメなんだ…あいつは殺したら…ダメだ。」
「何故です!?生かしておけばより被害が拡大する可能性が…」
「頼む…俺を…信じてくれ…」
「炎(エン)、ここは主に任せるぞ…」
「だがしかし…」
「主は…あやつを救おうとしておる。」
「何!?…分かった、主よ、お気をつけて…」
「ああ、分かった…ゴフッ!」
俺の口から再び血が出てくる。
(俺が攻撃できるほどの体力は残り1発分…俺は、サラを…みんなを…そして、天子を…救ってみせる!)
「うおおおおおお!」
俺は最後のスタートを切る。その踏み込みは大地を蹴り破ろうとするほど。
「ああああああ!」
天子は暴走しながら次々に地面を隆起させてくる。
「炎竜、水竜、俺の刀に力を貸せぇぇぇぇ!」
「「承知!」」
その直後、俺の刀にとんでもない力が加わる。
「ううううううう!」
地面からの攻撃が当たらないと分かった天子は鞭をもち、嵐のように振り回す。俺は刀でそれをいなし、懐に入ろうと思った、だが、
「ぐっ!?」
鞭の力が先程より何十倍にも上がり、俺は刀を弾き飛ばされた!だが、
「おらぁぁぁぁぁ!」
俺は読めていた。暴走し、能力が上がっている天子なら鞭で俺の刀を吹き飛ばす、と。
俺は炎竜と水竜に刀に力を加えさせたが、あれはフェイントだった。
俺は拳を思いっきり握しりめ、
「これで、終わりだぁぁぁぁ!」
「あああああああ!?」
ズガァン!
俺の拳が天子の額に入り、天子は大樹の方にゴロゴロと転がる。
「はあ…はあ…グフッ!」
俺の体はとっくに限界を超えていた。だが、根性で天子の方へと歩み寄る。
「…私は…間違っているの…?お父様の言う通りにして過ごしてきたこの時間は…無駄だったの…?…まあいいわ…さっさと殺してよ…私もお父様の所へ行く…」
「…死んだって父さんの所に行くことは多分できねえよ。」
「あなたに…私の…何がわかるの…?」
「俺はお前の父さんについてほんのひと握り、生きてる可能性があると思ってる。」
「…そんなの…あるわけないじゃない。」
「じゃあ、この場所で静かに命を落とせ。どうせ俺が殺さなくても、失血死で死ぬだろ、ここに止まって死ぬか、可能性を見つけるためにもがくか、どうする?」
そう言って、俺は手を差し伸べた。その言葉がきっかけになったのか、
「………」
奴は、無言で俺の手を取った。俺はグイッと天子を引っ張り、
「炎、こいつをお前の背中に乗っけてくれ。」
「御意。」
「水(スイ)は俺を乗せてくれ。」
「承知。」
「レンたちの所へ戻るぞ。」
俺たちは飛び立とうとした、その時、
「メルーー!」
テンキが駆け寄ってきた。なぜか二人居たが。
「もう戻っていいよ、あたし。」
「確かに疲れたなぁ。休ませてもらうねー。」
そのうち一人は光を放ち、雑貨屋でテンキが買っていた人形に戻った。
「わぁ!この竜たち、かっこいい!…メル、この人誰?」
「ちょいと色々あってな。」
「返答次第ではいつでも殺せるようにするけど?」
「殺すのはもう少し待って、やりたい事があるんだ。」
「…メルがそう言うなら分かった。」
「ほら、テンキも乗りな、レンたちの所へ帰ろう。ゲートが塞がれてるし、空から竜たちに乗って帰ろう。」
「わーい!」
僕はテンキの手を取り、引き上げる。
「出発進行ー!」
「よし、帰ろう。」
「…お父様…」
こうして、僕らは大樹のもとを離れた。

「…ん…」
気がつくと、ベッドの上にいた。そのそばには老婆が神妙な面持ちで私を見ている。
「姫様!?目を覚ましなさったか!」
「…ここは?いたっ!」
頭に痛みが走る。と同時に、視界がスーッと開ける。
「私は…?ここで何を?」
「姫様は…神に魂を潰されかけていたのです…」
「え!?」
状況が飲み込めない私に賢者様は続ける。
「その神はこの世界の支配を狙っていました…他の皆様はそれを止めるべく、向かわれました…」
「そんな…メルたちは、どこに…!?とにかく、探さなきゃ…」
私はベッドから飛び出し、
「姫様…!今動いたら体が…!」
賢者様の忠告も聞かず、小屋を出た。
「メル…レン…テンキ…トヨ…お願い…!生きてて…!」

竜たちに乗っている間、僕は父さんの記憶を思い出す。
「父さんっていつも出かけてるけど、どこに行ってるの?」
「ははは!俺はとっても綺麗な場所に行ってるんだ!そこは面白いぞ!犬がいたり、おじいちゃんがいたりだな!」
「僕もそこに連れて行ってよ!」
「お前はまだ早い、いつかお前も高校生くらいになったら行けるんじゃないか。」
「早く高校生になりたいな!」
「お前もきっと行けるさ!」
「父さんと一緒に行きたい!」
「…父さんは一緒に行けるかどうか分からないなぁ…」
「え?そうなの?」
「はは!それより、妖怪の話をしてやるから、よーく聞いとけよ!」
「わーい!」

「父さん…こんな夜遅くに出かけるの?」
「おお!起きてたのか!そうだ、行ってくる。」
「どこ行くの?」
「それは言えない。」
「なんで?」
「言えないが…いずれ時が来たら分かる。お前のことはおじいちゃんに頼んであるから、よろしくな。」
「分かった、行ってらっしゃい、帰ってきてね。」
「…ああ…」
パタン
その日を境に僕は父さんを見たことは無い。

「主殿!メル殿たちが帰ってきたぞ!」
「…なんかまた凄いことなってんなこりゃ…」
僕達は炎と水に乗り、無事にレンたちの元へ帰ってきた。
「到着ー!」
「よいしょ、ありがとう、炎、水。」
「それでは私たちは戻ります。」
「御用があればいつでもお呼びください。」
そう言って、炎と水はキーホルダーの姿に戻った。
「きゃっ!…いたた…」
唯一降りていなかった天子は地面に落とされる。
「…メル、こいつ、生かしたのか?」
するとレンがそういいながら、僕に鋭い視線を向けた。
「そいつが黒幕なんだろ?だったらそいつの首、飛ばしていいか?」
レンはすぐに刀を抜き、
「…!」
「メル、答えてくれ、なんで生かした?お前にとっちゃ、サラを殺そうとした奴だぞ?」
剣の先を天子の首筋に当てた。
「………」
僕は黙り込む。確かにサラや他の妖怪の命を危険に晒したことは事実だ。そこは到底許されることでは無い。しかし、天子は親の言いつけを守りすぎている。
「この子は…父さんの成し遂げられなかった夢っていう呪縛に囚われてる…父さんの意志を継ごうとしただけだ…死んだと思ってる父さんの、ね。」                         ・・・・
「死んだと思ってるってことは…死んでないのか?」
「恐らく…ね。」
その言葉に天子は驚き聞き返してくる。
「え…お父様が…生き…てる…?」
「可能性の話だけどね、…ぐっ!」
そう言った瞬間、体がぐらりと揺らいだ。
「主殿!メル殿の傷が…!」
「おい、しっかりしろ!」
「とりあえず、薬師の元へこの者とメル殿を運ぼう、テンキ殿は自分で歩けるか?」
「うん、大丈夫だよー!」
その言葉を最後に僕の意識は途切れた。

「ごめんね…メル…私、行かなくちゃ…」
「え…?行くってどこへ…?」
「さようなら…」
「ちょ、ちょっと待って!サラ!」
僕の視界の向こうへサラが消えていく。なんで、必死に頑張ったのに…
「そんなの…嫌だぁぁぁぁ!」

「うわぁぁぁぁ!」
ガバッ!
ゴツンッ!
「いたっ!」
なにか固いものに当たった。段々と開けてく視界に飛び込んできたのは、
「いたた…メル、気がついたのね!?」
なんと、サラだった。
「さ…サラ!?なんで…向こうに行ったはずじゃ…」
「向こうって?」
「いや…なんでもない…」
てことは、さっきのは夢だったのか…
安心したと同時に、
「……」
「め、メル…?」
気づいたら涙を流していた。
「…よかった、本当に…よかった…」
「あれくらいで私が死ぬわけないじゃない…もう…」
サラが僕を抱きしめる。僕はしばらくサラの温もりを感じながら泣いた。
サラはレン達と薬師に僕が起きたことを伝えてくると言って一階に行った。僕は周りを見渡す。すると、もうひとつのベッドに天子が寝ていた。そしてその横に体長2メートル近くにもなるゲートの前にいた騎士が座っていた。
「あなたは…青嵐さんですよね?」
「…何故俺の名前を知っているのだ?」
「天子に聞いたんです。自分の言うことをきちんと聞いてくれる、忠誠の騎士だって。」
「そうか…青神様が…」
しばらく沈黙した後、青嵐がおもむろに口を開く。
「お前ら人間の思考は理解ができん…」
「え?」
「なぜこの世界を滅ぼそうとした私たちに生きる権利を与えるのだ…そんなもの、私たちを殺せば全て解決するというのに…」
「それは違います、確かにさっきのサラや、他の妖怪についてはそれで丸く収まるかもしれません、しかし、あなた達はどうですか?主君が父の意志を継ごうとしてそれに部下がついて行っている…それではあなた達に自由が無いですよ。それは全て解決するとは言いません。現に、被害はほとんど出ていません、あなた達ならもっと僕らが止める前に被害を大きくできたはず、それなのにこうなったということは心のどこかで自分たちの行動に疑問を抱いていたのではないでしょうか?」
「……」
青嵐は黙り込んだ後、
「ふふふ…貴様らには敵わんな…」
笑いながらこう言った。
「私は青神様に仕える身…主君の命令に背きたくは無かった…しかし、無辜の民を手にかけることも私自身は許さなかった…それゆえ、私が出来たことはあのゲートの門番をすることだ…私はレンとやらに生かされた身…本当は消えなくてはいけないのだが…あやつに主君の為に生きろと言われてしまい…このザマだ…人間とは優しい生き物だ…妖怪だろうと、神の部下だろうと神だろうと…分け隔てなく接する…私は優しくすることは慣れていないため、そのようになれるかは分からぬが…妖怪たちに罪滅ぼしとしてできることはしていくつもりだ…」
と青嵐が話し終えた時、
「う…うん?…ここ…は?」
天子が目を覚ました。僕はベッドから起き、青嵐の横に立った。
「青神様!」
「青嵐…?なんで…?」
「ここは妖怪の薬師の宿でして…」
青嵐が僕が倒れてからのことを説明する。
「そう…とにかく、青嵐が無事でよかった…ありがとう…生きててくれて…」
「青神様、お礼を言うならば、人間である二人に言うべきかと思います。」
「…そう、ね。ありがとう…」
「そんなことないよ…僕もいまさっき起きたばかりだし…」
と僕が言うと、天子がいきなり、
「うーん!久々に動いてたっぷり寝たから体が元気かも!」
明るく言い、大きく伸びをした。
「それで、お父様のこと、教えてくれるの?」
天子がそう聞いてくるので、
「分かった、けどみんな揃ってからにするよ。」
僕は一階に行こうと言って階段を降りた。
階段を降りると、
「その様子だと、元気そうだな。」
レンが薄く笑って出迎えてくれた。
「うん、お陰様でね。」
「お前とそいつ、一日中寝てたんだからな?」
「え?そうなの!?」
「うむ、二人ともぐっすりであったぞ。」
「でもその間に青嵐から天子のこといっぱい聞いて納得したんだぞ!」
「お前、ほぼ聞いてなかったろうが。」
ムニュー
「はへへー…(やめてー)」
「ただ…サラが天子に言いたいことがあるんだと。」
「そっか…」
その言葉を聞いてサラが天子の方に歩みよる。
「ねえ…あなた…」
「………」
サラが片手を上にあげる。天子の頬を叩くつもりか。
「サ…」
「メル、止めるな。」
「だって…」
「サラにとっちゃ、殺されかけたやつだ。当然だろ。」
サラが手を振り下ろす。
「!!」
天子は怖くて目をつぶった。しかし、いつまでもパチンッと音がならない。恐る恐る天子は目を開けた。
ギュッ
「お父さんがいなくて…寂しかったでしょう…」
サラは天子を抱きしめた。怒るでもなく、叩くでもなく。
「え…?」
天子は訳も分からず、困惑している。
「あなたは私たちにとって許されないことをしたわ…でも、私があなたの立場だったら同じことをするかもしれない…」
「え…え…?」
「だからほら、思う存分泣いていいのよ?」
「……ううっ。」
天子はサラに抱きつき、
「ああ…!ああああああ…!」
大号泣した。
「僕が止めるまでもなかったよ…」
「サラの人を許す心は世界一だな…」
僕らはサラの寛大な心に驚き、感心した。
「まあ、とにかく収まって良かった。それで、メル殿、天子殿の父君が分かったかもしれないと言っていたが、それは本当なのか?」
トヨが不意に聞いてきた。
「うん…可能性の話、だけど。」
「その人って誰なのー?」
「それは現地に行ってのお楽しみ。」
「それじゃー早速行こう!」
テンキが勢いよく、薬師の宿を飛び出していく。
「おい!お前以外は全員重症患者なんだぞ!もうちょいゆっくりにしろ!てか、お前が先頭になっても分からないだろ!いたた…」
レンがテンキを追いかけるが、怪我が治りきっていないようで背中を気にしながら歩いていく。
「テンキは相変わらずだなぁ…」
「私達もゆっくり行きましょ。」
「もしお父さんじゃなかったら本当にごめん…」
「私はあなたのこと信じるよ。可能性って言ってたけど、ほぼほぼ確信得てそうだし。」
「青神様、参りましょう。」
こうして僕らはある場所へと向かった。

「ここって…」
「ああなるほど…そういう事か…」
「むむむ…」
「ここなのー?」
僕らが向かった先は、僕らが色々なグッズを買った店、先程の雑貨屋だった。
「ごめんください。」
「おお…帰ってきよったか…」
店奥から店主の老爺がでてきた。
「「…!!」」
天子と青嵐が驚いた表情で店主を見る。
「あなたの娘さん、ですよね?」
「ああ…そうじゃ…我が娘、天子じゃな…そして、青嵐も…」
「お父様!?」
「先代様!」
二人が膝を着いて頭を垂れる。
「顔を上げよ、すまないのう…お前らには苦労を掛けたな…」
「いえ…とんでもございません…お父様の夢を継ごうと頑張っておりましたのに…この者達に阻まれ…」
「先代の野望を天子様が叶えるべく、私は忠義を尽くしておりましたが…」
「「その半ばでそれが誤りということに気が付きました。」」
「その通り、わしも最初は妖怪を支配することが神の使命と思っていたが…二人の人間と闘いになった時、やつらが必死にわしを説得してくれた…。」
「じゃあ、お父様は…人間に殺されたのではなく…?」
「ああ、ワシは二人の人間に諭され、自ら妖怪となったのじゃ…」
「ううっ…良かった…」
天子は泣き崩れた。
「青神様…」
その姿を青嵐が悲しいと嬉しいが半分ずつ混ざったような表情で見つめた。
すると、老爺は僕とレンを見た。
「本当にお主らには感謝しておるぞ…」
「いえ…そんな…」
「てか爺さん、全て知ってたんなら自分でこいつのこと助けに行けばよかったんじゃねえの?」
「お主らは妖怪の里を滅ぼそうとした者を何も無しに生かしておくか…?」
「ああ…それは確かにしないかもな…」
「ワシは人間にこの雑貨屋で天子を止めてくれる者が現れるのを待ってろと言われたのじゃ…」
「でも、そんなの現れるかどうか分からなくないですか…?」
「あやつらは不思議な確信があったようじゃ…確実に二人の意志を継ぐものが現れるとな…」
「その人間のことって他になにか分かりますか…?」
「おお…そうじゃ…「写真」というものがあるんじゃった…ちょっと待っておれ…」
そう言うと、先代青神様は店の奥に引っ込み、
一枚の古びた写真を持ってきた。
「ほれ…こ奴らじゃ…」
「どれどれ…は…!?」
「えっと…え!?」
そこに写ってたのは、父さんだった。そしてもう一人は、
「なんで俺の親父が…ここに…?」
なんとレンのお父さんだった。
「そうか…お主らはこ奴らの息子だったのか…ならば、先程話した確信も納得じゃな…」
先代青神様は合点が行ったように頷いた。
「お主ら、こ奴らからこの里のことは聞いとったか?」
「えーと…あ…」
僕は父さんとの記憶を思い出す。
「とっても楽しい場所だって…犬がいたり、おじいちゃんがいたり…それが、ここ妖怪の里だったんですね…」
「俺も小さい頃は親父から妖怪の昔話、聞かされたな…それぞれ変わったエピソード聞いて…あれは実際に妖怪に聞いてたんだな…妖怪なんていねえと思ってたが…メルに連れられて来てやっと親父のこと信じたわ…ま、信じた時にはとっくにいなくなってたけどな。」
「僕たちの父さんは闘った後、どこに行ったか知ってますか?」
「どこに行ったかは知らぬ…教えてくれぬ…」
「教えてくれない…てことは、まだどこかにいるんですか?」
「ああ、時々連絡は取っておる…」
「死んだわけじゃなかったんだ…」
「またいつかは会えるじゃろう…」
「ありがとうございました。」
「お礼を言うのはこちらの方じゃ、ほれ。」
そう言うと、天子が立ち上がった。
「ワシは青嵐とこの里を復興する。わしの娘をお主らの元で引き取って貰えないだろうか…?」
「お願いしますっ!」
天子が勢いよく頭を下げる。一瞬、困惑はしたが答えは決まっている。
「うん、よろしくね。」
僕がそう返すと、
「ありがとー!」
天子が突然僕に抱きつく。
「メル、抱きつかれること多くね…?嬉しそうだな。」
「そ、そんなことないだろ!」
「ちょっと!私のメルなのよ!」
「突っ込むとこそこじゃないよ!てか違うし!」
「楽しそうであるな…」
「あたしたちもレンに抱きついとこ!ギュー!」
「ばっ!?痛てててて!傷が…」
「主なら大丈夫だろう。」
「トヨ!助けろ!こいつ何とかしてくれ!」
その様子を青嵐と先代青神様がしみじみと見つめる。
「ワシの娘、存分に可愛がってやってくれ…」
「当代もまだお若いですからね、あの人間たちの元で過ごせば、また変わるかもしれません。」
「そうじゃな、やはり人間は心が澄んでおるな…」
その後、何とか天子達を引き剥がした僕達は傷を抑えながら、バーグさんと長老の元にむかったのであった…。

「本当にありがとうございます!感謝してもしきれません!」
屋敷に着いた僕達は開口一番、精一杯の感謝の言葉を述べられた。
「いえいえ、妖怪の里はこのままでいて欲しいですから。それにまだまだ復興の仕事が残っているので、僕達も手伝います。」
「いや、それには及びません!あなたがたにはゆっくりして頂きたい!」
「うむ、お前らは里を救うという歴史に残るような素晴らしいことをやり遂げたのじゃ、少しぐらい休んでも罰は当たらんわい。」
「う、うーん…でもなぁ…」
僕が悩んでいると、
「私が率先して直しておくからみんなは休んでて!」
天子が手を挙げた。
「いや、それはダメじゃ…」
しかし、長老にそう言われてしまった。
「な、なんでですかー…」
「わしらは理解しておるが、里の者達はまだお主らを忌み嫌っている者がおる、うかつにメル達から離れない方がよい。」
「そ、そっかー…」
天子はしょげている。自分が犯した罪の重大さを改めて認識したようだ。
「ふむ、主よ、せっかくの休みだ。商店街へでも買い物に行こうぞ。」
「へいへい、しゃーなしで付き合ってやるよ。」
「あたしも行くー!あ、もちろんレンはもう一人のあたしの分も買ってね!」
「それぐらい自分で払え!」
「いっぱいお金もってるじゃん!」
「一人分はまだ分かるが、二人分は意味わからねえだろ!…っててて!叫ぶと傷に触る…」
三人はどうやら買い物に出かけるつもりだ。
「僕は何も無いし、どうしようかなぁ…元々復興をお手伝いするつもりで来ちゃったし、何も考えてない…」
僕がうーん、と悩んでいると、
「じゃあ私が行きたいとこ付き合ってくれる?天子も来て!」
「うん、分かった。」
「はーい!」
「気をつけてな。」
「里の復興は我々にお任せ下さい!」
僕達はバーグさん達にお礼を言い、サラの行きたい所へ向かった。

「サラクは復興がかなり進んでるね。」
「クントセイの方はあまり被害が出てなかったらしいし、そんなに人を割いてないらしいわ。」
「私の兵士も働いてるっぽいよ!」
「そっか、それならすぐに元通りになりそうだね。」
「そういえば、天子ってなんで天子って名付けられたの?」
「私もよく分かんないんだー。なんか天から授けられた子って意味で名付けられたらしいんだけど、私正直この名前あんまり好きじゃないの…」
「なら、新しい名前考えてみたらどうかしら?」
「新しい名前…」
「ほら、メル、考えてあげて。」
「え!?なんで僕!?」
「テンキの時もつけてあげたじゃないの。」
「そ、それはそうだけど…うーん、何も考えてなかったなぁ…」
僕が何か別の名前を付けようと、天子を見る。
空の様に綺麗な青い髪、やはりここがチャームポイントだろう、ならば、
「青い空から降ってきたって事でセイラはどう?青ってセイって読めるでしょ?それでセイとソラを混ぜてセイラ、どうかな?」
「セイラ…セイラ、か…」
天子が俯く。
「もしかして…嫌だった…?嫌なら、考えるけど…」
僕がそういった瞬間、
「メル!ありがとう!今日から私はセイラね!」
天子…じゃなくて、セイラは感謝を述べながら、僕に抱きつく。
「ちょちょちょ!?抱きつきすぎ…!」
「こら!私のメルなの!早く離れて!」
「えーいいじゃんちょっとだけ!」
「もう…!」
「いやいや、僕は誰のものでもないから!」
そんなことをしているうちに、
「ほら!着いたわよ!」
目的地へ着いた。
「わぁぁ…」
「ここまで綺麗なのは初めてかもね…。」
僕とセイラも思わず見惚れる。
見上げた先には一本の桜の大樹、サラの魂が眠っている場所だった。
「ここは…メルが初めて私と会ってくれた場所…セイラは知らないかもだけど、とっても大切な場所なのよ…」
「そうだったんだ…ごめんね…」
「ううん、もういいのよ気にしなくて、たとえ、これが枯れたとしても出会った場所としては変わりないもの。」
「それで、サラはなんでここに来たの?」
「ここは今は私の魂が眠ってる場所だけど、もっと深い場所には、あらゆる英雄的存在の妖怪の魂が幾千、幾万、幾億も眠っているの、数々の戦争で散った妖怪の魂は皆ここに還るの…今回、事がこうやって収まったのは御先祖様たちが力を貸してくれたんじゃないかって思ってるのよ、だから手を合わせに来ようと思ったの。」
「そっか…なら、僕達も手を合わせとこう。」
「私も…」
僕らはしばらく大樹に向かって手を合わせた。すると、
「…え?」
僕の耳に美しい音色が聞こえる。と同時に、強い風が吹き、桜の花びらが大量に落ちてくる。
「…あははっ。」
僕は思わず、笑いがこぼれてしまった。なぜなら、僕は音色が聞こえた方に、父さんたちを見た気がするから。
「メル、どうしたの?」
「…いや、なんでもない…あははっ。」
きっと父さんたちはここで見守ってくれていたんだろう。いつまでも、ここで。
「父さん…僕、ここに来れたよ…これからもずっと見てていてね…妖怪たちは必ず僕たちが守るから…」
そう呟いた時、風で揺れた大樹が頑張れ、と言ったような気がした。

















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