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原由子「鎌倉 On The Beach」歌詞を読む

サザンオールスターズの原由子さん、31年ぶりのオリジナルアルバム『婦人の肖像(Portrait of a Lady)』

その中に収録されている「鎌倉 On The Beach」に描かれている歌詞世界について読んでいく。

まず最初に、アルバムタイトルについて
「クリムトの絵画から着想を得て名付けられた」と公式特設サイトにある。

これは、「美術館の隠れた扉から絵画発見、23年前に消えたクリムト作品か」というニュースが基になっている。(ラジオやさしい夜遊びで桑田さんが発言。
また、上記リンク先記事にあるように、婦人画が若い女性のうえに重ねて描かれていることも、自身のアルバムタイトルにふさわしいと原さんがラジオで語られた。)

サザンオールスターズとして十分な評価を得ている原由子さんが、長い時を経て自身のソロアルバムを制作し、ニッコリと魅惑的に微笑む隠されていた顔を見せる…。
なるほど、ピッタリなタイトルだ。

原由子さんの楽曲には名曲が多い。

最初のソロアルバム「はらゆうこが語るひととき」(1981年)は発売当時まだ女子高生だった私には刺激の強い歌もあった。
全曲最高!と毎日聴き込んだものだ。

この時は桑田さんが原さんをプロデュースという色合いが強く、
FMラジオのゲスト出演にも二人揃って呼ばれていた。

かなり色っぽい曲も歌っていることについて原さんが何て語るだろう?とラジオを聞いていたが、
桑田さんは、原由子がいかに素晴らしいシンガーであるかを熱弁!
その才能を妬むほどだ、原由子にボーカルを奪われたら、ギターも弾けない俺はほうきを持って立ってるしかない、とまくし立て、原さんは「うふふ!あはは!」とずっと笑っていた。

今回も桑田さんはアルバム制作に携わっているが、原さん主体。テレビ出演も単独で複数放映予定だ。

さて、そろそろ本題。

「鎌倉 On The Beach」

原由子さん出演のユニクロCMで耳にされた方も多いはず。

作詞:原 由子 & 桑田佳祐/作曲:原 由子

原さんがご自宅のリビングのテーブルで歌詞を考えていると、お茶を飲みにやって来た桑田さんが、どれどれ?といろんなアイディアを出し、出来上がったそうだ。…何とも麗しい光景…!

原さんはラジオやさしい夜遊びで、
この曲は、「鎌倉物語」の続編のような気持ち…と語られていた。

鎌倉は親戚もあり、幼い頃からよく訪れていた場所だが、
若い頃、一人で海辺で貝殻を拾いながらずっと歩いたことがあるそうだ。
(その切ない体験が「鎌倉物語」の曲世界になっている。
↓良かったら併せてお読みくださいませ。)

「鎌倉 On The Beach」はその続編。
大人になった彼女が見た海や神社の景色が描かれる。

この曲は「鎌倉の光と影を表現」したと原さんは語っている。(2022/10/15ラジオやさしい夜遊びにて)

※全歌詞は
サザン公式サイトで
公開されています。

♪朝靄漂う モノクロームの海辺で 裸足の指に絡む砂が冷たい

最初の一行でいろんな情報が読み取れる。

場所は海。
鎌倉の浜辺、しかも波打ち際だ。

時間はまだ夜明け前の早朝。

季節は夏。
素足で海へ入ることができるのは暑い季節だからだ。

実はもっと絞り込める。
盂蘭盆会という歌詞から、これは8月中旬のお盆の話だとわかる。
2022年でいうと8月13日~16日だ。

♪風さえまだ無く潮騒だけが響く 角のとれたガラスを拾い集めてた

穏やかに凪ぐ、一人静かな海の様子が目に浮かぶ。

そこで彼女はシーグラスを拾っていた。

シーグラスとは、ガラス瓶が割れ、その破片が長い時間をかけ砂で自然に研磨されることで丸くなったもの。

独特の風合いがあり珍重され、アクセサリーとして人気がある。

MVの中でもシーグラスで素敵なアクセサリーを作る映像が流れる。

そして、
昔、破れて壊れた彼女の恋心も年月を経て角が取れ、形を変え、丸みを帯び、柔らかな色合いに変わった。その想い出をゆっくりと少しずつ拾っている。

♪濡れたサンダルを脱いで

濡れて重くなったサンダルを脱ぐ。
普段抱えているストレスや心のモヤモヤを取り払って。

♪茜色に染まり始めた 東の空手を合わせて

鎌倉の静かな海で一人、ご来光を拝むのってどんな気分なんだろう。
あまりの美しさ、清々しさに、思わず自然と手を合わせたくなるのだろう。

♪ほら幽玄の風鳴いてヒューララ Oh Oh  

幽玄という言葉が似合うのもここが古戦場 鎌倉だから。

急に吹く一陣の風に、ハッとさせられることってあるよね。

♪生かされて私はここで幻想(ゆめ)を見る

ここまで生きてきた人生を振り返ると、自分自身の能力、努力だけでなく、
運や人との巡り合い、周りの人たちの支えがいかに大きかったかを改めて思う。

「生きてきた」というより「生かされて」今、自分はここにいるんだな…と悟る。

ライブでこの曲を原さんが歌う時、幻想(ゆめ)を見る「ここ」はステージかもしれない。

♪盂蘭盆会(うらぼんえ)の参道(みち) すれ違うのは誰? 思わず振り返れば 人影のつむじ風

盂蘭盆会という単語が曲に入るって、すごい!なかなかないと思う。

2番冒頭に出てくるが、この参道は鎌倉の鶴岡八幡宮。
賑わう境内で感じる人影、幻影(ゆめ)とは?

幼い頃、この神社へ一緒に参拝した両親、きょうだい。

夏祭りにはしゃいで夜店を見て回ったあの頃の友達、恋人、そして自分。

恋に破れて鎌倉を一人散策したあの時の自分…。

いろんな人の思いや念が渦巻いていた歴史あるこの場所だからこそ感じる、時の流れの中のあれこれ。


♪山の端さやかに夏が両手を広げた 飛び交う鳥の声に心さすらう

美しい表現!

山の形がハッキリと見え、とても夏らしい景色。鳥の鳴き声も聞え、
晴れやかな風景なのに、彼女の心は「さすらう」。

「さやか」と真逆の言葉を持ってくるところが人の心の機微を掴む。


♪鶴岡八幡宮(じんじゃ)の向こうに白い雲が沸き立ち 
♪銀杏が天に蒼き枝を伸ばしてる

ここも真夏の描写。
夏だから銀杏の葉が青々としている。

この銀杏は原さんにとって特別なものだとテレビ「マツコの知らない世界」で語っておられた。(2022/10/18放送)

鶴岡八幡宮の大銀杏は、鎌倉幕府3代将軍源実朝 暗殺の際、公暁が隠れていたことで知られる大樹。
悲しくつらい歴史の数々の場面をこの樹は見てきたのだ。
その大銀杏が2010年、倒木。
同じ年に桑田さんも大病を患い、ライブツアーも中止、活動を休み治療に専念することになった。
桑田さんご自身はもちろん、奥様である原さんもどんなに心を痛められたことだろう…。

その後、大銀杏の残った根から若芽(ひこばえ)が芽吹いた。
この喜ばしい芽から育った枝は神社のお守りとして配られた。
その一つをご友人から頂き、桑田さんの枕元に今も置かれているのだそう。
病を克服し、エネルギッシュにステージに経ち続ける桑田さんの姿と重なる銀杏の樹は守り神でもあるのだ。

♪街のざわめきの中不意に募る切なさは何故 遠い記憶呼び覚ますの?

切なさを感じる瞬間は、誰もいない静かなところより、
雑踏の中で一人いる時、ふと感じるもののほうが強く、深いことがある。

♪今悠久の舞 静やかなる季節(とき)
♪儚くも美しい白い花びらよ

「白い花びら」とは…今、こうして穏やかに過ごせている自分自身の人生か。

♪星月の郷呼びかけるは誰? 

星月(ほしづき)の郷とは鎌倉のこと。

星が大変きれいに見えたのね。昔のことだし暗かっただろうしね。

美しい言葉を重ねてくるなぁ!たくさん本を読んでいろんな知識を吸収してらっしゃるのね。

♪糾(あざな)う糸のように幸せは巡り来る

「糾う」というあまり聞かない言葉が投入される。
この単語こそが、今作品のテーマと言える。

縄をよることを糾うという。

「禍福は糾える縄の如し」というのは、幸不幸はより合わせた縄のように表裏一体、予測不能。
人生、良いことばかりでも、悪いことばかりでもない。
ラッキーな時こそ気を引き締めて、
悪運に見舞われた時も希望を捨てずいよう。
そうして彼女はまた歩き出す…。


原さんの、そしてサザンと共に生きてきた私たちの今の心を映すような素敵な曲。





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