サザンオールスターズ「鎌倉物語」歌詞を読む
ラッキーストライクさんからのリクエストに応え、
サザンオールスターズ「鎌倉物語」の歌詞について考えてみる。
(全歌詞はサザン公式サイト↑にあり)
※原由子さん自身がこの曲について語られた話を、この記事の最後に追記しています。
また、原さん自身が「鎌倉物語」の続編のような感じ、とおっしゃる「鎌倉 On The Beach」についても歌詞考察していますので、併せてお読みくださいませ…。↓↓↓
原由子さんがボーカルを取る「鎌倉物語」はアルバム「KAMAKURA」の他、ベストアルバムにも収録されている。
鎌倉ロケのテレビ番組のBGMとして流れることも多く、ファンならずとも耳馴染みのある曲。
原由子さん著「娘心にブルースを」によると、この曲を収録したのは、待望の第一子妊娠中。
切迫流産の危機を乗り越え、安静に努めていた為、野外ライブでの録音に使うレコーディング車を自宅の横につけ、ベッドまでマイクを引いて歌入れが行われたとのこと。
桑田さんは「無理するなよ。力を入れるなよ。」と心配しながら見守ってくれたそうだ。
原さんがお腹の赤ちゃんと一緒に歌いたい、想い出の歌を子どもにプレゼントしたい、とがんばって歌った一曲なのだ。
だから、この曲を不倫と絡める解釈があると聞いて驚いた。
傷心の19〜20歳の女の子が一人、鎌倉を旅している曲だと思うのだが、
歌詞を読めば読むほど…うう~~ん…!
そういう角度から見れないことも…ないかも?!
音楽は聴く人の気持ちに寄り添い、色を変える。
多面体に輝く桑田作品、一筋縄ではいかないのは承知で読み解いてみよう。
♪鎌倉よ何故 夢のような虹を遠ざける
歌い始めのこの一節が、まず美しい。
原さんの甘く澄んだ声で歌われるのも、とても魅力的。
「夢のような虹」は桑田さんならではの表現。
「虹のような夢」では凡庸。
思い描いた美しい理想が現実となること、それが打ち砕かれた(遠ざける)。
♪誰の心も悲しみで 闇に溶けてゆく
「恋が破れて悲しい」ならば個人的な感情で「誰の心も」と複数形になるのはおかしい。
デートスポットである鎌倉だが、江の島でデートすると別れるというジンクスがあるらしい…。この地に想い出を残し失恋したカップルが数多くいるのだ。
また、不倫ということになると、周りにも迷惑が掛かるので、みんなが不幸になる…とも言えるけど。
もう一つは、
鎌倉という地名を挙げていることから、
鎌倉幕府を開き、武将たちが各々の信念を掲げ戦い、散っていった歴史を想っての一節と読むこともできる。
♪砂にまみれた夏の日は 言葉もいらない
砂浜で無邪気に戯れ、お互い砂まみれになったあの頃は、お互いの心が通じ合い、わかり合えていた。
♪日蔭茶屋では お互いに声をひそめてた
歌詞では日蔭だが、日影茶屋は実在する老舗店。
私も一度だけ訪れたことがある。(その節は本当にありがとうございます!59さま)
たった一度でも、十年以上前のことでも訪れたことをずーっと自慢できる、それが日影茶屋…!
店構えが立派過ぎる…。
とてもじゃないけど気楽には立ち寄れない。
橋を渡って離れのお部屋へ…。
お池を眺めながら、美味を頂く至福…。
目にも美しいお料理。器も気が利いていて素晴らしかった。
お店の方に「昨日、サザンの30周年ライブに行ってきたんです。」と話すと、雑誌のコピーを見せていただけた。
日影茶屋の当時の社長 角田庄右衛門さんがサザンについて想い出や秘話を語っており、
「桑田さんとは家族ぐるみの付き合いをさせてもらっています。」と書かれた興味深い記事だった。
この記事を見せてくださった店員の方も、とても親切で、
一流の良い店は、お客に緊張を与えずリラックスして食事の時間を楽しめるよう心配りをしてくれるのだなぁと感じ入った。
話は逸れたが、歌詞解読に戻ると、
いくら、そうは言ってもやはり20代や30代前半くらいで日影茶屋に来ると、やっぱり緊張すると思う。
浜辺ではふざけ合って騒いだ二人も、
ちょっと背伸びして食事にやって来た日影茶屋では、おすましして小声で「おいしいね。」なんて言ったんじゃないかな。
そして、これは私の妄想だけど、
桑田さんと原さんが初めて日影茶屋で食事をした時、そういう感じだったのでは…。
原さんだけにわかる符号が隠されているような気がする。
♪空の青さに 涙がこみあげる
♪こらえきれず 腕をからめ
楽しかった彼との想い出を辿ると、ふと泣けてくる。
さて!次が問題。
「腕をからめ」とは!?
気持ちが感極まって、腕をからめた。
誰に!?
彼女のそばに今いるのは誰なのか。
♪少女の頃に 彼と出会ってたら
♪泣き顔さえ 真夏の夢
今よりもっと若い十代の頃の恋愛なら、失恋したとしても、もっと淡い想い出になったことだろう。
♪秘密にならない 二人の秘め事
…えっ…?二人は秘密の関係…なのか?
で、バレてるの?
ここは、芸能人ということでプライベートが記事になり、常に曝されるという意味合いが掛かっているようにも私には思えるのだけど。
♪他人の空似が 乾いたマニキュア映して
美しい表現。
しかし、何を意味しているのか判然とはしない。
明確でなくイメージが膨らむところが良いのだが。
マニキュアが綺麗な大人の女性をイメージさせる。
その大人の彼女のネイルに映る、愛した彼に似た人。
ここにいるはずのない彼を感じた、という意味か。
或いは、
秘密がバレそうになっても「他人の空似ですよ」と大人の嘘でかわし素知らぬふり。
この後、冒頭の♪鎌倉よ何故~に続くが、
今度は、この恋が上手くいっておらず切ないように感じられてくる。
♪いつも私は 大人になれなくて
♪踊る胸に 浮気な癖
私も30代くらいは全然、大人になれていなかったわ~。
なんかフワフワしてたなぁ。
いろんなことに気が多く、惚れっぽい。
「大人になれない」は、秘密の恋を割り切った関係と、情を断つことはできない。
本当に恋をしてしまう。…とも取れる。
♪彼にもう一度 くちづけされたなら
♪涙声さえならないでしょう
この「彼」とは?
忘れられない別れた彼に、
もう一度、愛を誓ってもらえたら…どんなに嬉しいだろう。
或いは、
秘密の関係の彼にキスされたら、
いろんな迷いも忘れ、溺れてしまいそう。
♪泣かないつもりが 笑顔になれない
♪あの日の想い出溢れる江の電見つめて
やっぱり彼女は心からは楽しめていない。悲しみに浸っているのよねぇ…。
江ノ電を見ると無邪気だった学生時代を思い出し、今はもうあの頃とは違い、大人なのに…と思うのかも。
江ノ電の走る浜にはいろんな想い出もあるのだろう。
そして最後に、二人の最高のデートだった日影茶屋でのひと時を思い返している。
…改めて、この曲の主人公の女性は、
失恋の想い出のある鎌倉を訪れている。…ここは間違いない。
問題は誰と来ているのか。
腕をからめた相手は誰か。
或いは一人なのか。
今の恋人と鎌倉に来て、昔の恋愛を思い出して感傷的になっているのか。
秘密の関係(不倫?)の彼との恋情を歌っているのか…。
「秘密」「マニキュア」と大人の女性の風味付けを施して、
どちらにも感じられるように作られているのだと思う。
そして、そんなことを一切考えずに聴いて、歌っても、
ワンフレーズずつ細切れでも、聴き手の気持ちにピタッと寄り添うのだ。
※コメント欄にラッキーストライクさんから
日影茶屋事件等、鋭い考察を頂いています。ぜひご一読を!
※まんごろいどさんからも素敵な考察を頂きました…!!
コメント欄をごらんくださいね。
【追記】
2022/09/10放送の代行DJラジオ「原由子のとってもやさしい夜遊び」で
原さんご自身が語られたことをご紹介。
アルバム「婦人の肖像 (Portrait of a Lady)」収録の
「鎌倉 On The Beach」は「鎌倉物語」の後日譚とのこと。
原さんは昔、若い頃、鎌倉の海を海岸伝いに貝殻を拾い集めながら一人、歩いたことがあるそう。
…つまり、それは原さんなりの傷心旅行のようなものだったんじゃないかな。
やはり「鎌倉物語」はそういう曲なのだ。
そして、失恋し傷ついた時のそのピュアな気持ちを原さん自身が大切にし、持ち続けてらっしゃるのだと思う。
「鎌倉 On The Beach」は明るくポップな曲調で、大人になった彼女はシーグラスを拾い集めながら海辺を歩いている。
想い出の人は既に幻、つむじ風。
…この曲の桑田さんとの共作。
原さんがダイニングテーブルで歌詞を考えていると、お茶を飲みにやって来た桑田さんが「どれどれ?」と見て、いろんなアドバイスをくれるらしい…。
…なんと贅沢な光景!!
サザンの曲を中心に歌詞の深読みをしています。
お時間ありましたら、お読みくださいませ!
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