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アニメ『輪るピングドラム』感想 考察

劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM』前編「君の列車は生存戦略」が公開された。

映画館で久しぶりにピングドラムの世界に浸った。
アニメ放映時の感想、考察記事を再掲。
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展開の読めないアニメ『輪るピングドラム』2011年11月

深夜に放映中のアニメ『輪るピングドラム』
激しいストーリー展開、
美しい絵、
シュールな表現手法…などなど、
とにかくちょっと他では味わえない面白さで
毎回、目が離せない作品だ。

もう物語は終盤に近くなっているはずなのだが、
まだまだ謎が多く、先が見えない。
…と言うか、この話、どうやってまとめるんだ?まとめようがあるんだろうか?とさえ思う。

かわいらしい絵柄、
変身モノのようなシーンを織り交ぜながらも
この作品の描く内容は大変暗く、重い。
アニメという表現方法で、今の日本の社会の歪みによる問題点を
これでもか!と詰め込んでいる。

抽象的で、非常に観念的なシーン、セリフが多い。

「選ばれない」ものは「透明になる」「何ものにもなれない」、「死ぬこと」
ーーーこれが20話のポイントだった。

「選ばれない」のは、つらい。
しかし「選ばれない」ことが今、多いのではないだろうか。

就職難で、面接になかなか受からない。選んでもらえない。
また、非婚率の増加で、結婚しない人が増えている。

正社員でなくとも、フリーターでやっていける。
結婚しなくても、スーパーやコンビニで食事には困らない。
そういう世の中になっている。

人間は、何かに所属していたい、という基本的な欲求がある。
○○会社の社員だとか、○○の奥さんである、とか。
一方で肩書に縛られ過ぎるのもつらいことだが、
全く何にも繋がりを持っていない「何者にもなれない」のも耐え難い。

そうして、人間の基本的な欲求として、
自分が大切に思う相手と同じ気持ちを共有したい、というのもある。

選ばれないと、その欲求は叶わない。

存在を軽んじられ、無視される「透明な存在になる」のは、とてもつらい。

離婚をしてしまう夫婦も増えている。
すると、多くの場合、経済的にも、子育ての労苦にも負担がくる。
もちろん、がんばってちゃんと子供を育てている親御さんは多い。
しかし、子供の虐待、育児放棄が大きな社会問題になっているのも事実だ。

親に無償の愛で慈しまれるべき存在の子が
親に十分な愛情を与えられないのは、大変不幸なこと。

このような現代の社会が抱える多くの歪みから生まれる
絶望、孤独、逼塞感を
このアニメは表していると思うのだが…どうだろうか。

ピングドラムのテーマは他にもあり、
「運命」をどう捉えるか、が一番基礎のテーマになっている。

これは、同じ幾原邦彦監督作品「少女革命ウテナ」の中でもテーマになっていた。
ウテナでは「世界の果て」
ピングドラムでは「運命の至る場所」に鍵はあるように示唆される。

ウテナも、とんでもなく深いテーマを持っていたアニメだったけど
ピングドラムは、さらに凄まじい。

世間を震撼させた凶悪犯罪の犯人の家族の生き方を描いているのも
これも重いテーマだ。
罪を犯し、逮捕されたのは犯人。
しかし、その家族も世間から非難され、中傷を受けてしまう。
「罰を受ける」ことになってしまう。

そうして、ある日突然起こった事件に大切なものを奪われてしまった被害者の気持ちも描かれる。
「不幸な出来事」というのは、人災であっても天災であっても、
とても理不尽に大切なものを奪っていく。
その喪失感に耐えられない者は、運命を呪い、
運命のやり直しを願う。

「かわいい、が消費された。だから捨てられた。」
このセリフも、今の子役ブームを思うとゾッとするような言葉だ。
少し前だと、「面白い」が消費されて、大量の芸人がバサバサと捨てられた。

消費されず生き残り、本物になれる珠のようなものもある。
それを、実を結んでできる「果実」という言葉で表現していたシーンがあった。

「生存戦略」とは、生き抜き、生き残るための方策。

この生きにくい世界で、生き残っていくためへの模索のヒントを
この作品は、いろんな角度から見せているように思う。

その一つとして
選ばれ、消費されない、永遠の結びつきを手に入れる、その大切さを
20話で表していた。

心の土台となる安定感を基礎に持っていないとぐらつきやすい。
その土台をしっかりと持つことが、人にとってとても大切。
なのに、現在の日本では家庭、就職、人生設計において最も基礎になる部分が
十分保障されていない。
そのことに、もっと危惧を感じるべきなのに、「個」を大事にするあまり、
煩わしい余計な、深い繋がりを避け、自由を求める。
自由を得た代償として、失ったものに復讐されるのは、たぶんこれからの時代。

到底まとめきれないくらい、とにかく毎回の一話がとても濃い!
一見、荒唐無稽のようで
実に練り込まれた設定、脚本、演出…
手間暇かかっているのを感じる。

どんなふうに最終話を迎えるのか、予想もつかない。
きっと、最後まで見たら、また最初から改めて見直したいと思うんだろうな。

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「輪るピングドラム」完結!!  2011年12月

アニメ「輪るピングドラム」が最終回を迎えた。

こんなに最終回が待ち遠しく、

また終わってしまうのがもったいないような複雑な気持ちにさせられるアニメは…ひさしぶり!


ピンドラ20話について以前、感想日記を書いた
本当に一体、どうやって最終回に持ち込んで、まとめ上げるのだろう⁉と
毎回毎回、展開の読めなさに驚いたストーリーだったが、 見事にきれいに物語が結ばれ、テーマが鮮やかに提示されたラストだった。

画面の至る所に様々な「意味」が詰め込まれていて、目が離せない。
一瞬でも、「大事なヒント」を見逃してしまう。

一見、意味のわからない表現も、何度か見直し、じっくり考えると
「なるほど…!」と、込められた意味に気づいたり。
非常に濃厚な30分間を毎週、味わってきた。

「愛」、「絆」の大切さ
言葉にすると、とても陳腐で、
その本当の意味を深く伝えるのが、逆に難しいテーマに果敢に取り組んだ作品だと思う。

ピングドラムに登場する人物は皆、肉親からの愛情を受けられていない。
本来なら無条件に、絶対的に注がれるべき親の愛を、だ。

愛されるべき人に愛されないのは、つらい。
求めても求めても、与えられない絶望感。

孤独な気持ちを抱え、心に深く傷を負ったまま、子供は成長する。

今は定年退職された中学校の校長先生が話してくれたことがある。

中学生の時期は、誰しも思春期で自我が芽生え、反抗的になったりする。
中には、問題行動を起こす生徒もいるが、大半は20才頃には落ち着き、
あんなに悪かったと思うような子でも、久しぶりに会ったら、ずいぶんまともにきちんとした挨拶をしてくれたりする。
しかし一部、ずっと問題を抱えたままの人生を歩む子もいる。
それは、やはり家庭が複雑な生徒だったりする。

決して偏見や差別的な意味合いではなく、30年以上の教師生活でたくさんの生徒と関わった上での実際の話として。

親の愛情を受け、温かな家庭に育った子供は、思春期にいくら荒れたとしても、いずれ戻っていく場所を持っている。
だから中学時代に少しくらい道を外れても、軌道修正ができる。

軌道修正がきかず、どんどん道を外れ、
取り返しがつかなくなってしまう子は、そういう「戻っていく場所」を持っていない…。

そう感じる、と校長先生は何かを思い出す表情で悲しげに話してくれた。

(※朝礼で、とかでなく、校長室でプライベートな会話として聞いた話です。)

親の愛は、その人間の一番基礎となる部分を築く。
そこがしっかりしていたら、その人は多少の揺れに耐える強さをもつが、
基盤の部分がしっかりとできていないと、どうしても弱いし、
少しの衝撃にも大きく揺れてしまう。

信じ合える無償の愛を交わせる大切な人の存在。
それが人が生きていくのに、どれだけ大切か。

一度、それを失い、裏切られた思いのある人に
もう一度、温かさを伝え、明るい場所へ連れ出すのは…
これは、とても大変な…それこそ傷つくことも恐れない勇気が必要だと思う。


陽毬と晶馬が血を流し、傷だらけになって進み、
冠葉を救いに行くシーンを見て、そんなふうに感じた。

無傷で、にっこり微笑んで近寄って、それで救えるほど簡単ではないはず。
だから、あの表現は、とてもリアルだと思うのだ。

多蕗とゆりの会話が端的にテーマを示していた。

離婚率が上がり、
経済状態も良くならない今の世情、

親自身が精神的、金銭的、時間的な余裕を失い、
そのしわ寄せを子供が受けてしまっている悲しい状況が実際に多い。

何かを止め、変えなければいけない。

孤独な思いをしている子供たちを少しでも減らし、救うには…。


そのためには、気づかねばならない。
大切なことに。
気づくことで、変えていける。

流れを変えていける。運命を乗り換えられる、かもしれない。

そのための作品なんじゃないか。
ピングドラムを見、感じ、考えることで、
乗り換えのための起爆になれば良いな、と思う。

……だけど、
わかる人にはわかるけど、
わからない人には(興味がもてない人には)わかんないアニメだろうからな~

でも一部の人がわかるだけでも十分意味があると思うんだ。

愛し合うことの大切さを。

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