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ベーコンときのこの混ぜご飯

ベーコンときのこの混ぜご飯
油揚げと大根の煮物 ふきのとう味噌
赤大根のサラダ 柚子

 冬の風が吹くよく晴れた日。ベーコンを焼いていると脂が浮いてきて、じわじわ焦げ色が付いていく。刻んだきのこ、生姜を加えて絡める。醤油、みりんで調え、玄米ご飯に混ぜる。香りに青ねぎを散らし、黒胡椒を多めに挽く。油揚げと大根は淡く炊き、ふきのとう味噌を添える。「冬の養生は、血や気の巡りを良く」とのこと。この頃は舌に纏うようなこっくりとした味わいが心地よく思う。

 気づけばこの家に越してからおおよそ一年が経つ。前の家を出た日も、冬の温かい陽射しの当たる日だった。季節が一巡りして暮れる頃には、桜の葉も散っている。親しい方々と便りを交わして、年納め、新年の約束をする。

 一人公園を歩いていると、向こうから落ち葉が駆けてくる。過ぎようとすると、今度は追いかけるように付いてくる。木立を見やると、女の子が二人、落ち葉とともに飛んだり跳ねたり、踊っている。自然と人の息が合っているような景色。

 神社へ行き、「昨年はご挨拶もせず…」と静かにお参りをする。一年を振り返ると、節目や儀式を飛ばすことも増える一方で、溺れるような心地がすることもあった。深い海の底、音もないところ。それはそれは静かで、夢か現実かもわからなくなるような世界。暮らしの中にリズムを取り戻して、心の奥にいつも音楽を流していたいと祈る。

「典座教訓 赴粥飯法」(道元/講談社学術文庫)
…「心地よい読書空間とは?」と考えていて、自分の好きな場所を思い返してみると、空気感が違うようだと思い至った。冬の空気のようにキリリとして、指先まで意識が向くようなところ。その場に足を踏み入れた瞬間、芯が入ったように背筋が伸び、心の強さが湧いてくる。それはどこか、儀式めいていると感じた。「食べ物は言ってみれば死骸だけれど、それを食べるために、祈るような物語が私達には必要なのだ」というお言葉も近しく感じる。心に芯を入れて、食べなければ生きていけないこの身にまつわる、どうしようもない物事があるとしても、少しでもより良くありたいと願う、暮らしの知恵のような。

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