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あの頃一番欲しかった物


24歳の時、生まれて初めて一目惚れをした。
人生で多分もう二度とないだろう、と思うくらい衝撃的に落ちてしまった、あの人の瞳に、声に、全てに。

私より16歳年上の彼は、年齢相応の色気があった。男の人に色気を感じたのも彼が初めてだった。

初めて会ったのは私が勤めていたBARのプレオープンの日だった。

プレオープンは会社関係の人や内装業者、会長、社長の友人らのみが集まる内輪のパーティみたいなものだ。お店の社長と仲が良かった彼は友人を引き連れて来てくれていて、その友人同士セクキャバに行った話で盛り上がっていた。

途中からその場に着いた私は、少し嫌そうな顔をしたんだろう。
私の顔色を読んですぐに話を止めてくれて、私の名札を見て
「〇〇〇〇さん、連絡先教えて下さい。社長から連絡来るより君から連絡来た方がここに来たくなるから、ダメ?」
と真っ直ぐ見つめられてフルネームで呼びかけられた時に初めて真正面から彼の顔を見た私は、その瞬間恋に落ちていた。


営業終了後、バックヤードで同じアルバイトの19歳の子に
「〇〇さん、めちゃくちゃかっこいいですよねー!いいなー!」
と話しかけられて、あ、この年齢の子から見てもかっこいい人なんだ、と思った。

沸々と沸いてくる優越感と共に、絶対に他の人に盗られたくない、誰にも。手に入れたい、どうしても。どうしても彼が欲しい、欲しくて欲しくて堪らなくなった。

私は生まれて初めて自分から男の人に積極的にアピールした。

自分からメールして、ご飯連れてって下さい!いつが空いてますか?どこに行きますか?お店予約してもいいですか?と、ちょっと自分でも引くくらい、ぐいぐい積極的に行った。

さすがに16歳も年上なので、彼がお店も予約してくれて段取りしてくれた。そりゃそうだ、ちょっと落ち着いてくれ自分、と当時の私に言いたい。

肉と魚、どっちがいい?
と来たメールに
〇〇さんと一緒ならどちらでもいいです!
と食い気味に返信したのも思い出すとめちゃくちゃ恥ずかしい。
結局、伊勢海老食べに行こうと提案してくれた所も当時の私には凄く大人に感じた。

伊勢海老を食べたのは初めてではなかったけど、どれもこれも味がしなかった、緊張し過ぎて。

隣にこんなにいい男がいる、私の隣に!と思うと味なんてどうでも良かった。きゅうりが食べられないから抜いて欲しい、と頼む所も可愛いなと思うくらい既にぞっこんだった、彼に。

いつもの私だったらこいつきゅうりぐらい食えよ子供かよ、と思っていただろう、恋愛とは恐ろしい、盲目だ。

2軒目にBARに行って、タクシーで送ってくれて、別れる時にキスされた。

これは相当女慣れしてるタイプだな、ヤバイな、どうすれば他の女を蹴散らして盗られないように出来るだろうか、とこの時点で思った。まだ私の物にもなっていないのにである。

彼が本当に私の物になってくれたのはそれから2年後になる。

この2年の間も付き合ったり別れたりを繰り返していた。別れている間他の男と付き合ったりもしたけど、やっぱり好きなのは彼だけだった。

典型的なB型タイプでわがまま俺様、浮気は当たり前の自由気ままな彼とやっていくのは、典型的なA型タイプで真面目で几帳面で執着心の強い私には大変な事だった。


ある日いつもの様に喧嘩をした。
いつもなら私がメールで謝って元の鞘に戻るのが既定路線だったが、この時は本当に疲れていて、もういいかな、と思ってしまったのだ。

私は初めて謝らなかった、ずっと飲み込んでいたNOサインを出した、彼に、初めて。

最初はごめんなさいは?なんで謝らないんだ、謝れよ、みたいな態度だった彼が一変して今までありがとう、優しく出来なくてごめん。とメールしてきた。

このメールすらどうでも良くなって、シカトした。

この時、ある男に言い寄られていた。顔は彼と比べるまでもなくかっこよくは無いが、優しそうで、彼と違って女性に気遣いしてくれて、彼よりも少しだけ年上で、彼よりもお金もある男に。

彼と同じなのはバツイチだった事だ。

彼と違ったのは前の奥さんの事を悪く言う所だった。私は彼からは前の奥さんの悪口など一度も聞いた事が無かった。

でもここだけ目を瞑れば今度こそ普通に幸せになれるかもしれない、そう思った。




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