天気雨
風向きが変わって踏切の音が遠くなる。
どうやら少しだけの仮眠のつもりが割としっかり昼寝をしてしまったらしい。
少し前までは曜日も時間も関係なく毎日をバタバタと過ごしていた。
若い頃はそれで構わなかったし、そんな時間の隙間を掻い潜って女に会いに行ったし、遊びもした。
自分の将来なんて相変わらずわからないままだが、最近は少しだけ「このあと」を考える機会が増えた。
だからといって今更何か変えられるわけもないとも思っている。
俺、どんな感じで死ぬんだろな。
意識的に言語化することを避けてきた気持ちがはっきりと頭に浮かぶ。
一度浮かんでしまうとそれはいつまでも身体中をたゆたう。
どこかに追いやりたくて身体をゆすってもぬるりと身体の中心に落ちてくる。
パチンコでもいくか…。
飲みかけのぬるくなった缶コーヒーを飲み干し、外へ出る。
あたりは少し赤く染まり始めていた。
駅の方へ向かって歩いていると、ふと気になって普段は使わない道に曲がる。
記憶にあったはずの古い家や空き地はいつの間にか新しい戸建てが建っていた。
どの家も似たような面構えこそしているが、玄関や庭先にはさまざまな家族のカケラがそこかしこにほころんでいた。
そんななかふと目をやると大きな柿の木が塀から張り出している古い家が目に止まった。
普段使わないせいもあるだろうが、やけに珍しく感じた。
ふと目をやると古くなって年老いた木の門の上で猫が1匹昼寝をしている。
すげえとこで寝てんな…。
思わず立ち止まってじっと猫を見た。
視線を感じたのか、猫が不機嫌そうに片目を開いてこちらの様子を伺う。
「あぁ…悪い、邪魔したな。」
そう言って歩き出すとその猫はじっとこちらを見てニャアと一言だけ泣いてまた目を閉じた。
角を曲がっていつもの道に出ると突然雨が降り出した。
割と強い雨なのに相変わらず空は明るいままで、さらに傾いた西陽が突然の雨に反射してキラキラと輝かせていた。
なんか面白え猫だったな。
雨に濡れながらも七原の気持ちは不思議と軽くなっていた。
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