梅雨の狭間で

龍の物語はなかなかできないのでとりあえず昔書いた物語をお読みください。

第1章

 どしゃ降りの雨が毎日続いている。当分やみそうもないようなひどい雨が降っている。
 真夜中、突然心臓を裂くような大きな音と昼間と勘違いしてしまうような眩しい光が、深い眠りについた人々を無理やり覚ました。
 音と光の主は、朝までずっと暴れ回っていたが、ようやく、おそろしく長い夜が明けて、赤みを帯びた太陽が地平線からゆっくりと顔を出した。
 久しぶりの太陽だ。
 大きな紫陽花の葉に残った少しの水滴と、空にぽっかり浮かんでいる少し濃い色をした雲だけを残し、雷雲は遠く北よりの方角へと去っていった。
 花がほとんど散り、大地はどこも泥まみれになっている。その中で紫陽花だけが美しさを残している。


カラ〜ン カラ〜ン

 隣の家の庭で何か音がしている。風にあおられた2つのバケツが時折ぶつかり合う。 青い空には虹が見事な半円を描いている。久しぶりに光の中を飛び回っているトンビやスズメたちが嬉しそうに鳴いている。
 そして、雨や風にも負けなかった紫陽花の葉の上に、いつの間にかカタツムリが休んでいた。

朝からずっと庭を眺めていたぼくは、カタツムリがとてもうらやましくなり、思わず声をかけた。

「ねえ、あんなすごい雨に打たれてもいつも元気でいられるんだね。ぼくは雨が続くと身体が悪くなるばかりだ」

「まあ、元気出してくださいな。今日は久しぶりに天気が良いのですから」

とても大きな殻を身につけたカタツムリがぼくの声に気づいて答えてくれた。

「そうだね。今朝は気持ちよかった。久しぶりに太陽もぼくに力を与えてくれたもの」

 するとカタツムリは、今度はツノを引っ込めながら言った。

「でもね、天気がいいのは今日だけなのですよ」

「え? まだ雨が降るの?」

「まだ雨が続きますね。しとしと、しとしと」

ぼくは目の前が真っ暗になった気がした。でもぼくはカタツムリの予知能力をほめた。

「でもすごいね。天気のことなら何もかもわかってしまうんだ!すごいよ!だけど…それならぼくはもうここにはいられないな」

「なぜですか?」

 今度はカタツムリが聞いた。

「ぼくは水にとても弱いのさ。童話の主人公みたいに泡にはならないけど…似たようなもんさ…」

「…なんと!」

「ぼくも君たちみたいになりたいな。水に強くなりたいよ」

 カタツムリは葉の上から落ちそうになった。

「とんでもない!あなたには私たちの気持ちなどわからないですよ。私はこんな暮らしまっぴらです!」

「え?どうしてだい?いいじゃないか。君たちにとっては水が必要だろう?」

「それはそうですけれどね。動きは鈍いし、空も飛べません。それにうっかり地面に落ちると人間に踏みつぶされてしまうことだってあるのです。仲間がそんな目にあうのを何度も見ています。この地上は人間だけのものではないのだから。もうちょっと気をつけて歩いてくれればいいのですがね」

「そうか…みんないろいろと悩みがあるんだね。ぼくばかりがいやな目にあっているわけではなかったんだ。でもここはぼくには合わないところだよ。あ、もう3時だ。そろそろぼくをここに連れてきた人がこの部屋に帰ってくる頃だな。ほら、ぼくのうしろのドアが開く音がする」

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