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地文明

今回は地文明展に出展した作品解説です。

作品解説

吉原百人斬り事件

一つ目は歌舞伎にもなっている籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)をテーマにした作品。実際に吉原で起こった吉原百人斬り事件を元にしている。

花魁道中をする八ツ橋に心を奪われたあばた顔の田舎者商人佐野次郎左衛門。

彼は八ツ橋の上客となり身請けまですると言ったが、八ツ橋には浪人中のイケメン武士の間夫(まぶ。恋人)繁山栄之丞(しげやまえいのじょう)がいたため彼女は板挟み状態に。


間夫にはっきりして欲しいと言われ、八ツ橋は座敷の中で遊ぶ次郎左衛門の身請け話を断った。あんまりだと嘆く次郎左衛門は姿を消した。


しかし4ヶ月後、名刀「籠釣瓶」を手に次郎左衛門は現れた。

そして八ツ橋の命を奪った。周りにいた何人かも犠牲になったのだ。

(実際には100人も斬っていなかったらしいが)

この事件を元に描かれた浮世絵が何枚か残っている。


いつの時代でも色恋沙汰そのものは愛憎劇に変わってしまうことがある。特に疑似恋愛を職業にする女性(男性)はリスクと引き換えに大金を得ている。もちろん客側が変わっていく必要はあるかもしれないが、相手の言い回しや雰囲気次第では勘違いをしてしまうものだ。

せめてこの惨劇が繰り返すことのない世界が来ることを願って。



薄雲主人と玉

二つ目は招き猫の由来にもなった三毛猫玉のお話。

猫好きで有名な薄雲太夫は客たちが嫉妬するほど猫を愛していた。

しかし厠までついてくる玉を化け猫のように恐ろしく感じた三浦屋の主人がついに玉の首をはねてしまった。しかし切り落とされた首は薄雲を狙う蛇へと喰らいつき、最期まで主人を守ったのであった。

悲しみに暮れる薄雲を思い、客が伽羅の木で作った玉の像を送ったところとても喜んだ。この木彫りが招き猫の由来だそうだ。

現在は巣鴨にある西方寺には玉の像があるとのこと。


当時はたくさんの妖怪が日本中に溢れていたので、化け猫という概念も実際には恐れられる存在だったのかもしれない。

私には猫や犬を刻みたいという趣味はないが、最期まで主人を守った玉の強く可愛らしい姿を画面の中に収めたいと思い描いた。



角海老の左近花魁

三つ目は吉原でも有名な角海老という店の怪談話。

こちらは書籍、東雅夫編集の『東西怪奇実話日本怪奇実話集』に載っている話で、実話を収録したものだそう。

角海老の美しい花魁左近には年季あけに夫婦となる恋人がいたが、その恋人には学資を貢いでもらった叔父の娘との結婚が決まってしまった。男の無情を恨み苦しんだ左近は毒を飲み血を吐いて自死した。

それ以降左近の影をみた者や、左近の部屋を使った客はうなされたり、息を吹き返すことのない者までいたそう。


吉原には自殺をはかったり、拷問の末殺されてしまったり、火災によって亡くなった遊女もたくさんいたそうだ。

今でもあの辺を歩くと、霊感のあるものはパチパチ音が聞こえたり(身近な実体験)寒気がするそうだ。他にもたくさんこういった心霊エピソードがでてくるだろう。

左近についての浮世絵は見当たらなかったので、現代風にアレンジして幽霊画として描いてみることにした。


参考書

『東西怪奇実話日本怪奇実話集』

東雅夫 編

『江戸の色町 遊女と吉原の歴史 ―江戸文化から見た吉原と遊女の生活』

安藤優一郎 著者

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