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『情報を正しく選択するための認知バイアス事典 世界と自分の見えを変える「60の心のクセ」のトリセツ』感想

 本書では、60の認知バイアスについて「論理学」「認知科学」「社会心理学」の3つの分野からアプローチしている。感想文ということで、それぞれの分野についてひとつずつ、自分自身が陥っている、また陥りやすいと自覚しておかねばならないバイアスについて書いておこう。

論理学系バイアス19 信念の保守主義:自分が一度信じたものを、なかなか手放すことができない(情報が与えられても即座に十分に情報を更新することができない)
 「人の信念は保守主義であるため改訂するのはなかなか難しい。だが、信念の改訂は緩やかに進行していく」と本書に記されている。まさに自分がこれである。思い込みを覆すのがとても難しい。しかも、長年それを自覚していなかった。
 たとえば昨年、長く続けてきたあることから離れたのだが、「もう無理」と心の底でわかっていたのに何年もやめられなかった。「自分の選択肢はこれしかない」という誤った信念に基づき、それを疑うことすらしなかった。いや、疑いもしなかったと思っていた。
 だが、本書で言う「信念の改訂」は水面下で緩やかに進行していた。「何かが違う」とずっと思い続けて日記も書いてきた。だからこそ、熟した実が落ちるように、最適なタイミングで離れていくことができた。そして、日が経つにつれて「やっぱり離れて正解だった」とわかってきた。
 この一件で身にしみたのは、自分の信念(と思いこんでいるもの)であっても、自分自身で粘り強く「そうじゃないかも」と疑っていけば変えられるということだ。自分の性格、自分が陥りやすいバイアスを自分でつかんでおく必要があるのだなぁと思った。

認知科学系バイアス07 認知的不協和:自分の本音と実際の行動が矛盾しているなど、自分の中で一致しない複数の意見を同時に抱えている状態
 昨年、放送大学「錯覚の科学」で受講した内容でもある。まずは有名な実験が紹介される。単調で退屈な作業を要求された学生が、別室で待機していた学生に対し「とてもおもしろい実験だった」と話すように依頼される。そしてアルバイト料金をもらう。最後に、実験がどの程度おもしろかったかを(素直な気持ちで)回答するという内容だ。ここで注目すべきは、アルバイト料金が低い方が、「おもしろさ」の程度が高いと回答するというのだ。
 つまらないことをやって高い料金をもらえば「おもしろくなかった」と正直に回答するのに、つまらないことをやって低い料金しかもらえないのに「おもしろかった」と自分を偽る回答をしてしまうのはなぜなのか。これは、自分のなかで「つまらないことをやって『おもしろかった』と伝えねばならなかったけれども、高い料金をもらった」のであれば「お金のためだからこう言ったけど、実はおもしろくなかったんだよね」と
自分を納得させることができるのに対し、「つまらないことをやって『おもしろかった』と伝えねばならなかった。それに加えて低い料金しかもらえなかった」のでは自分を納得させる理由がない。そこで認知の不協和が発生する。「自分はおもしろいと思ったから『おもしろかった』と伝えた(低い料金しかもらえなかったけれども、おもしろかったからそれでよい)」ことにすれば、自分を納得させることができる。
 これはかなりおそろしい、自分で自分を騙しているのだから。わたしもつい数か月前までそうだった。「もう無理」なのに「おもしろいからいいのだ」と自分自信を騙し続けてきた。
 そして、なぜ離れることができたかというと、本書にある「知らず知らずのうちに疲労が蓄積し、取り返しがつかなくなる前に、不満や気になることはその都度、(つまり、自分の意見を自分で変容させてしまうよりも前に)口に出したり日記に記録する」ことを実行したからだ。すなわち言語化し、前段にあるようにそれを何年も続けることでやっと解決したのである。

社会心理学系バイアス12 現状維持バイアス:「挑戦して失敗するくらいなら、最初から挑戦しないほうがいい」という心の働き(何かを変化させることで現状がより良くなる可能性があるとしても、損失の可能性も考慮して、現状を保持しようとする傾向)
 行動経済学の分野には「損失回避性」という言葉がある。本書では「得る喜びより失う恐怖」とあるが、まさにそれなのだ。「損をする分のおおよそ1.5~2.5倍の利得があって初めて、私たちは損と得が釣り合うと感じる」のだ。「行動を起こす際のメリットがこの倍率を下回る場合、損をする可能性があることから、人をは行動を起こす必要性を感じず、現状のままでいようとする」のは、保有効果(一度何かを手を入れると、それが自分の手元になかったときよりも価値が高いものであるように感じて、手放す際に抵抗を感じる現象)が生じるときに顕著に発生するという。
 前段にも記したが、わたしが「もう無理」なのに「おもしろいからいいのだ」と自分自身を騙し続けてきたのは、信念の保守主義が元々とても強いところへ持ってきて現状維持バイアスが働いており、さらに認知的不協和があったからではないか。

 この3つのバイアスに陥っていた自分が、何よりも、誰よりもおそろしい。でもこれからは違う。自分がこういうバイアスに陥りやすいことを自覚して生きていこう。

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