日本の風景を描く―歌川広重から田渕俊夫まで―(山種美術館)
7月の「水のかたち」展から5か月。日本画をあまり鑑賞したことがなかった自分がたまたま山種美術館に足を向けたら、石田武《鳴門海峡》があった。自分は海や川の絵が好きなのだろうとわかってはいたが、4メートルを超える作品にすっかり圧倒されてその前から動けなくなってしまった。
その石田武がまた展示されているなら行かねばなるまい、というわけで再び恵比寿へ。
前回は千住博《ウォーターフォール》のあったメインの場所に、《奥入瀬春渓》があった。春は決して好きな季節ではないし、水の動きもどちらかというと激しいものが好きだ。《鳴門海峡》に惹かれたのもそこだった。自分が渦の中に巻き込まれるような異次元感に、すっかり取り込まれてしまったのだ。《春渓》は、自分としては「好きな絵」に入ることは間違いないが、それだけだろうなぁ……と思っていた。
けれども左下に、渦を巻いた水流が途中から逆巻くポイントを見つけて、やはりここから動けなくなった。その渦に巻かれていき、渦のなかできりきりと舞い、その間に脳内の不要物が排出されていく。そういう体感だ。
しばらく止まっていて、次は左に行ったり右に動いたり、後方のイスに座って低い位置から眺めたりそのまま前進して間近で見たりしているうちに、他の箇所にも目が行くようになってきた。渓流が上流から落ちてくるところや岩にぶつかる瞬間、同心円を描いて波紋が広がる様子。どんどん絵の中に入り込んでいく。
しばらく経ち、やっと落ち着いて絵の前から離れた。美術館を出て歩いているうちに、ああ、そうかとわかったことがある。「水の動き」と「反射」に加えて、「青緑色」が自分の好みなのだと。昨年の「ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」(東京都美術館)で《サント=マリー=ド=ラ=メールの海景》がマイベストだったのも、同じ理由なのだと。
自分は「水の動き」「反射」「青緑色」の3点がある、そして他の要素が極力ない絵が好きだったのだ。それがわかったら、美術館に行く目的のひとつがはっきりした。「自分の好みを知る」ために行くのだ。自分は何が好きで何が嫌いなのかがわかれば、どんなチャレンジをしていけばよいのか、どちらの方向には行くべきでないのかがわかる。美術館はそれを知るために最適な場所でもある。
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