「自分の部屋」アゲイン
ブルートレインを「自分の部屋」として楽しんだ子どもhttps://note.com/merlin_witch/n/n47b879daa60c
は、大人になって一人旅をした。元号が平成に変わった数年後だった。
金曜夜、会社からいったん家に戻り、荷物を持って上野まで行く。11時すぎに出発し、朝7時すぎに金沢に着く寝台特急「北陸」が今晩の「部屋」。B寝台だが贅沢をして「ソロ」を選んだ。
食事をするには夕食にも朝食にも早すぎるので、まさに「寝るだけ」の場所である。だが昔を思い出し、柿の種と、大人の特権であるビールを持ち込むのは忘れなかった。カーテンを開け、途中停車駅の大宮駅、高崎駅を車窓から見ながら、ビールと柿の種をちょびちょびと口に入れる。大人になっても小学生時代と同じように楽しめるかと案じていたが、大丈夫。自分はあのときの気持ちのまま大人になったのだとほっとした。
だが、昔と違うこともある。今日はきちんと歯磨きをしてから寝ることにしたのだ。翌日は朝が早い。もう眠らなくてはと消灯する。
途中、「長く停車しているなぁ」と目が覚める。長岡駅だ。機関車の交替もあって停車時間が長い。ゴトン、ゴトトッ、ガシャッという音と、停車中特有の雰囲気を感じるが、すぐにまた寝入ってしまう。電車というのは、止まっているときでも揺れる。これがいい感じに眠りを誘ってくれる。
そして早朝、5時半過ぎに富山駅、さらに1時間後に金沢駅に到着した。
早朝の金沢に降り立ち、荷物をコインロッカーに入れたら観光の始まりだ。犀川と浅野川のほとりを歩き、忍者寺と呼ばれる妙立寺を見学。繁華街の札の辻付近を散策したあと、大事なこととして、書店に入った。地元書店にはきっと、東京にはない地元に密着した本が置いてあるはずだから、夜に読む本を買いたかった。金沢二代目藩主、前田利常の正室となった徳川二代将軍秀忠の次女の一代記を描いた『珠姫さま』を求めた。これがページターナー、たいそうおもしろかったために、金沢旅行一晩だけの旅館泊だというのに、あまり眠る時間がなくなってしまった。
翌日は兼六園のあと、武家屋敷跡に行ったり、街角で手まりを刺繍するさまを見たりしてゆっくり過ごした。夕飯もとくに贅沢をしたわけではなく、少しでも長く「金沢」の街に留まりたかった。
最後はまた札の辻付近で過ごして、上野行きの「北陸」に乗った。そう、明日の朝までまた「自分の部屋」で過ごしてから出社するのである。
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