見出し画像

校正・校閲者必須アイテムその1 A3複合機

 A3の校正刷りがフィーダーに吸い込まれてはどんどん出てくる。もう最後の1枚だ。あっという間に吐き出されて終了した。速い! PC画面で確認すると、フィード漏れもなく全ページがきちんとスキャンされている。よし、あとはこのデータを送るだけ。
 コロナに罹って2か月。隔離期間はもとより、その後もほぼ外出することなく、なんとか校了を迎えられたのは、複合機「ファンくん」のおかげである。
 毎日原稿を書いては印刷してセルフチェック。版元担当のチェックを受けては書き直してまた印刷。OKが出れば初校に回し、校正刷りが出ればA3のpdfを印刷。これに赤字を入れてスキャンして送る。このプロセスを2か月間繰り返してきた。ファンくんさまさまなのである。
そして、校了と同時に、わたしはこのクライアントから離れる。新しい取引先を開拓してやっていくと決めたのだ。
 1年間、準備を進めてきた。ハードな仕事の傍ら、校正者を募集している出版社をあの手この手で探し、技能向上のためにこつこつ努力した。何社もの技能試験を受けた。半日カンヅメで一般教養も試された過酷なテストにも耐え、たあげく、複数の取引先を開拓した。
 なんとかなりそうと目処がついたので、次は環境整備だ。校正現場はまだまだ紙主体の世界。タブレットですいすいと校正していく人もいるが、わたしにはできない。やはり紙で見なければ、ミスや要コメントの箇所を拾いきれないので、プリンタが要る。それも、赤字を入れた校正刷りをスキャンしたり、ちょっとした資料のコピーもできるA3複合機が。
 だが、わたしのプリンタ遍歴は次のとおりである。
① A4インクジェットプリンタを買う
② 1~2年で故障する
③ すぐに買うのはなんとなく癪なので、2~3年コンビニに通ってしのぐ
④ やっぱりその都度コンビニに行くのは不便なので、プリンタを買う
⑤ ②~④の繰り返し
 このサイクルで、いまは何回目かの③のフェーズにあった。プリンタは消耗品、何年間ももつものではないとわかってからは、プリンタを買うなんてもったいないと思い続けていた。
 加えて、仕事部屋にはA3対応機など置く場所はない。ダイニングならば置けるが、有線接続はできずWi-Fiになる。この建物はWi-Fiが弱いからちょっとイヤだなぁ……と、ぐじぐじ考えていた。
 だが、そんなことも言っていられない。黙っていても仕事を投げてくれた常駐先を離れ、これからはすべての仕事を自分でとってくるのである。環境のせいで仕事をこなせなかったり、睡眠を削ることだけはしたくない。
 というわけで、「数年で壊れたとしても仕方ないっ! えいっ!」と団地2階のバルコニーから飛び降りる気持ちで8月に購入し、設定もしてあった。それがブラザーのMFC-J6583CDW、消費税込み31,870円のA3複合機である。 https://www.brother.co.jp/product/printer/inkjet/mfcj6583cdw/index.aspx
 マルチファンクション・プリンターということで、早速「ファンくん」と名づけた。本格稼働は、この出版社を離れる11月からと思っていたのだが、コロナで2か月前倒しになった。
 これまでの人生で自分の決断が正しかったと思うことは、残念ながらあまりない。だが、この購入決断にかぎっては、どれだけ自分を褒めたかわからない。「いやー自分、ほんと先見の明があった! 本作り最後のプロセスを完全自宅体制でやるなんて。ファンくんがいなければ無理だった」。
そして、やっとのことで10月末日に無事校了。ここからがフリーランス人生本当の勝負である。などと言っているうちに年も開けて4か月。ありがたいことに複数の取引先が間断なく仕事を送ってくれる。
 校正刷りを印刷したりスキャンしたりするだけに限らない。ふだんの原稿書きや資料印刷にも、もちろん確定申告にもファンくんは大活躍だ。
 さらに、方向音痴のわたしは、どこかへ行くときもスマホのナビ機能だけでは不安で地図帳を持ち歩いていた。だが、もうその必要もない。Googleかマピオンの地図を印刷すればいいだけだ。自宅にプリンターがない生活が長かったので、仕事以外でプリントする用途はあまりないだろうと思い込んでいたが、まったくそんなことはなかった。ファンくんが家に来た日から、使わない日はいままで1日もなかったかもしれない。
 これからはもっと忙しくなりそうだ。多忙になればなるほど、環境の重要性は高まる。これからはもっと頼りにするからね、頼むよ、相棒!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?