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VTuberとファンとの奇妙な関係・因幡はねるの場合

昨日(4月14日)の午前4時過ぎ、VTuber因幡はねる(以下敬称略)が以下のツイートを投下して、深夜にも関わらずTLが騒然としました。

言いたいことは最後の2つで、「自分がいない場で女を囲んで楽しそうにするのは許さない」なんですが、この件がすごく興味深かったので、これを切り口に、因幡はねるとそのファン(因幡組として知られる)について考察してみようと思います。

因幡はねるについて

まずはよく知らない方のために紹介から。(よく知ってる方は次の章にどうぞ)

因幡はねるは、バーチャルな喫茶店「あにまーれ」の雇われ店長です。一番の特徴はやはり、2018年の6月にデビューしてから10ヶ月以上、1日も休まずに毎日配信していることでしょう。しかも一日複数回配信することが多く、そんな人は他にいないと思えます。恐るべきがんばり屋です。

そのペースで配信できるのは、ネタに困らないトーク力があるからでもあります。また、VTuberって頭の回転は早いけれど学力は残念、という人が意外と多いですが、彼女は学力が高いことを自認していて、かつ書道や華道の腕前がプロ級ということで、教養の高さを端々に感じさせます。

そんな彼女の強みがよく発揮されているのが、学力テスト企画である「#VakaTuberは誰だ」ですね。因幡はねるが自作したテスト問題が面白いし、回答をいじるトークや司会者としての仕切りも高く評価されています。

もう一つ、以下の動画でも因幡はねるのトーク力、コラボでの対応力の高さがよく表れています。生配信で全てアドリブのはずですが、構成作家が脚本書いただろと思えるくらい上手い。またここでは、陰キャをこじらせていることをネタにしていますが、それも彼女の個性の一つです。

ゲームはすごく上手いわけではないけれど、がんばり屋なので、ゲームバランスがおかしいクソゲーでもがんばってクリアするし、クソゲーを面白く実況することで定評があります。これ1分半で短いのでどうぞ。

因幡組について

「因幡組」は因幡はねるファンの総称で、非公式なのですが普通に使われており、VTuber界ではわりと知られているはずです。特にその統率力で。

例えば2018年7月13日に「ガチ恋VTuber #マイベストイレブン 」という企画があり、人気投票でポジションが決まるのですが、因幡はねるはフォワードに選ばれ、かつ総合順位でも1位でした。発表会は月ノ美兎、ときのそら、響木アオが出演するという豪華な番組で、その出演者たちを抑えてです。

2018年12月1日にBS日テレで放送されたTV番組、「のとく番〜アイは世界を繋ぐ〜」内で、「バーチャルYouTuberランキング2018」が発表されましたが、そのときには4位を獲得し、受賞の喜びの声が全国放送されました。

これらは因幡組の力が大きかったと思われますが、しかし因幡組の個々のメンバーはネット上でゆるく集まった烏合の衆に過ぎません。それを統率している「組長」の因幡はねるが凄いという話なのです。ではどうやって統率しているのかですが、それにはいくつか秘訣があると見ています。

秘訣1:記憶力

前述の「ガチ恋マイベストイレブン」で、出演者の月ノ美兎が因幡はねるのことを「リスナーさん一人一人のことをめちゃくちゃ覚えている」と紹介していました。さすが的を射た紹介で、実際「コメントやリプをくれるリスナーさんはほぼ全員覚えている」と言っており、それを何度も証明しています。例えばPUBGのカスタムでリスナーと一緒にプレイしたときなど、それぞれのリスナーのことをかなり細かく知っているのでみんな驚いていました。それができるのは、一つには抜群に記憶力が良いからでしょう。

秘訣2:リスナーへの執着心

でも記憶力だけの問題でもなくて、そんなに覚えるくらいに、リスナー一人一人への執着心が強いわけです。リスナーのTwitterをよく見ていて、リプをくれたりいいねをくれたりしますが、リスナーが自分から離れていくと本気で傷ついているし、推しマークを増やすとバレて浮気だと怒られます。自分はリスナーのことをこんなに愛しているのだから、リスナーも自分だけを愛してほしいと思っていて、その愛の深さはリスナーにも伝わっています。

秘訣3:組織のデザイン

アイドルのファンクラブには幹部とかいると聞きますが、因幡組は組長を頂点とし、組員には上下関係のないフラットな組織です。googleやら多くのネット系企業が理想とする組織形態であり、これでちゃんと機能しています。

例えば、秋葉原で行われたイベント、「秋フェス2018秋」ではVTuberがフィーチャーされ、15人の人気VTuberたちののグッズが、公式ショップや秋葉原の約30店舗で販売されました。しかし公式ショップの在庫は因幡はねるのグッズだけ開始30分で無くなり、買えなかった人はソフマップなど各店舗で買うしかなく、そこの在庫も刻々と無くなっていきます。そのとき各地に散った因幡組員は店舗の在庫状況をリアルタイムにTwitterにアップし、組長がそれを集約して発信することで、多くの人はグッズを買うことができた(そして秋葉原から因幡はねるのグッズが消えた)のでした。

これは一例ですが、このようにフラットで機能する組織になったのは偶然ではなく、因幡はねるによって、そのようにデザインされたからです。例えば、古参と新参のファンに壁があるという話は聞きますが、因幡はねるは常々「私はVTuberを最低20年は続けるから、今から推してくれる人はまだ古参」と言っていて、その精神は組員にも浸透しています。

そして冒頭の話ですよ。これは何があったかと言うと、因幡組の女性がYoutube Liveで「飲酒配信」を初めて、そこに因幡組員が集まって楽しそうに騒いでいるを見て激怒した(ネタ要素もあるけど半分以上本気)というツイートでした。その日の夜の配信では、「あいつらはパリピだ。パリピは絶対に許さない」と言いつつ、パーティーに侵入してパリピを殺してまわるゲーム「PartyHard」を嬉々としてやっていました。

なぜそんなに怒るかと言えば、因幡組は因幡はねるを頂点としたフラットな組織でなければならないからです。「オタクな陽キャはたちが悪い。陰キャオタクは信用できる」と言うのは、派閥を作らずに私を見ていろということです。そのかわりに皆を愛すと。

これに近いことは実は前にもあって、それも因幡組が今のような形を保つバイアスになってきました。そうやって組織を作ってきたわけです。

バーチャルな群れのボス

犬のトレーナーに聞いた話なんですが、犬は群れを作る動物なのでボスが必要で、ちゃんと躾をして飼い主がボスであると認識させ、ボスの庇護の下にあると分かれば犬の精神はすごく安定するそうです。でも躾をせずに甘やかすとボス不在状態になり、自分がボスとして振る舞おうとしても思い通りにはならないので、混乱して精神的に不安定になると。

ヒトも本来は群れの動物なので、群れに所属し、ボスの庇護の下にいたいという気持ちは残っています。その方が安心できるから。でも現代社会は個人主義で、日頃の生活にボスはいません、そもそも、リアルにリーダーの下に付いたり組織に組み入れられるのは煩わしさも多い。

因幡はねると因幡組は、その隙間を埋めてくれていると言えるのではないでしょうか。なんとなく横で繋がっていて、なんとなく居場所があるけれど、煩わしいほどの繋がりではないバーチャルな群れ。ボス(組長)の因幡はねるをあがめて、何かあれば自発的に連携して組長のために動き、それでなんとなく達成感も得られる。フラットなので組長の言うことだけが絶対であり揉め事も無い。それが心地良いから、因幡組だと自認して動く人が多いのではないか、というのが僕の考えです。

これを読んでいるあなたが因幡組ではないなら、因幡組はいつでもオープンです。ねるちゃんの配信を見てコメントやリプをしていれば、ねるちゃんにも因幡組員にも覚えてもらえるでしょう。もしあなたが陰キャオタクであれば、さらに良いですね。


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