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記憶は紡がれる…

こんにちは。メリアです。

今日はこちらの1冊を紹介させていただきます。

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宮下奈都(みやしたなつ)さんの作品です。

心にじわ〜っと残る作品となっています。

宮下奈都さん

1967年福井県出身。上智大学文学部を卒業。本作『静かな雨』が文學界新人賞佳作入選を果たし、デビュー。2015年に刊行された『羊と鋼の森』が2016年の本屋大賞、王様のブランチブックアワード大賞、2015年「キノベス!2016年」1位という史上初の3冠を獲得し、ベストセラーとなる。

他作品

・遠くの声に耳を澄ませて

・太陽のパスタ、豆のスープ

・誰かが足りない

・たった、それだけ

・つぼみ

などが挙げられます。

本作の概要・あらすじ

デビュー作の『静かな雨』と『日をつなぐ』の2作品を収録した1冊となります。

『静かな雨』

行助はたい焼き屋を見つけ、そのたい焼き屋を経営するこよみと出会う。彼女とたい焼きの味が忘れられずに常連となった行助。2人の中が深まろうとしていた中、ある日こよみは交通事故に遭い、三ヶ月間意識を失う…。目覚め時こよみは、記憶を1日しか留めることができなくなっていた…。

何度忘れても2人の間には、確かな"何か"が生まれていく…。


『日をつなぐ』

真名は14歳の時に修一郎と出会い、静かに関係を築き上げていく。

それから何年もの年月が経ち、2人は結婚。娘を出産。

修一郎は仕事に追われ、真名は子育て追われ、静かに疲弊していく。

そんな中、真名は「今日は早く帰ってきて。話がしたいの」と修一郎に切り出す。修一郎もまた、「俺も、真名に話したいことがある」と言う。

「一緒にご飯が食べたい」そう伝えるつもりでスーパーへ向かう真名。そして1人考える。「修ちゃんの話って、なんだろう」と。


感想

どちらのお話も"静か"という雰囲気が流れています。

そして、一つ一つの記憶が巡られ、紡ぎ合い、静かに2人の心が育っていく、そんな物語だと感じました。


『静かな雨』では、行助がたい焼きのあまりの美味しさを味わい、「これおいしい」と、一言。次の日からそのたい焼きの美味しさ、そして彼女の笑顔が忘れられずに常連となるのです。

「たい焼き」「笑顔」「リスボン」「黄砂」話の節々で出てくる2人の記憶は確実に2人を重ねていきます。

最初は記憶を留められないことに対し、ひどく悲しんだ行助でしたが、少しずつ、小さな記憶は2人を重ねていくこと、日常は小さな積み重ねであることを、行助は大切にしていくことを決意するのです。


『日をつなぐ』では、現代ではよくある話なのではないでしょうか。

結婚をしたものの、仕事や子育てに追われ、互いにコミュニケーションの時間が減る。まるで「世界に私と子供」しかいないような空間。

私は結婚を経験したことはありませんが、真名は辛いつわり、子育てに明け暮れ、孤独や寂しさ、義務感にかられ、それは息の詰まりそうな感覚でもあると思うのです。


真名は修一郎と14歳で出会い、静かに関係を築いていきます。

話半ばまでは、一途な恋物語のように感じるのですが、それは受難へと変化していくのです。

それは2人が結ばれ妊娠し、子供が産まれるに至るのですが、修一郎は残業の日々が続き、2人の会話はほぼなくなってしまいます。

一方の真名は子育てに疲れ果て、母がよく作っていた「豆スープ」をじっくりと煮ることに没頭します。それでも赤ん坊は泣きじゃくり、大好きな音楽を聞き、赤ん坊が静かに眠る。

とにかく、一曲。一曲聞くことができさえすれば道が開けるような気がした。力を得られる。この無間から抜け出せる、と私は思う。赤ん坊を忘れて、一曲分だけ時間を止めよう。そうして、これからのことを考えよう。

そして真名は深い眠りにつく…。

真名も疲れているんだね…。

と言う修一郎。


毎日帰りの遅い修一郎に対して「浮気なのでは?」と言う憶測も飛ぶかもしれませんが、話を読んでいく中で修一郎はそんな人ではないと私は思うのです。

真名は修一郎に対し「育児手伝ってよ」とは一言も言いません。修一郎も「ご飯くらい作れよ」なんてことも言いません。2人は聡明なのです。お互いの状況が分かっているからこそ、言い出せずにいたのかもしれません。

2人は聡明でありながらも不器用なのかもしれません…。


最後の一文の「修ちゃんの話って、なんだろう」は読者の不安を仰ぎます。しかし私は、今後2人が一緒にご飯を食べて毎日コミュニケーションを取り、良い関係を取り戻していくだろうと思っています。


淡々としているのにも関わらず、しっかりとした話の構成は、読者を惹きつけるものがあります。タイトル通り「静か」に話が展開され、その世界観(2人の世界)に深く入り込むを許されたような、そんな作品です。

私は『日につなぐ』がとても好きでした。

最終的にはサスペンス要素も含み、少し不安の残る終わり方ではありましたが、"記憶"が作る物語と、"今という瞬間"に目を向けることのできる作品でした。

気になる方はぜひ調べてみてください。

『静かな雨』はなんと映画化もしています。そちらもぜひチェックしてみましょう♪



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