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『メイド・イン・バングラデシュ』のフェミニズム

 「メイド・イン・バングラデシュ」を観た。自分の人生にとって大切な五指に入れたい映画だ。
 バングラデシュの首都ダカで2013年にラナ・プラザが崩落し、1138が死亡、2500人以上が負傷した大事故が起きた。国の一大産業である縫製業の工場で働いていた工員たちが陸続と犠牲になった。

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 日々ミシンでTシャツをつくる23歳の主人公のシムは、事故後に給料と残業代の支払いが滞ったことを抗議するも、相手にされない。その途上、労働者の権利を擁護(advocate)するNGOの職員の女性と邂逅し、職業組合の結成を決心する。か細い声をもち、職なしの夫を養う女性が、はじめは滞納する家賃とお米も切らすような(バングラデシュ人のコメの消費量は世界一であることを推して知るべし)食費をまかなうために、謝礼をもらいに行っただけだった。しかし、シムは事故死した同僚の母親(事故死者の遺族のカメオ出演?)に、NGOのオフィスで再会し、無言で抱きつかれたことから、徐々に不退転の主体性を獲得する。生来の勉強熱心さに火がついて、バングラデシュの労働法を熟読し、同僚たちに組合結成の署名を呼びかける。

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 しかし、結成には実にさまざまな障碍が立ちはだかった。組合の結成を恫喝する工場長たち。夫の理解もまったく得られない。家主は家庭を守れと説教する。連帯してくれた同僚たちも、一人は荷物検査で組合蹶起のビラが見つかって即刻解雇される。もう一人は妻子ある工場の幹部と横恋慕して職場での逢瀬が発覚するが、男の罪は問われることなく、解雇される。街娼に身をやつす姿があとで見つかる。夫は職を得たことで、シムに仕事も組合長もやめさせようとさえする。残る同僚たちもシムを責める。四面楚歌に陥ったシムはなおも同僚たちの賠償金や復職を獲得しようと、3割の署名をたずさえて、書類がうず高く積もる労働省のオフィスに赴く。しかし、待てど暮せど、何週間待っても、承認の返答がない。何度通っても袖にされる。そこでシムはとうとう...

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 わたしは2012年にボーイスカウトの仲間たちと、砒素中毒にあえぐ人びとの支援を実施するために、バングラデシュに行ったことがある。その途次に首都ダカにも滞在した。世界一の人口密度がまいあげる塵埃と熱気、リキシャのベル、車の轟音とクラクション。帰国後に起きた崩落事故で心をいため、バングラデシュへの開発支援をその後途絶えさせてしまった無念を思いだした。
 後期のオリヴェイラやアケルマンらのカメラを担った、サビーヌ・ランスランが、女性たちが着るカラフルなサリー、1日1650枚縫いあげる工場のTシャツの生地、そして首都をとりまく異様なエネルギーを正確かつ大胆に余すところなく撮っている。毎年雨季に季節性洪水に悩まされる首都にそこかしこにたまる水たまりにはネオンが反射する。早朝、外で蚊帳を広げて寝るリキシャの俥夫(しゃふ)のあいまを工員たちが通るシーンに眼をみはった。実際の女性の話をモデルにした映画であり、不条理なニュースがつづく日々の天荒を破った快挙をまのあたりにして、感慨は無量に深かった。

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 今年1月から2月に開催された岩波ホールのジョージア映画祭にすべてのプログラムを観ようと通っていたとき、『メイド・イン・バングラデシュ』の予告編が決まって流れていた。そこに挿入される歌を耳コピして口ずさんだものだった。この歌はミラ・イスラーム(Mila Islam)の「JATRABLA」という歌だそうだ。
 きょうの横浜シネマリンの上映後、『タゴール・ソングス』を監督し、その後同名の本を出版した佐々木美佳さんがアフタートークにいらしてくださった。文筆業も手がかける佐々木さんの解説は簡勁、的確で、バングラデシュのことを調べ漁った日々がよみがえった。ルバイヤット・ホセイン監督のフィルモグラフィーや、モデルとなったダリア・アクテルさんのインタヴュー動画のベンガル語を通訳しながら解説してくださった。いてもたってもいられず、ふたつ質問をした。Q1シェイク・ハシナ首相は女性だが、バングラデシュにはフェミニズム運動はあるのか。Q2イスラーム文化が女性に抑圧的な部分がある。では、タゴールやバウルといったベンガル文化には女性たちを奮起(empower)させるようなものはあるか。

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 トランスジェンダーの女性がキャスターになった事例が話題になったことを触れつつも、困難な情勢であることを説明してくださった。だが、佐々木さんはバングラデシュを「NGOのメッカ」と称揚して、アーロン(Aarong)のことを紹介してくださった。マイクロファイナンスで名を挙げたグラミン銀行にならぶNGOであるBRAC(バングラデシュ地方開発委員会)が経営するアーロンというショッピングモールは、多数の洗練されたアパレルブランドが並んでいる。しかし、BRACはブランドの売上によって12万人もの人数を雇用し、同時に、NGOを自主予算で運営する。

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 「そうだ、NGOをつくればいいんだ...!」政府がたよりにならず、県や財団の助成金は雀の涙ほどしか得られず、それでいて開発支援の無念を晴らしたいならば、自主予算をかちとりながら自分たちの理念を実現させるNGOを結成すればいいんだ...!
 暗雲が晴れたような気分だ。

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