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「賃労働と資本」経済成長は誰の為のものなのか

友人から薦められて読んだ時は理解するのに難しく感じる一方で面白さも感じていた。
本を返した後もその面白さを忘れられなくて、自分でも購入して繰り返し読んでいるのが「賃労働と資本」だ。

繰り返し読んでも、自分の能力ではなかなか理解が進まない書籍ではあるが、いま時点で分かった(つもり)ものを吐き出してみようと思う。

蛇足になるが、本書は労働者のための講義から成り立っているらしいのだが、ハウツー本/ノウハウ本に溢れた現代人(自分含む)にとって難解に感じる内容であることが皮肉に感じられた。


労賃とは何か

労賃とは資本家に買われた「労働力の価格」であり、また賃労働者にとっては必要な生活手段を得るために売る価格である。

資本家は生産に必要な用具として労働力を買い取り、それを使って利潤を生む。決して生産物の分け前として労賃をもらっている誤解をもたないよう注意されたい。

労働力の価格決定のメカニズムについて以下3点が紹介されている。
①「労働者の繁殖費」+「生存に必要な生活費」
②必要な労働者であるために必要な育成コスト及び維持コスト
③資本増大と科学的/技術的な進歩

①について「名目労賃」(額面)と「現実労賃」(物価)を考える必要があり、例えば「名目賃金」の上昇以上に「生存に必要な生活費」が急速に上昇すると「現実労賃」は相対的に減少したことになる。

②と③については、技術革新によって一人あたりの生産性を向上させること、完成されたマニュアルやオペレーション等によって育成コストを下げること、これらはいずれも労賃の低下を促すことになる。
なぜなら、予め資本家との契約された1日の労働時間の中で労賃を賄う時間が短縮され、資本家に利潤(資本)を贈呈する時間が多くなるからである。
その結果、利潤の拡大と同じ比率で労賃が増えなければ、労賃は相対的に減少したことになる。


賃労働者と資本家

賃労働者は労働力を資本家に売ることで労賃を得る。得た労賃は「生存に必要な生活費」と「労働者の繁殖費」に消費され、その一部や新たな労働力が資本家に還元される。

一方で資本家は、自分の生活手段と交換して労働力を得る。労働力から産まれる生産的活動や創造的力によって、「生存に必要な生活費」と「労働者の繁殖費」の他に、貴重な再生産的力、つまり資本を蓄積することができる。

資本家は賃労働者がいなければ生産的活動をすることができず、賃労働者は賃労働者であり続ける限り資本家に依存する関係である。


経済成長とその先について

全世界市場におけるこの熱病的な激動を同時に考えてみれば、資本の増大、蓄積および集積の結果は、不断の・あわただしい・たえずますます大規模に行われる・分業、新機械の使用、および旧機械の完成、となるということが分かる。(P79より)

市場競争は、資本家に従来よりも安い価格で大量に生産することを促し、労働の分業化、簡単化、機械化が進む。
これまで熟練労働者や技術者のものだった仕事は、未熟練労働者や非技術者に行き渡るようになり、男性だけでなく女性を、大人だけでなく子供を労働者たらしめる。
そして、さらに分業化/機械化が進めば進むほど、労賃は下落し、それを従来よりも多くの賃労働者で分け合うもしくは競争することになる。
賃労働者は労賃の下落を防ぐために、時間あたりの生産性を上げたり長時間労働することで労賃額を維持しようとするが、結果、相対的に労賃額は減少する。

経済成長は絶対必要である。なぜ?
豊かさの指標だからだ。豊かさとは?

例え賃労働者が豊かになったとして高いマンションに住んだり、高級ブランドを好きなように買えるようになったとして、資本家は同程度以上に急速な発展を経て豪華な自宅、豪勢な生活を手に入れている。
現代はSNS等でその差を見せつけられ、そのような生活を得ようと、不満や不快感を募らせつつも、一生懸命働いて資本家への依存度を高めていく。それを繰り返し続けているように思える。

経済成長や競争社会の先には何があるのだろうか?
何の為、誰の為に必要なものなのだろうか?
私たちは豊かさの定義について改めて考え直さなければいけないのではないだろうか?

資本主義という巨大なシステムから逃れることができないのならば、ただ飲み込まれて数字の奴隷になるのではなく、資本主義とどのように向き合うか、どうやって付き合っていくか、賃労働者としてどのように使いこなすべきか、客観性を常に持っておきたいものである。

(メモ的所感)
・賃労働者は楽して稼ぐことはできるが、稼ぎを増やすことはできない
・新卒一括採用は労賃の相対的減少を促すだけなように思える
・資本家は、賃労働者を使って新たな技術やノウハウを開発/発展させることで複雑な作業を単純化するが、一方でそれが、たとえ意図的でなかったとしても、労賃減少の因子になっていることについて、このループから抜け出すことはできるのだろうか?あまりにも資本に依存しきっている現状で、そのまま受け入れざるを得ない状況は、果たして良いものなのかどうなのか。

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