カフェで「一喝」呪文をつかってみた・・・
某カフェにて空席をさがしてみると、奥のほうに1つあった。
近寄ってみたところ、奥側の席に忍成修吾系(『リリイ・シュシュのすべて』のね)のイヤホン高校生のリュックが大幅にはみ出ていたので、
もしや友達でもくるのかなと思い、念のため、
「ここ、座ってよいですかね?」
と聞く。
すると、容量0になったフラペチーノ系の飲み物を前にした青白イヤホン高校生は昆虫のような眼でこちらをみつつ、イヤホンをしたまま、無言で返事をしない。
幽かに首をかしげているようにもみえるがよくわからないので、
「ここ、座ってよいですかね?」
と再度聞く。
すると幽かに首をかしげているようにもみえるがよくわからないので、
「ここ、座ってよいですかね?」
と、再度聞く。
わたしは、飽き性なのだけど、すべきときの粘着力には自信があるのだ。
すると青イヤホン高校生は、再度口を開かないものの、こちらをみてさきほどよりは幾分首をかしげて、リュックを自分のほうに引き寄せる。
こいつやべーな。
無機質な肌質で、一見カメムシの生まれ変わりのようにも見える彼はどうやらスマフォゲームに夢中になっているようだ。
それもまあこの青イヤホンの自由だよなと思い、そのままにしておきノートPCを開いて1時間。
・・・
Wi-Fiがきれた。
すると、突然、
「クソ!」という罵りとともに、
カツン!と、堅いものを強く机にたたきつける音が聞こえる。
まわりには、8人ほどの客がいて、空気が凍り付く。
全員がこの高校生をチラ見するが目を向けないというよくある大人のパターンだ。
ん、
なにがおきたんだ。
どうやら、青イヤホンの向かいに座っている額の中心に「思慮不足」と書かれているかのような猿顔青年が、スマフォのゲームだかなんだかしらないが、その結果に満足できないようで、盛大にキレている。
まー、一回ぐらいはゆるしてやるか。
・・・・
すると、2分後。
猿顔が、
先ほど×3倍の音量で、
「クソ!マジふざけんなよ!クソがぁ!」といって、スマフォをテーブルにたたきつける。
かなり大きい音が響く。
こいつ液晶われるぞ、むしろ、てめーがクソだろ。馬路で。
と、一瞬思いながらも、こういった猿にはモノを大事にするとかわからないんだろうな。もちろん周りに配慮するとかは1mmもわからんのだよね。と思うにいたる。
以前、隣り街のカフェで、「ちん〇・〇んこ・ちん〇・〇んこ・・・」という謎の呪文を延々大声で唱えていた中学生を注意するか迷っていたときに、どこかの兄さんが、見事一喝していたのを思い出す。
今回、これはわたしの出番なのかもな。
平時は猫背の背筋が妙にシャキッとし、昇竜のよう突き上げるチャクラの力。
瞳孔がひらくのを感じ、
低めの声で、
「てめーら、いい加減にしろよこのやろう。ひとの迷惑だろ、このクソが!」
と、一喝する。
最近落語が好きなので、
このクソが!
の手前に、意図的に間をおいて、強調したつもりだ。
するとどうだろう。
この猿顔はこちらも見ず、相変わらずスマフォをいじっている。
親の顔をみてみたいよという事案まったなしである。
青イヤホンも猿面に追従して鹿十を決め込もうとしているが、動揺が隠し切れないようだ。
ここで、わたしの中に、猿にベンサン履きの足でかかと落としをくれてやりたい気持ちが高まる。
わたしは、彼らの席に歩み寄り、距離を詰める。
「なあ、おい、まわりの人の迷惑になることはやるな、わかったか?」
わかったか?
の前には間を置いた。
「さもないと」
とはいわなかった。
なんと、猿顔はスルーである。
このクソ猿、なかなかやるな。わたしの球を打ち返さないとは。
「謙虚になれよ!」と一喝しつつ、盛大にはり倒してやりたいものだが、ここは我慢だ。落ち着くんだ。
そうおもって、一転、ターゲットを多少知性がありそうな青イヤホン君に切り替える。
「おい、君の友達が迷惑をかけているのを、君はみてみぬふりをするんか」
といって情動策に変更する。我ながらスマートだ。
青イヤホンに知性や倫理観が金魚ほど備わっていれば、ここで、
「すみませんでした」
「うむ。気をつけてね。まわりの人もいるんだからさ」
で、終わるパターン。
が、この青イヤホンが、おびえた目をしながらも、口はわらい顔をしようとがんばり、こういう。
「え?なんで僕に言うんですか。僕は関係ないですよ」
あ、そっちか。上祐系な。なるほどね。ロジック系ね。
ほーん。ならば、ロジックが通用しないステージまでもっていってやるぜ。
「うるせえよ。黙れこの野郎。お前の友達だろ。ちゃんと面倒みろよ」
これはあれだ。
求める回答をしてこなかったら、毎度、
「うるせえよ。黙れこの野郎」
「うるせえよ。黙れこの野郎」
「うるせえよ。黙れこの野郎」
「うるせえよ。黙れこの野郎」
「うるせえよ。黙れこの野郎」
と、∞ループで返し続ける技だ。
これまでの人生で何度つかったか、この手を。
・・・
すると、青上祐は、
「な、なんで僕に言うんですか。ぼ、僕は関係ないですよ。ちょ、直接いってください」といい、おびえた目で、口はいびつに笑う。
ああ、埒があかないな。みなさん、もうよいですかね。よいですよね。
しかたない。
最終ターンだ。もう君たちに残されたターンはない。
わたしは、最終呪文を唱えた。
・・・
「てめーらぶち殺すぞ」
この詠唱を分解すると、
「て・め・え・ら・ぶ・ち・こ・ろ・す・ぞ」
という具合である。
要は、いうことをきかないと、ぶちのめして殺すぞという意味合いである。
では、じっさい、ぶって殺すのかというと、そんなことをするとこの世界では警察官に捕まって臭い飯を食べるという悲しい結末をむかえてしまう。
いうなれば、善良な市民であるわたしは、ぶっ殺してやるぐらいの気迫でこの青イヤホンに迫ってみたのだ。
体当たりサンダーロードである。
俺の胸に、どんとこい。
・・・
が、
猿顔はこちらの顔も見ず、荷物をたたんでリュックにいれ足早に席をたつ。それをみた青イヤホンも流れで出ていく。
途中、
となりのとなりの紳士系のおじいさんが、
「君らはどこの高校だね?」
と、聞くが、その答えに猿と青は返答しないで店外に消えていった。
おじいさんも説教欲がわいてきたのだろう。ジャスティスである。いいぞ、もっとやれ。
「君らはどこの高校だね?」
たしかに、そのマウンティング呪文も、一般学生にはよく効くということで有名である。退学とか停学とかあるしね。
ここで追っていって、追いガツオじゃなくて、追い説教でこの世界の怖さを魂に刻んでやろうか、死神の用心棒とはわたしのことだよ。
と思ったが、無事カフェの平穏は取り戻されみなさんの会話も戻ったのでまあよいかと思った。
すると、
やがて、退店するのだろうおじいさんが立ち上がって出口とは反対のわたしの席まで来て、
「いやー、さっきは、高校生を注意してくださり、ありがとうございました。まったくほんとなにしてたんでしょうね彼らは。ほんとうにありがとうございました」
と、おっしゃる。
わたしは、
「いやはや、すみませんでした」と、
もはや何に謝っているのだかわからないんだけど、一応すみませんでしたといい、最後の呪文、
「てめーらぶち殺すぞ」
のスペルと、その響きを想い出して、アイスコーヒーを一口含む。
混じりっ気のない、ジャスティスの味がした。
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