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イラっときたら乳酸菌

 妊娠すると性格が「ギャーッ」てなるよ、と言われてきた。ギャー。もうちょっと語彙力を駆使してくれと思うけど、要は攻撃的になるらしい。お腹の赤ちゃんを守らなくてはならないから、周囲の他者に敏感になる……そういうことはあると思う。
 
 と言いつつ、自分の性格は妊娠してからもあまり変わってない。もしいま攻撃的になっているとしたら、それはもう元からそうなんだろう。胎児に身体が翻弄されるのはわかるけど、実はメンタルへの影響はそれほど感じない。
 
 なんでかなあと思っていたら、ふと冷蔵庫にあるヤクルトが浮かんだ。家に常備されていて、自分が飲むのがヤクルト、旦那さんはピルクル。中でも「ピルクルミラクルケア」を愛飲している。
 
 パッケージの言葉を信じれば、睡眠の質が上がり疲労感が軽くなるというミラクルケア。旦那さんはいつだったか、帰宅するなりこれを飲んで言っていた。
「確かに利く気がするわ。若干ストレスが緩和される」
 あーこれかもな、と思う。
 
 むかし肌荒れを起こしたとき、ヤクルトが肌にいいと聞いて飲み始めた。それまでは皮膚科でしょっちゅう薬をもらっていたのに、それ以来、荒れがピタリと止んだ。それでずっと飲んでいたのけど、もしかしたらメンタルにも利くのかもしれない。
 
 職場が本社に移ってからは、ヤクルトレディが毎日のように職場に来る。それでよくヤクルト1000を買う。この間はたまたま買えなかった日があって、めずらしく乳酸菌抜きの午後を過ごすことになった。なんだかイライラした。
 
 「この仕事がんばって、どれくらい給料上がるもんなの?」「なんでこんなんしなきゃいけないの?」。特に仕事量が増えたわけでもないのに、気持ちが荒んでくる。
 
 どうにか持ち直す必要があると思い、気分転換にコンビニに行った。97円のヤクルトV(ファイブ)があったので買う。デスクに戻ってから飲むと、苛立ちはゆるゆると納まっていった。あとは普通に仕事をする。
 
 乳酸菌はひょっとしたらイライラに利くんだろうか。検索してみたら、ヤクルト1000に関しては「一時的なストレス緩和」が認められているらしい。それを狙って飲んでいたわけではないけど、効果はあったのかもしれない。
 
 別に「だから妊娠中はヤクルト!」と宣伝したいわけではない。気持ちが荒むことと腸の状態には、なんかしら関係があるかもね……と思うだけだ。これがヨーグルトでも、同じような効果が出るんだろうか。仕事中に食べる気にはならないけど。
 
 なんてことがあってからは、お守りのようにヤクルトを飲んでいる。肌はずっと荒れてない。職場に来るヤクルトさんが「食後に飲んでいただくと効果抜群です!」と言うので、社食で昼ご飯にしたあとは、だいたいヤクルト1000で締める。
 
 上司からは「それほぼ毎日買ってるけど、なんかいいことあるの?」と訊かれたから「よく眠れるようになって……お肌がきれいになります」と答えた。上司は笑いながら「それは飲む価値があるね」と去って行く。
 
 「ついでにストレスにも利きます、一本いかがですか?」と言えたら、1本分くらい売り上げに貢献できたかもしれない。そこまでのサービス精神はなかったので、自分ひとりで飲んでいる。
 
 人間はつくづく、身体に縛り付けられてる。そんなことを思う。だから体を整えないと、なかなかメンタルもついてこない。
 
 おいしいものを食べ、ジャンクなものは避け、タバコとお酒を控えて……なんていうあたりまえに健康的な暮らしは、体にいいだけじゃないんだろうな。そういえば「健康」の定義って、身体だけじゃなくメンタルの安定も入ってたっけ。
 
 そういうわけで、イラっときたら乳酸菌。妊娠中もそうでないときも、お守り代わりの乳酸菌。

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本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。